国立大学職員日記
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国立大学職員日記:記事一覧




■はじめに
 以前に「人事院「平成23年4月1日に43歳未満なら1号俸あげるよ」」のエントリーでお伝えしていたとおり、平成23年4月1日に1号俸の昇給が行われることになりました。今回はその内容及び、関連する項目についてのエントリーです。

■実施内容
 まず具体的にどんなことが行われるかの説明です。





 号俸の調整が実施されるのは「平成23年4月1日」ですが、自分の大学ではこれに伴う発令通知書などは作成されず、単に4月の給与明細で1号俸昇給させたことを伝えるだけだそうです。全国立大学で共通の処理かどうかは分かりませんが、同じ処理をされる大学も恐らく多いと思います。
 発令内容は一応「昇給の調整」という名目です。実質的には「平成23年4月1日に1号俸昇給する」と捉えてもらって問題ないのですが、全職員を対象とはしていない点や、号俸が4号俸に満たないことからすると、通常の「昇給」とは明確に区別されるため、厳密にはやはり「号俸の調整」と位置づけるのが適当です。
 対象者の「平成23年4月1日時点で43歳未満の職員」とは要するに「昭和43年4月2日以降に生まれた職員」のことです。「なぜ年齢制限があるのか」「対象者の条件になぜ『平成22年1月1日に昇給した職員』が入っているのか」などを不思議に思う方もいるかも知れません。この点については次章と質疑応答の部分にて後述いたします。
 対象者の2は、いわゆる新規採用者についてのものです。「なぜ平成22年1月1日に昇給していない新規採用者も昇給の対象になるか」という点についても後述いたします。
 除外者については、特に難しい点はないと思います。「最高号俸」とは俸給表におけるその級の最も高い号俸であり、事務職員であればその最高号俸は下の図のとおりとなります(号俸について「国立大学法人京都大学教職員給与規程の一般職俸給表(一)」を参照)。この点について、かつては最高号俸を超えて行われる「枠外昇給」というものもあったのですが、近年の給与構造改革においてこれは既に廃止されています。そのため、今回の昇給においても、最高号俸を超える昇給は出来ない訳です。





■今回の昇給についての背景事情
 そもそもなぜ「平成23年4月1日」に「若年・中堅層」が「1号俸だけ昇給」するのか、という疑問については、やや込み入った説明が必要となります。
 ことの発端は「平成17年の人事院勧告」により打ち出された公務員の給与構造改革にあります。この改革において、国家公務員の給与は平均して4.8%引き下げられることが決定しました。しかし、いきなり4.8%も給与を減らしてしまうと、何かと問題が出るため、人事院は「経過措置」を設けて、給与引下げが行われた後も給与構造改革が開始される前日の「平成18年3月31日」の給与を保障することとしました(下図(1)参照)。とは言え、この経過措置を行うための財源はかなりの額に上るため、実施するために必要な財源をどう捻出するかという問題が起こりました。その解決のために行われたのが「昇給抑制措置」です。具体的には通常「4号俸」昇給するところを「3号俸」に引下げ、浮いた「1号俸」分の財源をこの経過措置にまわしたのです。このような措置を、人事院は平成18年度から平成22年度までの4年間(昇給4回分)行いました(下図(2)参照)。
 さて、晴れて給与構造改革が終了した「平成23年4月1日」においては、経過措置にかかる費用も大分少なくなり、これまで経過措置のために使っていた財源に余裕が出てきました。そこで、余った財源を何に使おうかという話になります。この際に「民間に比べると国家公務員の若手の給与が低くなっている」という点に着目し、国家公務員の若年・中堅層の給与の引上げ案が決定されました。このことは「平成22年の人事院勧告」により、平成22年の8月に告示されています(それを受けて自分が作成したのが「人事院「平成23年4月1日に43歳未満なら1号俸あげるよ」」のエントリーです)。






■補足事項や質疑応答
 給与構造改革の全体像の把握はなかなか難しいと思います。この点については平成22年の人事院勧告で示された下記のイメージがとても分かりやすくまとまっているので、ここに転載いたします。


クリックで拡大



 また「昇給抑制措置」そのものについては、以前にエントリーを作成しておりますので、下にリンクを載せます。

昇給抑制期間とは何なのか?


 「昇給抑制を受けていない新規採用者にも適応があるのはなぜか」という疑問については、簡単に答えると「初任給決定において昇給抑制を考慮しているから」ということになります。「初任給決定」と「昇給抑制」の関係については、以前に作成した初任給決定に関するエントリーの中の、特に次のエントリーに詳しく書いておきましたので、そちらを参照ください(「昇給抑制」そのものについても、こちらのエントリーの方が分かりやすいかもしれません)。

国立大学事務職員の初任給計算方法 ~総論4~


 最後に、今回の昇給に関する疑問点を質疑応答形式にして簡単にまとめてみました。

Q.なぜ「平成23年4月1日」に昇給するのか?
A.給与構造改革の回復措置を最も直近の日に行おうとすると、平成23年4月1日になるから。

Q.なぜ「平成22年1月1日に昇給した職員」という要件があるのか?
A.今回の昇給は全職員の給与の「ベースアップ」ではなく、昇給抑制を受けたものへの回復措置だから。

