まだ赤ん坊の妹は泣き声すらあげずに、ぼんやりと薄目を開けたまま眠っている。
枯れ木のように腕の細い彼女の唯一生きている証は、膨らんだ腹部がわずかに上下し続けていることだけだった。
ざらっとした風が一瞬吹き過ぎて、開け放したテントの入り口から細長い葉が舞いこんできた。
少年はひざを固く抱いていた腕をほどいて手を伸ばし、その葉を指先で摘み上げた。
それはキャンプ地のあちこちに細々と生えている雑草の切れ端だった。
ふちのほうから茶色く乾いて、中心部が申し訳程度に緑を残している。
少年は機械的にそれを口の中に押し込んだが、口の中のいやな感触に気付いてすぐに吐き出した。
そんな葉が食べられるはずもないことくらい、学校に通っていない彼でもよく知っていた。
目を開けたまま横たわっていた弟が、少年の吐き出した物に気がついてすっと手を伸ばしたが、少年はその手を力なく叩いてそれを制した。
弟は砂埃にまみれた手をノロノロと戻すとまた黙って空中を見つめた。
黒い大きなハエが耳障りな音を立てて、眠っている赤ん坊の腹に止まった。