「あい」の風景画

短いものがたり、そしてふぉとに添えた言葉たち

仕事仲間

2006年02月07日 | 闇色のスケッチ
私と美紀は合わなかったのかもしれない。
こず枝は美紀のことを思い出すたびにそう感じる。
こず枝のバイト先である全国チェーンのドラッグストアに美紀が入ってきたとき、彼女の第一印象はあまり良くなかった。
美人で悪い子ではなさそうだったが、自分のことばかり話したがるのが気になった。
それでも同じ化粧品売り場の担当になって仕事を教えてみると飲み込みは悪くなく、仕事後に一緒にご飯を食べに行くなど仲良くなれたようにこず枝は思っていた。
バイトの中では26歳のこず枝は年かさのほうだった。
大概が学生バイトで、美紀のようなフリーターでも20歳そこそこという子が多い。
こず枝は年下の子たちともまあまあ仲良くやっていると感じていたが、23歳と、より年が近くて社交的な美紀は、入って間もなく他部門や社員も含めたみんなと親しくなっていた。
たまにしか来ない本部の社員とも、先にいた自分より親しげに話すのを見て、こず枝は落ち着かない気持ちにさせられることもたびたびだった。
こず枝がもうひとつ、美紀のことで気になることがあった。
それは美紀が気分屋だということだ。
調子のいいときには熱心に仕事をするのに、前日に遊びすぎて疲れていたり気分が乗っていなかったりすると、平気で売り場を抜け出して休憩をしている。
他の子たちは彼女のいない場所でそのことに文句を言うが、面と向かっては言わない。
社員ですら見て見ぬ振りをするのが、こず枝には余計に腹立たしかった。
かといってこず枝が注意をすれば、美紀は「与えられた仕事はきちんとしている」と胸を張る。
そしてついに、転勤して来たストアマネージャーと付き合うようになってからは、お店は彼女の天下のようになってしまった。
美紀自身のことは、なんだかんだ言っても嫌いにはなれずにいたこず枝だが、新しいストマネのやり方や考え方はどうしても納得がいかない。
美紀の彼氏でなかったら、口も利きたくないくらいだ。
そんな状態が半年ほど続いて、ストマネに再び転勤辞令が出て、美紀もそれについていくことになりこず枝のいる店を去った。
転勤した美紀からは、時々思い出したようにメールが来る。
けれども他の子のところに来るように、電話がかかってきたりはしない。
私が彼女とどこか合わないと違和感を感じ続けて来たように、彼女も自分を本当に頼りにしていたわけではないのだろう、とこず枝は思う。