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「ワル -最終章-」

 ついに、ワルが死んでしまって、完結してしまいました。って言っても、知らない人は知らないだろうから、何の事やらさっぱり解らないでしょう。実に、35年経っての堂々完結です。僕には少年時代熱狂した漫画の一つであるし、僕も大人になってひと頃は武道オタクだった時期があるし、一時期はかなり間が空いたけれども、35年間もの間、断続的に続いた、その方面のファンにとっては正に熱狂する、漫画史の代表的格闘コミックでしょう。格闘コミック、といっても、「ドラゴンボール」や「らんま2分の1」のような、いわゆる昔から呼ばれる「マンガ」でくくる、荒唐無稽SFの如きギャグ味おもしろコミック、ではなく、格闘シーンやコミック内の格闘技術に関しては、限りなくリアルに近い、ハードボイルド格闘活劇、ケンカヴァイオレンスの第1級劇画です。初出連載開始は70年週間少年マガジン誌上、タイトル「ワル」。主人公は、暴力の申し子、氷室洋二、その名もミスター「ワル」。

    

 この「ワル」シリーズの生みの親、原作者の真樹日佐夫さんはもともとは作家で、小説もいっぱい書かれていますが、漫画原作者としての顔の方が有名だと思います。格闘技好き、武道好きの方には、武道家真樹日佐夫の方がもっと有名でしょう。もともとあのゴッドハンド大山倍達門下の極真空手の猛者で、極真会館本部師範代まで務めた人で、現在も自分の道場一門を構える、武道界でも著名な空手家です。だから、作家として書かれている小説も、その題材はほとんど空手道であり、多彩な武術を専門的な立場から紹介登場させる、格闘ヴァイオレンス場面盛り沢山な物語となっています。でも、物語創作家真樹日佐夫としての代表作といえば、やっぱりこの「ワル」シリーズでしょうね。貸本劇画時代からの劇画界の大御所、漫画家影丸穣也さんにとっても、「ワル」のシリーズは代表作なのではないでしょうか。

 70年に少年漫画誌週刊少年マガジン誌上で始まった「ワル」では、主人公氷室洋二は名門都立高に通う高校生で、ワルグループを作る札付きの不良であり校内きっての問題児である。また父は伝統的剣道の道場主であり、現在のワル洋二は幼き頃から、この父親から非情ともいえるスパルタ教育で伝統剣道を仕込まれてきた。校内で、いろいろな問題をおかし、屈強な教師や同級生などと死闘を行い、これを倒した後、実父が伝統剣道の必殺技を教えた教師と戦い、これを倒し、結果殺してしまった。そして少年刑務所に入り、院内を牛耳る強敵達と戦い、これを倒して行く。まあ、そういうストーリーです。中で、テーマのひとつは、主人公洋二の暴力行動をひたすら続けていく理由が、幼き時からの父親による非情で過激な剣道修行を続けて来たゆえのトラウマ、いわば暴力依存症のような精神的な大きなしこり、障害。何か騒動が自分の周りで起こっていないと、その騒動の渦中に自分がいて、スリリングで暴力的な雰囲気の中に常にいないと、自分自身が耐えられないという、平穏アレルギー。まあ、ほとんどビョーキな精神的な大きなしこり、トラウマですね。

 
 第二部の「新書ワル」になると、かなり長い間を空けて、秋田書店の青年漫画誌週刊プレイコミックにて、大人になったワル氷室洋二の成年活劇編ですが、これが80年代終わり頃から好評連載された。このね、第二部の、多分20代半ばの氷室が活躍する「新書ワル」が、めちゃめちゃ面白いんです。僕に取っては高校生の「ワル」よりも、こっちの方がずっと面白かった。ていうのが、少年だと、やはり相手が限られる、その平たくいえば喧嘩のライバル達ですね。大人になっちゃうと、相手は暴力世界が舞台となるとやはり、相手は暴力の専門家達になるから、ヤクザ屋さんに、ずばり殺し屋達、外人勢力の台湾マフィア等。敵味方、多彩な人物が登場し、強敵達の持つ殺人的格闘武術技術、柔道、剣道、空手、狙撃、他にも軽業ナイフ、テコンドー、ムチ術等、各種暴力の専門家達との死闘。毎回描かれるリアルな劇画活劇シーンで、自らの剣道空手の格闘技術をもちいて、大活躍する主人公ハードボイルドタフガイ、氷室洋二。ほんとに、男の子はカーッと熱くなって酔ってしまう、ハード劇画です。

