「戦慄!!伝説のカッパ男とピラニア・イカ女」
前書き:
僕は見た!この話は僕の記憶の中では、あますところなく絶対的に真実であるが記憶が間違っている。あるいは記憶というものが変形を避けられぬものであるならば、これは、デタラメである。
これが真実であるという証拠は何もないのだ。あらゆるものに証拠などというものは無い。僕たちは記憶と瞬間に知覚したものだけに頼って生きているのだ。
僕は僕の記憶を信じるしかないし、他人の同意を得て、記憶を確認するしかないのだ。まあ、この話は僕が探偵気分で、ある男を尾行していて偶然に見てしまった僕だけの記憶だ。
僕たちは、とても不確かな世界に生きている。しかし、避ける事はできない。
再度、繰り返すが、この話は全て実際に起こった事であり、僕は、この目で見た!出来事の因果関係を、今さら探る事は不可能だし、無意味なのだ。すでに過ぎてしまった事だ。
話は一人称形式を用いた。
前書き:終わり。
私は、酔いつぶれていた。
あちこちで、ずいぶんゲロを吐き、終電車に、ようやく間に合い、ベットリとしたシートの上で、死体のようになった。
世界が、不規則に、狂ったように、ネバネバと私にへばりつき、私を持ち上げて、猛スピードで振り回していた。
ぐるぐる、ぐるぐる。ぼわん、ぼわん。
私は目を閉じて、じっと、フニャフニャだらだらの死体状態でいるのに耐えきれず、幾度か目を開き、動こうと試みるのだが、それも、相当のグチャグチャな苦痛なのであった。
電車は無情にも激しく揺れ続け、ますます私の苦しみを増大させていく。あああ、まずいな、このままじゃ、と思ったが、もうどうしようもなかった。
私は何故、これ程、飲まねばならないのだろうか、と考えたが、それは、こうなった時に幾度と無く繰り返してきた、分かりきった疑問の一つなのだ。
私は、ぐでんぐでんになるまで、狂ったように飲まずにはいられないのだ。
私の悲しみは絶対矛盾の中にリューマチを患ったワニのように閉じこめられているのだ。
生きていたいが、生きている限り苦しみは絶対に消えさりはしない。私は、私を解決してくれない。
しかも、狂った様に飲んで酔い、その苦痛をやわらげようとしても、深酒する事は逆に、解放をロックしていたんだ。知っている。でも止められないんだ。
もう遅かった。私の身体全体に、細胞一つ一つに、私が二千年間、保ち続け、同時に私に長い終わり無き生命と苦痛を与えてくれている、あの欲望が滲み出てきた。
全身の細胞が、一つ一つ、パリパリと強力な硬度を、得て、活性化していった。物凄いスピードでね。長くはかからないんだ。
血管がうねり、筋肉が無数のミミズのように脈打ち、いよいよ色素が緑化していく。
同時にメロメロ・ぐちゃぐちゃ状態だった酔いのもたらす苦しみは、プチプチ、プチプチと心身共に泡のように、消え去っていき、完全にどこかへ去ってしまう。
そして私はベストコンディションになる。ベストコンディションに。けけけ。
かぱこぽけぺ。
まず頭の方がスッキリした。私は、ソフトコンタクトレンズをはずして、姿勢を正し、車内の人間共を物色し始めた。
どうやら、まともに喰えそうな奴はいないようだった。みんな不味そうだ。美味しい人間は、いないかなぁ~。
私は適当に停車したところで、終電を降りた。メタモルファーは私の心臓から始まり、全身にくまなく行き渡るまでには、一時間はかかる。
私の口から、ごく自然に「かぱこぽけぺ」と声が出れば、それはもう完全体。
私の顔・等は、まだ人間に近いものだったし、ダボッとしたスーツから、私のそろそろ甲羅が背中に現れた体型を見抜く事は、まだ、まず不可能だった。
私はすました顔をして改札を通り過ぎ、その駅前のターミナルの片隅に突っ立って、餌食を探した。
ふと、考えて見ると今の電車は終電だったので、降車客は、これで最後だったのだ。上りの電車は、すでに無くなっていたし…。
よって、あまり選り好みのできる状況では無かったのだ。ちっ、さっき電車の中で誰かに目を付けておけば良かった。
なんて悔やむ間もなく、私はすぐに、風俗系の臭いのぷんぷんする女に目を付けた。
どう見ても、30才は越えていそうだった。茶色に染めた腰までとどきそうなロングヘアに、濃い頬紅に、そして真っ赤なコート。そして真っ赤なコートからのぞく茶のパンツに赤いハイヒール。ちぐはぐな黒いシャネルのハンドバッグ。
まあ、いいや。けけけ。今夜は、この女でいこう!かぱこぽ...。
私は、気づかれぬように、こっそりと女の後をつけて行った。うまい具合に彼女は、どんどんと、人気の無い路地へと歩いていく。コツコツとヒールの音を響かせながら。
彼女が誰もいない深夜の児童公園横の細道に入った時、私は月に吠えた。
「かっぱこっぽけっぺぇぇ~!」
そう、ついに私は完全かっぱ男に変身したのだ!