Q.なぜ「若年・中堅層」に限定されているのか?
A.今回の昇給が「民間に比べて給与水準の低い若年・中堅層への回復措置」という位置づけだから。

Q.なぜ「1号俸」なのか?
A.「民間との給与水準の差」及び「経過措置終了に伴う制度改正原資の限界」によるものと思われる。

Q.なぜ新規採用者も対象となるのか?
A.新規採用者の初任給決定において昇給抑制措置が考慮される場合があるから。


■終わりに
 以上、平成23年4月1日に実施される号俸調整に関するエントリーでした。
 分かりやすさを重視してまとめたため、じつは給与構造改革や経過措置保障の説明などはかなり簡略化しています。詳細を知りたい方は人事院の過去の勧告や、あるいは自分の過去エントリーなどを参照してみてください。
 あと、今回の流れを確認するにあたって自分が書いた過去のエントリーがえらく役に立ちました。自分で書いといて何ですが、よくもまぁこんなマイナーな話題をカバーしているもんだと我ながら笑えてくるくらいです。今年度に入って当ブログも6年目となりますが、今後も突発的な話題があってもカバーできるくらいに、マイナーな話題をコツコツと毎月エントリーにまとめて行けたらいいなと思っています。



※平成23年4月14日追記
 「経過措置」が5年間だけ実施される、と書きましたが、経過措置による保障は特に期限を定めず、平成18年3月31日の給与に到達するまで実施される、というのが正答でした。コメント欄で「take」様にご指摘いただき、内容を修正いたしました。「take」様においてはご指摘いただき、どうもありがとうございました。

コメント ( 5 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
はじめまして (take)
2011-04-13 23:07:10
はじめまして。
某大学(旧七帝大学)にて、管理人さんと同じような部署で働いている者です。

いつもブログを拝見させてもらっています。

3年間情報系の部署に在籍後、現在の部署に異動となったのですが、それ以後、このブログを大変参考にさせてもらっています。

号俸の調整作業については大変ではなかったでしょうか。

期間割非抑制職員を洗い出すため、過去の昇給データを確認したり、俸給表の異なる異動をした者の確認等々・・・

ちなみに、私の大学においても同じように、号の調整については発令通知書などは作成せず、単に4月の給与明細で1号俸昇給させたことを伝えます。

本当にお疲れ様でございました。

さて、本エントリーの中で、以下のような記載があったのですが、
-------------------------------
■今回の昇給についての背景事情

人事院は「5年の経過措置」を設けて、この5年間だけは給与構造改革が開始さ
れる前日の「平成18年3月31日」の給与を保障することとしました
-------------------------------

「平成18年3月31日」の給与を保障するのは5年間だけなのでしょうか?

基本給の経過措置については、特に規則上いつまでとは明記されていなかったのですが。。。

何か勘違いをしていたら申し訳ありませんが、いかがでしょうか。

よろしくお願いします。
 
 
 
Re:takeさん (管理人)
2011-04-14 23:36:16
まず「経過措置」の期間について、ご指摘のとおり特に期限を定めないのが正答でした。どうも給与構造改革の期間と保障期間を勘違いしていたようです。つきましては、エントリー本文と図を上記のように修正いたしました。またご指摘いただき、ありがとうございました。

号俸の調整作業についてですが、実は自分は今、大学事務局本部ではなく、部局に在籍しているので、何らも関係していません(そのため、このエントリーも本部からの通知が出るまで作成できませんでした)。どうかtakeさんの労いの言葉は、自分ではなく、自分の大学事務局で死にそうになりながらこの号俸調整作業を行ったKさんに向けていただきますよう、どうかお願いいたします。
 
 
 
Unknown (take)
2011-04-15 12:56:33
早速のコメントどうもありがとうございました。まだまだ分からない事だらけなので、今後ともよろしくお願いします。K様、本当にお疲れ様でございました。
あとは、国家公務員給与5%削減が具体的にどうなるか気になるところですが、とりあえず、ボーナスの作業が終われば一段落といったところだと思います。
お体にはくれぐれもお気をつけ下さい。
 
 
 
昇給にかんして (shin)
2012-03-27 18:02:44
はじめまして、昇給に関してなんですが、大学職員として働いていて、同時に大学院に通い修了し、就職時の学歴から変更になった場合なんらかの昇給や待遇の変化はありますでしょうか?また、それらがある場合どのような手続きをすればよろしいでしょうか?
 
 
 
Re:shinさん (管理人)
2012-03-27 22:33:32
大学教員だったら学位に基づく初任給計算上の昇給はあるかも知れませんが、事務職員なら「大学職員としての勤続年数≧大学院での修学年数」になるので、給与が増加することはないはずです(例えば、大学学部の同期2人がいて、片方が学部卒で大学職員になり、片方が大学職員をやりながら大学院に行って修士号を取ったとしても、2人の給与は変わらない)。

このように給与は変わりませんが、ただ最終学歴は変わり、それが人事記録などに記載されますので、申請自体は行うようにしてください。大学の人事部関係の部署に問い合わせれば、申請書なり学位記の写しの提出方法なりが分かるはずです。
 
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