 少しだけ間を空けて、続編第3部、「ワル正伝」。これはマイナーな成人用コミック誌に連載されていました(と、思うけど‥)。週刊誌名は忘れました。僕は雑誌で読んでないからなあ。「新書ワル」では巨大ヤクザ組織、大日本新宿同盟を敵に回し、孤軍奮闘の氷室は、何人かのヤクザ者達を殺めました。勿論相手も氷室を殺しに来てる訳ですが。それで、氷室洋二は罪を負い服役しました。第3部では、その刑務所で盟友となった好漢、更級十郎と、出所後もつきあいが続き、更科の行っている、何ていうの、行動的慈善事業、巧みに隠れて悪事を重ね行く、世の悪漢どもをこらしめるのが本業の組織、地平同(何の略かは忘れました)、これの手助けで氷室のワザを使い、悪辣宗教や台湾マフィア達の悪漢と戦い、打撃を与えて行く。ここでは大人になった氷室ももうけっこうな歳で、中年の手前くらいにはなってます。新婚旅行に台湾に行き、客死した盟友更科の仇を討つために台湾へ乗り込む氷室。ついに敵の首魁を討つが、氷室自身も生死判らず行方不明に。


 で、この度の第4部で、「ワル最終章」にて、氷室洋二、稀代のワルと呼ばれて、もう齢50歳ですよ、50を過ぎて死んでしまいました。もともと「新書ワル」の頃から死ぬ気でいた人でしたが。いつ死んでもいいと思いつつ生きてる男だった、ハードボイルド無頼漢。「ワル」では手のつけられぬ不良少年で、悪の魅力を持つ主人公だった。「新書ワル」でもまだまだ不良青年で、戦う敵は社会悪のヤクザ組織等で、悪の方に身を置きながらも、世の悪と敢然と戦う、悪の魅力を持つヒーロー氷室洋二であった。悪を倒すのは悪の力を持つ者でなければ出来ない、みたいな。でも第3部からは特に悪い事なぞしなくて、どちらでもない立場でぶらぶらし、盟友更科十郎に力を貸す、結局正義の味方になって来ている。この第4部では氷室は更科の跡を継ぎ、もう正義の味方陣営に身を置いている。結局最終的には、世の悪を退治する必殺仕置き人みたいになってしまっている。で、最後は死んで墓に入り、高校生時の恩師であり、永遠の恋人、最後にやっと妻となる、美杉麗子が墓守となってついに、終わる、完結。

 
 影丸穣也さんのGペンと墨の迫力あるタッチの絵柄でつづる劇画の魅力もさることながら、やはり一番の魅力はなんといっても武道家真樹日佐夫さんの専門的なリアル格闘活劇シーンの展開でしょうね。勿論その表現は劇画家影丸穣也さんの描写によるものですけど、格闘技術の展開が、僕みたいに調度当時、武道オタクで空手道場とかに通っていたファンにはたまらないものでした。「新書ワル」の時ですけど。「ワル」の頃も、喧嘩の強さとかには興味があった少年だったし。


