60~90年代名作漫画(昭和漫画主体・ごくタマに新しい漫画)の紹介と感想。懐古・郷愁。自史。映画・小説・ポピュラー音楽。
Kenの漫画読み日記。
●漫画‥ 「快僧のざらし」
鬼才の漫画作家、山上たつひこ氏のギャグ漫画作品の代表作の一つ、「快僧のざらし」は1970年代の秋田書店の児童漫画誌、月刊少年チャンピオンに連載されて大人気を博していました。少年チャンピオンコミックスの第1巻の初版発行が1976年の5月、第2巻初版が77年7月、第3巻初版が78年8月発行となっています。勿論、僕自身が往時も現在でも、大好きなギャグ漫画のマイフェバリット作品です。「快僧のざらし」は月刊誌連載だったので、3年間続いた割には、コミックス3巻完結と、お話作品数は少ないです。
「快僧のざらし」は、秋田書店のメイン漫画雑誌、週刊少年チャンピオンで、1974年から81年まで、「死刑!」や「八丈島のキョン!」「アフリカ象が好き!」などなどの流行語を生み出し、子供たちに悪影響を与えると当時のPTA等に目を剥かれた程に、スクエアな常識的市民サイドに毛嫌いされ、児童害悪書扱いされ、社会現象と言ってもいいくらいの大人気を得た、あの時代の、革命的に新しい傑作ギャグ漫画だった、「がきデカ」の姉妹作品であり、舞台設定は「がきデカ」の、学校や家庭や町内という小学生の生活範囲に対して、「快僧のざらし」の方の舞台は、由緒ありそうな大きな古寺の小坊主の日常であり、設定は「がきデカ」とは違ってはいますが、ギャグ漫画自体のスタイルや趣向は全く同じです。「がきデカ」の “こまわり君” と「快僧のざらし」の主人公 “のざらし” は、全く同じタイプのメインキャラクターです。
そもそも漫画史に残るギャグ漫画の名作、「がきデカ」のお笑いのベースは、昭和の「吉本新喜劇」のボケとツッコミであり、物語のオリジナル登場人物は主人公らボケ側と、脇の真面目で常識人サイドのツッコミ側に分かれます。中には普段は常識人側に居て、時々ボケ側に回る役どころのキャラも居ます。山上たつひこ以前のギャグ漫画シーンでは、「おそ松くん」や「天才バカボン」でギャグ漫画に革命を起こした、天才・赤塚不二夫が存在しますが、「がきデカ」「快僧のざらし」の山上作品は、かつて、江口寿史が漫画家を目指すに当たって、「山上たつひこのギャグ漫画を見て、ストーリー漫画の絵でもギャグ漫画が描けるんだ!」ということを理解し、プロになろうと決意した、という逸話がありますが、江口寿史さんが言われるように山上たつひこの創り出した子供向けギャグ漫画は、革命的に、ストーリー漫画の絵柄で描かれているんですね。だから、女性の登場人物が妙にエロティックである、けっこうリアルにエロティックなんですね。だからこそ子供向け漫画の世界での「シモネタ・ギャグ」が実現できる。勿論、子供向けギャグ調漫画=コメディ、に「エロ」を持ち込んだのは山上たつひこ以前には、これも児童漫画に於ける革命的なワザですけど、御大・永井豪が存在します。だが、山上たつひこの「がきデカ」や「快僧のざらし」は紛うこと無き“ギャグ漫画”ですが、「ハレンチ学園」や「あばしり一家」「けっこう仮面」などの“エロ”を前面に出した、永井豪氏の作品群は、コメディーであり、どちらかというとまだ“ストーリー漫画”の範疇だと思える。だが、「がきデカ」などの山上作品は“ギャグ漫画”です。山上作品のシモネタ風“エロティック”味は、永井豪先生のストーリー漫画のコメディー的なエロとは少し違う、と僕には思えます。永井豪先生の作品は、ギャグ味ふんだんなストーリー漫画、という気がするなあ。
「がきデカ」の主要ボケ役が“こまわり君”一人なのに対し、「快僧のざらし」のボケ役は三人居ます。主要登場人物の小坊主に“優秀”派と“落ちこぼれ”派が居て、“優秀”小坊主が“秀念”と“愛念”の二人。ボケ側の落ちこぼれ小坊主が、主人公たる“のざらし”の他に“陽念”と“陰念”の三人。他に真面目・常識人サイドに、寺の主である老和尚さんとその娘。対比すると、「がきデカ」の西条君が“秀念”で、モモちゃんが寺のしっかり者の美少女である“娘”。え~と、寺のお嬢さんである娘の名前は、“さつき”ちゃんですね。「がきデカ」の“ジュンちゃん”の方がややボケ寄りが強いけど、ジュンちゃんの役どころと“愛念”は似てるかな。「快僧のざらし」の、寺の主である和尚さんの役どころは、「がきデカ」だとこまわり君のお父さんとか阿部先生だろうか。“こまわり君”との大きな違いは、ボケ役が三人居て、のざらし、陽念、陰念が三人ともボケたり、三人の内、誰かがボケると誰かがツッコミになる、というところや、あるいは複雑に、“ボケ”に対する“ツッコミ”がズレてたり、おかしく変だったりで、それがさらなる“ボケ”になるというところですね。ボケにボケが二重三重に重なって“ドタバタ”になる。そのメチャクチャな“ドタバタ”に、秀念やさつきちゃんが決定的“ツッコミ”を入れて、お話にオチを着けて物語を収拾する。というカタチかな。
あの高橋留美子さんも「色褪せない傑作! 今でも私の笑いのバイブルです」という賛辞を贈る、天才・赤塚不二夫の「おそ松くん」「天才バカボン」と並ぶ昭和ギャグ漫画の最高傑作、山上たつひこ先生の「がきデカ」「快僧のざらし」は、正にギャグ漫画の“神作品”ですね。復刻「快僧のざらし」は、小学館クリエイティブより豪華愛蔵版で、上巻が2009年12月、下巻が2010年2月発刊されました。
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