「おばあちゃんが、倒れた」
母から電話が入ったのは、里佳が仕事に行こうと身支度をしている時のことだった。
里佳が、全くの気まぐれに単身で沖縄へ渡ったのは昨年の秋のことだ。
親戚も友人もいない知らない土地。
生まれ育った東京に飽きてしまったから、という単純な理由に、父も母ももちろん反対したが、それを押し切る形で飛び出した。
おばあちゃんは父の生まれ故郷、名古屋で一人暮らしをしていた。
憧れの沖縄に移り住んだはいいけれど仕事以外の知人もなく、かといって両親に弱音も吐けなかった里佳は、おばあちゃんに手紙を書いた。
「行動力のある里佳を、誇りに思うよ。だけど最後に味方になってくれるのはお母さんだからね、お母さんは大切にしなくちゃいけないよ」
返信にはそうしたためられていた。
それから半年後の3月、里佳の誕生日祝いに添えられたおばあちゃんの手紙には、
「来月あたり、暖かい沖縄にお邪魔するとしますかね」
と書き添えられていた。
里佳は喜んで、贈り物のお礼の手紙に、
「いつでも待ってるよ。空港にも迎えに行きます」
と書いてポストに投函をした。
母から電話が来たのはその翌日だった。
父の妹である早紀子叔母が同じ名古屋市内に住んでいる。
たまたま会う約束をしていたのに、待ち合わせ場所に来ないのを不審に思った叔母がおばあちゃんの家を訪ねて、ベッドに横たわったまま大きなイビキをかいているのを見つけた。
「くも膜下出血」。
飛行機で駆けつけた里佳を含む親族を前に、医師はそう病名を告げた。
手術をしても回復の見込みは低い。
元気だった頃のおばあちゃんが「ぽっくり死にたい」と口癖のように言っていたのを、集まったみんなは覚えていた。
「延命治療は止めよう」。
意識が戻らないおばあちゃんの周りに、遠くに近くに住む子供や孫たちが次々と訪れて、毎日交代で付き添った。
外国に住んでいた孫がようやく帰国してその手を握った3日後、おばあちゃんは静かに息を引き取った。
おばあちゃんの亡骸が家に帰った日、里佳はそっとポストを開けた。
手紙は届けられたまま、ポストの底で眠っていた。
「おばあちゃん、私、ちゃんと幸せになるからね。見守っててね」。
里佳は心の中でつぶやきながら、その手紙を柩に納めたのだった。
母から電話が入ったのは、里佳が仕事に行こうと身支度をしている時のことだった。
里佳が、全くの気まぐれに単身で沖縄へ渡ったのは昨年の秋のことだ。
親戚も友人もいない知らない土地。
生まれ育った東京に飽きてしまったから、という単純な理由に、父も母ももちろん反対したが、それを押し切る形で飛び出した。
おばあちゃんは父の生まれ故郷、名古屋で一人暮らしをしていた。
憧れの沖縄に移り住んだはいいけれど仕事以外の知人もなく、かといって両親に弱音も吐けなかった里佳は、おばあちゃんに手紙を書いた。
「行動力のある里佳を、誇りに思うよ。だけど最後に味方になってくれるのはお母さんだからね、お母さんは大切にしなくちゃいけないよ」
返信にはそうしたためられていた。
それから半年後の3月、里佳の誕生日祝いに添えられたおばあちゃんの手紙には、
「来月あたり、暖かい沖縄にお邪魔するとしますかね」
と書き添えられていた。
里佳は喜んで、贈り物のお礼の手紙に、
「いつでも待ってるよ。空港にも迎えに行きます」
と書いてポストに投函をした。
母から電話が来たのはその翌日だった。
父の妹である早紀子叔母が同じ名古屋市内に住んでいる。
たまたま会う約束をしていたのに、待ち合わせ場所に来ないのを不審に思った叔母がおばあちゃんの家を訪ねて、ベッドに横たわったまま大きなイビキをかいているのを見つけた。
「くも膜下出血」。
飛行機で駆けつけた里佳を含む親族を前に、医師はそう病名を告げた。
手術をしても回復の見込みは低い。
元気だった頃のおばあちゃんが「ぽっくり死にたい」と口癖のように言っていたのを、集まったみんなは覚えていた。
「延命治療は止めよう」。
意識が戻らないおばあちゃんの周りに、遠くに近くに住む子供や孫たちが次々と訪れて、毎日交代で付き添った。
外国に住んでいた孫がようやく帰国してその手を握った3日後、おばあちゃんは静かに息を引き取った。
おばあちゃんの亡骸が家に帰った日、里佳はそっとポストを開けた。
手紙は届けられたまま、ポストの底で眠っていた。
「おばあちゃん、私、ちゃんと幸せになるからね。見守っててね」。
里佳は心の中でつぶやきながら、その手紙を柩に納めたのだった。