2011年6月7日
今回の症例は生後4ケ月のトイプードルの男の子です。
先月の17日に急患で運ばれてきた、まだまだ幼いワンちゃんです。
この日の午後、自宅の芝刈り中に飼主に寄って来て、誤って傷つけてしまったそうです。
来院時の様子です。


患部の手当と止血処置のために毛刈りを行った後ですが、
見事に筋肉や神経、血管の走行が分からなくなってしまっているほどの重症です。
ガラス戸に突っ込んで切ってしまうケースは何度も手術を行った経験がありましたが、
ここまで挫滅創になっている症例の治療を行うのは、過去に経験したことがありませんでした。
まだ幸いだったのは、前腕骨ギリギリで骨は無傷だったこと。
ゴールデンタイム(注1)を過ぎてしまうと機能障害が残るか、最悪の場合、機能不全で断脚の可能性もある。
※注1 ゴールデンタイム
受傷後から治療を行うまでの時間経過で、非常に高い治癒確立が得られると予想される時間帯のこと。
この時間帯を過ぎると治癒確立がどんどん低下するといわれている統計的指標。
簡単に言えば早ければ早いほど治りが良いということ。
応急手当をして、直ぐ手術の準備に取り掛かることにしました。
術前の外貌写真です。


切り裂かれ、しかも挫滅創になっている各筋肉、神経を一つ一つ元に近い状態に繋ぎ合わせて行く必要があります。
技術的には決して難しいものではありませんが、正常とは程遠い状態の筋肉や神経を正常に近い状態にするには、解剖学的な知識が必要となります。
当たり前ですが、筋肉や神経はその一つ一つの役割が全く異なります。
従って間違って繋いでも全く機能しません。
このような症例で大切なのは解剖学的観察をじっくり行い、頭の中で設計図を描くことが出来るかどうか重要となります。
図面を引くことが出来れば手術はほぼ完了したのも同然。
あとはその通りに繋いでいくだけです。
ちなみに正常な状態はこんな感じ。

模式的にすると

※「Veterinary Anatomy Stanley H.Done他著」より抜粋
術野の解説をするとこんな感じ。

機能障害が残るか否かは、恐らく完全断裂している橈側手根伸筋と橈骨神経をどこまで正常に近い状態まで再建出来るのかにかかっているようです。
今夜の手術チームは4人。
第一助手は桑原先生。
オペ看に器具出し兼第二助手で松村動物看護士。
外回りに河野主任動物看護師。
執刀は私で行いました。
さあ手術開始です。

最初に挫滅創のデブリードメント(ダメになった組織を取り除く作業)を行い、
続いて3-0~5-0(注2)のPDSⅡ合成吸収糸を用いて深層部の筋肉から一つ一つ筋断端縫合を行っていきました。
※注2 縫合糸は数字が1‐0→2-0→3-0と左の数字が大きくなるほど細くなる。
ちなみに髪の毛は6-0ぐらいかな。
橈側手根伸筋の縫合を終えたら、切断萎縮した橈骨神経を6-0PDSⅡを用いて神経断端接合縫合を行いました。
最後にペンローズドレーンを当初から予定していた筋間に設置後、浅筋膜と皮膚を縫合し、
今回も難なく無事終了。
約90分間の手術でした。



気が付けばもう深夜1時を過ぎていました。
朝方少し仮眠をとって、明日も朝から外来診察ガンバリます。
今回の主人公はこの小○郎ちゃん。

術後4日目に退院されました。
術後2週間後の患部の状態です。


若いから毛が生えてくるのも早いね。
結構元気!!!


しっかり歩けているみたい。

この分なら大丈夫だね。
良かったねっ小○郎ちゃん。
もうお父さんの庭仕事中は邪魔しちゃダメだよ。
文責:佐羽
今回の症例は生後4ケ月のトイプードルの男の子です。
先月の17日に急患で運ばれてきた、まだまだ幼いワンちゃんです。
この日の午後、自宅の芝刈り中に飼主に寄って来て、誤って傷つけてしまったそうです。
来院時の様子です。


患部の手当と止血処置のために毛刈りを行った後ですが、
見事に筋肉や神経、血管の走行が分からなくなってしまっているほどの重症です。
ガラス戸に突っ込んで切ってしまうケースは何度も手術を行った経験がありましたが、
ここまで挫滅創になっている症例の治療を行うのは、過去に経験したことがありませんでした。
まだ幸いだったのは、前腕骨ギリギリで骨は無傷だったこと。
ゴールデンタイム(注1)を過ぎてしまうと機能障害が残るか、最悪の場合、機能不全で断脚の可能性もある。
※注1 ゴールデンタイム
受傷後から治療を行うまでの時間経過で、非常に高い治癒確立が得られると予想される時間帯のこと。
この時間帯を過ぎると治癒確立がどんどん低下するといわれている統計的指標。
簡単に言えば早ければ早いほど治りが良いということ。
応急手当をして、直ぐ手術の準備に取り掛かることにしました。
術前の外貌写真です。


切り裂かれ、しかも挫滅創になっている各筋肉、神経を一つ一つ元に近い状態に繋ぎ合わせて行く必要があります。
技術的には決して難しいものではありませんが、正常とは程遠い状態の筋肉や神経を正常に近い状態にするには、解剖学的な知識が必要となります。
当たり前ですが、筋肉や神経はその一つ一つの役割が全く異なります。
従って間違って繋いでも全く機能しません。
このような症例で大切なのは解剖学的観察をじっくり行い、頭の中で設計図を描くことが出来るかどうか重要となります。
図面を引くことが出来れば手術はほぼ完了したのも同然。
あとはその通りに繋いでいくだけです。
ちなみに正常な状態はこんな感じ。

模式的にすると

※「Veterinary Anatomy Stanley H.Done他著」より抜粋
術野の解説をするとこんな感じ。

機能障害が残るか否かは、恐らく完全断裂している橈側手根伸筋と橈骨神経をどこまで正常に近い状態まで再建出来るのかにかかっているようです。
今夜の手術チームは4人。
第一助手は桑原先生。
オペ看に器具出し兼第二助手で松村動物看護士。
外回りに河野主任動物看護師。
執刀は私で行いました。
さあ手術開始です。

最初に挫滅創のデブリードメント(ダメになった組織を取り除く作業)を行い、
続いて3-0~5-0(注2)のPDSⅡ合成吸収糸を用いて深層部の筋肉から一つ一つ筋断端縫合を行っていきました。
※注2 縫合糸は数字が1‐0→2-0→3-0と左の数字が大きくなるほど細くなる。
ちなみに髪の毛は6-0ぐらいかな。
橈側手根伸筋の縫合を終えたら、切断萎縮した橈骨神経を6-0PDSⅡを用いて神経断端接合縫合を行いました。
最後にペンローズドレーンを当初から予定していた筋間に設置後、浅筋膜と皮膚を縫合し、
今回も難なく無事終了。
約90分間の手術でした。



気が付けばもう深夜1時を過ぎていました。
朝方少し仮眠をとって、明日も朝から外来診察ガンバリます。
今回の主人公はこの小○郎ちゃん。

術後4日目に退院されました。
術後2週間後の患部の状態です。


若いから毛が生えてくるのも早いね。
結構元気!!!


しっかり歩けているみたい。

この分なら大丈夫だね。
良かったねっ小○郎ちゃん。
もうお父さんの庭仕事中は邪魔しちゃダメだよ。
文責:佐羽