「これ、あなたにお渡ししたくて。」
私が生まれた家にいた頃のことなので、まだ小学生になるか、ならないか。夜、近所の母の知り合いが訪ねてきて、母に手渡していたのがこのお面。それが誰だったのかの記憶はないが、引っ越しするにあたって、お別れを惜しんで持ってきたもの。当時、それが弥勒菩薩のお面だとは、わかっていなかったが、きれいなお顔だなと子供心に思った。母はそれをいつもどこかに飾っていた。今回、実家を片付けるにあたって我が家に譲り受けることにした。
このお面のせいかどうかは、わからないが、中宮寺の弥勒菩薩は、私の大好きな仏像。これを飾るのにチェストの上を片付けた。毎朝、アルカイックスマイルを真似て、隣に置いてある鏡で確認する。微笑んで一日過ごせますようにと念じながら。(ゆ)