唯物論者

唯物論の再構築

弁証法

2010-11-23 11:59:19 | 弁証法

 弁証法という言葉は、非合理主義と皮一枚で密着しており、多用すべきものではない。
 
 弁証法とは、カテゴリー間の連携を説明する論理である。もともとこの言葉は、対立する論理が相互に補正し合うことで、双方の論理を進化させるという弁証術に由来している。カント以前の哲学では、カテゴリー間の連携をせずに、ただ単にカテゴリーを並べて論理構築をしていたのに対し、存在と非存在を起点にしてカテゴリーを連繋させながら哲学体系を構築したのがヘーゲルである。この方法は哲学におけるカテゴリーの扱いを一変させ、キェルケゴールに始まる実存主義とマルクス/エンゲルスに始まる共産主義を生み出した。
 例えば資本論の冒頭に流用されているヘーゲルの貨幣論は、商品から価値比較用の商品、価値比較用の商品から貨幣へとカテゴリーが次々に生成される論理を展開している。またサルトルはライプニッツにならって、カントにより先天的カテゴリーとみなされていた空間を、関係カテゴリーから生成する論理へと組み立て直している。
 しかしカテゴリー推移の説明は、実際には説明者の経験的思いつきでしかない。そしてこの経験的思いつきは、三段論法の無秩序な省略による論理誤りの土壌でもある。したがって継承や汎化などによりカテゴリーを生成しても、出来上がったカテゴリーやカテゴリー間の連携は現実離れした思い込みに終わる事態も起こる。 この最たる例がキェルケゴールである。キェルケゴールの弁証法は、カテゴリー間連携の説明を目的にしたものではなく、カテゴリーとしての絶望の進化の果てに神の元へと読者を引率するのを目的にしている。このためにキェルケゴールの弁証法は、カテゴリー間の連携が荒唐無稽であるにもかかわらず、他の哲学者による弁証法記述をよせつけない異常な魔力を持っている。

 ヘーゲルの説明では、弁証法は論理の循環を為すものである。しかし論理がその開始地点に舞い戻る場合、論理自体が開始地点と比べて進化を遂げているとみなされる。つまり開始地点に舞い戻った論理は、その欠陥を補正した新バージョンとなるか、自らの論理を破棄するかの二通りに落ち着くのである。したがって永久に同一形式で論理が循環することは無く、もし同一形式で論理が循環する場合があるとすれば、それは論理継承者自体の欠陥の露呈にほかならない。ヘーゲルの表現では、前者の進化型循環は真無限と呼ばれ、後者の永久循環は悪無限と呼ばれている。
 カテゴリーは、それに含まれる存在者を許容する属性範囲である。しかしカテゴリーに含まれる存在者の属性が、カテゴリーの許容範囲を超えて増大ないし減少する場合、その存在者はカテゴリーの範囲外に出てしまう。この範囲外化は、新しいカテゴリーの誕生でもある。この範囲外化は、外化とも疎外とも言われており、量の変化が質の変化に転化したものとみなされる。

 一般に弁証法の説明で示される弁証法の概観は、次の3点である。


・量から質への転化
・対立物の相互浸透
・否定の否定(自己回帰)

ただし上記の概観は、いずれも論理の説明の役に立たない無意味なものである。

 小さな家はオモチャでしかないが、空間的にその量が伸張すれば犬小屋になり、さらに伸張すれば住宅になる。この説明は、オモチャと犬小屋と住宅でのカテゴリー推移を示す教材として使われるが、説明する側と説明される側の共通の経験を前提にして初めて論理の正当性が成立する。つまりこのオモチャの説明の正当性は、説明者が経験的事実を都合よく連繋させた努力に対し、説明された側が了解するかどうかにかかっている。もし説明された側が、オモチャも犬小屋も住宅だと言い張れば、カテゴリー推移の説明そのものが崩壊する内容でもある。証明Aが証明Bを基礎付け、証明Bが証明Cを基礎付けるというような論理の基本構成から見れば、上記のオモチャの説明は、弁証法が非合理主義への後退にもなり得る危険性をも示してくれている。
 したがってカテゴリー推移を説明する場合、論理の基本構成に常に立ち戻る必要がある。その限りで弁証法という言葉の使用自体が無意味になるはずである。
(2010/11/23)

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