 当時の僕は、あくまで武道オタクで、スポーツマンというのではちょっと違う。空手道場とかにも通っていましたが、試合に向けてみんなと一緒に道場や体育館で汗を流すというスポーツマン、というのではなくて、僕は根本は漫画や映画のヒーローに憧れる人、武道オタク、いや「武道」でくくるよりは武術・格闘技オタクだったんですね。だから僕は当時、道場や体育館でみんなと一緒にやる稽古や練習よりも、たった一人で夜中の、誰もいない公園でやる単独練習の方が力を入れてたし、好きだった。また当時は武術や格闘技の専門書ばかり読んでたし、毎月「格闘技通信」と「フルコンタクト空手」を購読し、季刊中国武術専門誌「うーしゅう」もとっていた。だから当時は歴史的な中国武術の達人名人の事とか、詳しかったです。今はもう興味ないので、その頃の武術・格闘技関連の知識はほとんど忘れてますね。ね、格闘技趣味のスポーツマンと言うよりは武術オタクでしょ。オタクピークが調度、K-1が誕生して出て来た頃かなあ。K-1がメジャーになって来た頃にはもう、僕も武術・格闘技オタクはやめてました。今も、K-1やプライドの試合はTVで見るけど、昔みたいには熱狂しては見ませんね。もう、あれから興味ないなあ。やっと、どんな事しても、漫画の主人公や映画のヒーローのような強者にはなれないのだと、解ったからかなあー。でも、みんな、格闘技を過去にやった人、やってる人達というのは、一度は格闘技漫画の主人公や、ブルースリー、ジャッキーチェン、ジェットリーみたいになりたいと憧れたものでしょう。みんな、そこから始まったんでしょうしね。


 今回は、ワシの昔のエピソードもちょっと入ったが、ほとんどもう漫画の事で済んだなあ、漫画読み日記。ストリートファイトではいろいろな武勇伝を持ち、当時AWA世界チャンピオンのキラーオースチンを負かした真樹日佐夫さんですが、梶原一騎さんの実弟になる真樹日佐夫さんももう60歳を過ぎるんだろうからなあ。

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コメント
 
 
 
はじめまして (なり)
2018-01-21 05:28:25
地平同は、地球に真の平和と繁栄をもたらすための同盟では、ないでしょうか?

私の記憶が正確ならば
 
 
 
氷室洋二 (Ken)
2018-01-26 11:23:03
なり様。コメントありがとうございます。
「地平同」は「地球に真の平和と繁栄をもたらすための同盟」だったんですか。
記事本分に書いてあるように自分は忘れきってました。
氷室洋二が「地平同」の客分でありながら中心的存在として活躍するエピソードは、普通の紙質の良いコミックス本じゃなくて、雑誌紙質のいわゆるコンビニコミックでしたね。
「新書ワル」の頃までは大人気バイオレンスコミックだったけど、刑務所から出て来て更級十郎と行動を共にするエピソード頃にはちょっと人気も陰って来てたのかな。
素手でも強い剣の達人、氷室洋二。昔は憧れたなぁ。
 
 
 
はじめまして (なりひ)
2018-05-29 02:24:56
地平同は、地球に真実の平和と繁栄をもたらす同盟?の略式名称ですよ。
 
 
 
地平同 (Ken)
2018-06-22 11:24:15
なりひ様、コメントありがとうございます。
2018年1月にコメント入れてくれた「なり」さんと今回5月にコメント入れてくれた「なりひ」さんは同じ方なんでしょ?コメント文言の内容もほとんど同じだし。
前の分はちょっと疑問が入ってますが今度は断定で、ほぼ同じことですよね。
多分、そうなんでしょうね。僕は「地平同編」の「ワル」のコンビニ版コミックスも長らく持ってましたが、今現在何処に行ったか解らず、正確に調べようがないので。
まぁ、僕としては今となってはどっちでもイイかな。何の略でも。
まさか地平同が未だに地球が平たいと信じている同士が集まった宗教団体、なんて意味の略じゃないでしょうし。
アメリカ中部・南部には聖書に書いてあることを疑わずにそのまま信じている信心深いキリスト教徒も居るというから、未だに地球が平たいと思い込んでる人も世の中には居るかな?それはないかな。
熱心なキリスト教原理主義者は進化論なんて否定しているし未だに天動説を信じてるんだっけか(?)。
宗教怖い。
謝罪するときは地に平たく頭を着けて土下座をしよう同盟、とかの略でもないな。
地震が来たら平たく伏せて揺れが止むのを待とう同好会の略でもないかな。
地下鉄で平気で痴漢行為をする輩をこらしめよう同盟、でもないか。
地下足袋で平地を歩こう同好会でもないし。
やっぱりおっしゃるとおり、地球に真実の平和と繁栄をもたらす同盟、で間違いないでしょう。
 
 
 