私の吠え声は夜空に轟いた。しかし、彼女は後ろ向きのまま進行方向を変えて、深夜の児童公園に自ら早足で入っていくではないか!
思うつぼだ。思うつぼだ。何て、おばかな女だ。目撃者0だ。ここなら悲鳴も聞こえやしない。けけけ。砂場に倒して骨まで、ガリガリ喰ってあげるよ~だ。
あれれ、私の望み通りに、その女は砂場のど真ん中に立ち止まって後ろ姿で月光を浴びてらぁ。もう、これ以上のチャンスは、あるめいにぃ~って。
私は興奮し、スーツもシャツも下着も、脱ぎ捨て、頭にお皿、背中に甲羅、全身緑の鱗を光らせて、
「いっただっきま~す!カッパ・ガイだよ~!カパコポケペー!」
と、雄叫びをあげ、大きな牙の付いたくちばしを開けながら、彼女に向かってダッシュした。
と!その時、彼女が振り向き、ぱぁっとコートを脱いだ。
戦慄!!!が走った!彼女はすでにコートの下に何も着用していなかった。
私の目に映じた彼女の姿は、言語を絶する恐ろしいモノだった。
首から上が、凄まじい形相で、こぶし程もある目を光らせ、耳まで裂けた巨大な口からズラッと並んだ包丁のような牙をのぞかせたピラニア女だった!。
ぎょえぇぇえぇぇえええっ!
首から下は銀色につやつや光る、ぬめぬめとした肌をくねらせ、十本の足をバタバタとのたうち回らせているイカ女だった。
唖然としている間に、そのピラニア・イカ女は前の足を数本持ち上げると、尿道やら膣やらから真っ黒なネバネバしたイカ墨を発射した。
イカ墨は私の下半身を直撃し、まるで超強力接着剤みたいに私を地面に貼り付け、動けなくした。
ピラニア・イカ女が、ニヤニヤと巨大な牙を剥きだして近づいてきたが、もう、私は動く気力を失っていた。絶対にかなわない。もう、絶対。
ピラニア・イカ女は、私の目の前まで来ると、ぶくぶくと大量のあぶくを口から垂らしながら、言った。
「あ~らら、今夜、罠にかかったのはカッパ男ちゃんだったのね!うれちぃ~!今夜はついてるわぁ~!いっただっきまぁぁぁあああっす!」
そして、ピラニア・イカ女は、チラノザウルス・レックスのように、あんぐりとでかい口を開き、ガブッと私の顔上半分を噛んだ。ぎゃぁああ。
ピラニア・イカ女は、一瞬にして私の顔の上半分を食いちぎり呑み込んだ。残された私の顔下半分からは破裂した水道管から吹き出るように紫色の血が飛んだ!月夜に飛んだ!
私は顔下半分になった状態で、くちばしを大きく開いて最後の絶叫をした!
「オレはナ~イス・カッパ・ガイだよ~!かぱこぽけぺーーーーーーーー!!!!」
次の瞬間に、ピラニア・イカ女が私の顔下半分を、グバッと喰いちぎるのが、わかった。死ぬんだな。やっと。
でも、さぁ、最後に思ったんだよ。かぱこぽ。絶対にかなわない奴に喰い殺されるのって、何だか気持ちがいいなぁ~ってね。そう思うと、私に喰い殺されてきた普通の人間たちも結構満足して死んでいったんじゃないか、と。かぱこぽ。
ああ、終わりだ。二千年。長いカッパ生だった。もう変身の為、酔っぱらって苦しまなくてすむ………。
かぱ………こ………ぽ………け………幕だ。
終
This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)