九重自然史研究所便り

昆虫採集と観察のすすめ

滋賀県高島市の山中で撮影したスカシサン(カイコガ科)の雌雄

2017-05-25 22:16:15 | 日記
滋賀県高島市の山中で撮影したスカシサン(カイコガ科)の雌雄
 京都の塚越さん、真田さんに誘われて、憧れの高島市の山を探索できた。海抜600m程度の山であるが、ブナ林がある冷温帯林である。飛び出してきた成虫の写真を撮ったのはスカシサンPrimosticta hyalinataである。写真上は♂、下は♀である。これは大分県九重町でももちろん採れるし、幼虫も飼育した。まだ慣れないカメラなので、ちょっとぼやけているが、これでも高島市山中に分布する証拠として十分だろう。♂の方は3人でシャクガ科かなと思ったスカシサン♂だった。調査日2017年5月21日午後である。森林は鈴鹿山系と違うようである。なお食樹はサワフタギ、タンナサワフタギである。

ウマノオバチの不思議

2017-05-25 18:57:23 | 日記

ウマノオバチの不思議
昆虫愛好家は誰でも自分の目でじっくり、生きているその虫を観察したい憧れの虫がある。私にとってウマノオバチはその一つである。私は九重昆虫記第2巻102~103ページに同じ題名の記事を書いた。私がこのハチを知ったのは小学校低学年の頃、横山桐雄著「蟲の絵物語」(1926、文芸春秋社)を通じてだった。その本にはウマノオバチ雌雄の図があった。横山博士は書物にはその長い産卵管の先端をカミキリムシの幼虫が作った穴に差し込み産卵すると書かれているが、誰も実際に見たことがないらしいと書いている。それでもウマノオバチの記事を書いた虫屋たちは尾の先端をカミキリムシ幼虫にくっつけて産卵すると書いている。
私は子供の頃、彦根城の枯れ木でカミキリムシなどの穴に産卵管を突き刺し産卵する、産卵管が比較的長いヒメバチ科のオオホシオナガヒメバチ雌の産卵を観察した。その方法は枯れ木のカミキリムシの穴の少し上の産卵管の先端が届く位置近くに止まり、少しずつ後退し、その穴を探りあてるようだった。そのヒメバチ雌の産卵管は、体長と同じぐらいの長さだからその方法で産卵管を穴に突込める。しかし、問題はウマノオバチの産卵管は体長の5倍ぐらいあるから、その長い産卵管を雌が自由自在に操り、その先端を穴に差し入れることは至難のわざである。だから不思議だと書いた。
私の記事を読んだ京都に住む二人の虫屋さんが滋賀県北部でそのハチが時々見られる場所を見つけ、観察を続けて産卵する様子をもう一歩で解明できるところまで漕ぎつけた。私もその現地に同行し、幸いウマノオバチEuurobracon yokohamae(コマユバチ科)の写真を撮り、雌を一つ持ち帰り標本にした。成虫の出現期は4~5月だ。なお絶滅危惧種なので、調査地名は、地元と相談し何らかの保護策ができるまで単に滋賀県北部としておく。
このハチはブナ科植物林(クヌギ、クリなど)の幹に食い込む大害虫シロスジカミキリなどに寄生する益虫である。おそらくブナ科植物の森林ではどこでもウマノオバチとカミキリムシが見られるらしい。滋賀県の調査地点では雄は一度も見られず、雌の産卵行動のみが観察される。
横山博士も他の昆虫学者が長い産卵管の先端を差し込んで産卵すると書いているが、自分の知る限りでは誰もどのように尾の先端を穴に挿入するか見たものがないという。私も子供の頃から「不思議」に思っていたのは、人が長さ10m以上ある曲がりやすいホースの後端を握って、10m先の壁の小さな穴に先端を差し込むことは非常に難しい。だからウマノオバチの異常に長い産卵管を使った産卵は、まだ誰も観察していない特殊な方法があるに違いないと思う。おそらく雌バチはまず穴の中にカミキリムシ幼虫がいることを確かめ、穴に入りその中で脚を使って、産卵管をたぐりよせ穴内に取り込み先端部をカミキリムシ幼虫に直接卵を産みつけるのか、あるいはその穴の内部に複数の卵を産み、孵化した幼虫が自力でカミキリムシ幼虫に食い入るのだろうか。
なお私の写真の産卵管は1本だが、大分昆虫同好会「二豊のむし」No.44,( 2006)の表紙の写真は、産卵管が3本に分かれている。実はU字型の鞘が2本でその真ん中に真の管が通っており、ウマノオバチの雌は、3つがくっついて1本として機能する。なお加賀玲子(2009)ウマノオバチの一産卵行動、月刊むし、No. 460, 26-27.という文献が今はその号は手元にない。