Re:地平同 (ken-mortima)
2018-06-22 12:04:28
地底人と平常心を持って同棲しようと言う人たちの集まりの略。
地学が苦手で平気でカンニング行為に及ぶ同級生を諭す者の略。
地下資源の奪い合いで平和を脅かす行為は止めよう同じ地球上に暮らす者同士じゃないかの略。
地下、地底、地下足袋、地学、地下資源、地上げ屋、地下鉄、地面…。もうないかな?
こういうことは考え出すとキリがなくなって来て…。
 
 
 
Re:はじめまして (ken-mortima)
2018-06-22 12:35:26
1月にコメント入れてくれた「なり」さんと5月に入れてくれた「なりひ」さんは多分同じ方だと思いますが、僕が昔、小野不由美さんの「屍鬼」を読んでメチャメチャ面白くて、誰かネットで「屍鬼」の読後感想書き込んでる人探そうとネットサーフして、けっこう詳しく「屍鬼」の感想書き込んでるサイト見つけて、そこに僕もコメント入れて、それから何年か経ち、何気なく「屍鬼」思い出して「屍鬼」のこと書いてるサイト探して、「屍鬼」のこと詳しく書いてるサイト見つけてそこのコメントらん読んでたら、「あれ、この人俺と同じようなこと思ってコメント入れてるな」と思ってたら、何と数年前に自分が書き込んだコメントでした。そこのサイトも一度読んでるのに何年も経ってすっかり忘れてるんですね。一度訪問したことさえ初めは気が付かなかった。僕が書き込んでるコメント文も自分のだと気が付かず同じようなことを思う人は居るんだな、くらいに思ってた。しばらくして自分が以前書き込んだコメントだと気が付いた訳ですが。
僕もそういうコトがあった訳ですから、「なり」さん名義で入れたコメントをすっかり忘れてて何ヵ月か経って今度は「なりひ」さん名義で同じ内容のコメントを再度入れてしまったのかな、と。
まぁ、何でもないコトですけどね。故意でもうっかりでもどっちでも良いです。コメントありがとうございました。
真樹日佐夫さんも影丸穣也さんも共に2012年に亡くなられて早もう6年が経つのか。月日の流れは早いものですね。
 
 
 
Unknown (ken-mortima)
2019-06-16 12:42:04
「ワル」シリーズの主人公、氷室洋二は高校生~少年刑務所の頃は、得意武術は剣道だけだったけど、たいしたことない相手には剣道の技を応用した手刀で素手で戦うこともあったけど、ほとんど木刀で戦ってた。成年編の「新書ワル」からは、氷室洋二は実は剣道の他にも空手の技も取得しているということになっていて、相手が素手の場合は木刀を使わずに空手の技で戦っている。これは同じ作画·影丸譲也と組んだ作品「けものみち」の主人公、月形潔の矜持を踏襲している。けど、コミックスの第7巻くらいだったか、元全日本柔道チャンピオンの柔道の達人みたいな奴を相手にしたとき、その偉丈夫に「中途半端な空手の技など使わず木刀を使え」みたいなコト言われて、柔道高段者の猛者に対して氷室洋二は木刀で戦ったこともあった。「新書ワル」は劇画ストーリーに異種格闘技戦の趣向がありましたね。当時リアルタイムで「新書ワル」読んでたときは僕も若かったから、劇画の異種格闘技戦的な描写に何かワクワクして読んでたな。当時は格闘技オタクだったし。
 
 
 
なつかしい・・・・ (おとなこども)
2022-09-27 08:06:16
はじめまして
とても懐かしいです。

何気なく記事を読んでいて、昔を思い出しました。

そういえば子供の頃、外を歩くときに
背中に木刀を入れて歩いたことがありました
(((´∀`))ケラケラ
歩きにくかったなぁ

ワルにかなり影響されてましたね

とても良い記事ありがとうございました。
 
 
 
Unknown (ken-mortima)
2022-09-30 22:14:56
おとなこども様。
拙ブログ記事を読んでくださって、どうもありがとうございます。
「ワル」の氷室洋二は強くてカッコ良かったですね。私も憧れました。
後々、考えて、背中に1メートル以上ありそうな木刀入れてたら動き辛いだろうなぁ、と思ったものです。お話によっては2本入れてるときもありましたし。
 
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