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その1 「ザンギエフという男」

2015年06月10日 23時20分00秒 | 二次創作
中国、ベッドタウンの一角。
一般人で活気付く市場で拳と拳を交える二人の姿があった。

「ハイィイーッ!!」

威勢のいい掛け声と共に繰り出される蹴り。

「ぬぁあッ!?」

チュンリーの蹴りがザンギエフの後頭部にヒットし、
ザンギエフがよろける。

「さすがにタフね」

決め技の百烈脚を出すチュンリー。
その嵐のような蹴りの中を進んでくるザンギエフ。

「取った!!」

掴み、そのまま得意の投げ技へ移行しようと
体位を入れ替えようとした、その時。

「フッ……ハァッ!!」

逆に腕を取られ、きめられていたザンギエフ。

ギブアップを勧めるチュンリーに対し力ずくで起き上がるザンギエフ、
チュンリーを再度つかまえようとするが既に空中にいる。

空から奇襲されるも、それに対応しようと
蹴りを掴まえるザンギ。

「今度こそ!」

だが、またしても投げは抜けられてしまい
逆に豪快な投げを決められてしまう。

頭ごと地面(コンクリートではない)に突き刺さるかたちで
気絶しKO負けを喫したザンギ。

気付くとチュンリーに介抱されていた。

「も、もう一勝負……!」

そう懇願するザンギに、困惑するチュンリー。

「ねえザンギエフ、あなた何の為に戦ってるの?」

「決まっておる、国家、そして」

「もうないわ。……あなたの愛した国も、敬愛する大統領も。
 あなたを尊敬してやまないレスリングサイドの子供達も……」

ソ連崩壊後、
政府主催で行われていた興行はなくなり
ザンギエフはレスラーとして試合に出ることはなくなった。

一般の団体に入り勝負するも、
人並み外れた強さにカードを組んでもらえず、
また予定通りのマッチ(試合)を行わないスタンドプレイに
興行主が激怒、ザンギエフは表舞台から姿を消す。

「私はまだ戦える。それはチュンリーも分かっているはずだ」

「分かる。……でもね。
 時代は変わったの。
 あなたの自慢の技も、もう……」

自信があった。
路上では自分こそ最強だという自負が、崩れかけていた。

「私のレスリングスタイルが通用しないというのか」

「何回、いいえ。何十回と戦ってきたあなただから、分かるの。
 実直すぎるのよ。
 ……同じ軌道、同じ位置、同じ力の入り具合、
 何もかも変わらない。私が頭で理解するより早く、身体が対応できるから。
 …………。
 あなたの投げはもう、私には通用しない」


結局、チュンリーとの再戦はならず
ロシアへ帰国するザンギエフ。

極寒のシベリア、飽きもせず続く吹雪の中、
いつも修行してきたロッジに到着する。

カンテラに火を灯し、
横になる。ザンギエフの今の寝床はここだ。

私の技はもう、通用しない……?

目を閉じると時差の疲れか
ザンギエフは熟睡することができた。

翌日、いつも技の練習につきあってくれた
野生のクマに出遭う。

「いつも済まんな……」

コートを脱ごうとした時、
クマが後ろを向く。

「……!?」

躊躇していると、その脇から
つがいらしきメス熊と、もうけた小熊の姿があった。

「そうか……おめでとう」

野生の動物と人間、
その領域を超えた友情を分かち合った一人と一匹。

今度は一定の距離を保ち、
少し離れたところで方膝をつき、
互いの目を見詰める。

頷くザンギエフ。
するとクマ達は去っていく。

「……時代は、変わった」

コートの端を掴む手に力が入る。

引退、それはザンギエフの今までの人生を否定する道だった。
その文字が頭をよぎるなど、考えたこともなかったのに。

小屋に戻り、
その日の食事をとるザンギ。

明日は買出しに行かねばならない。
だが、その次は?
手持ちのお金はもう殆どない。
銀行に預けた蓄えなど、とうに尽きている。

潮時なのか?
ザンギは眠れぬまま夜を過ごした。


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