岩谷宏と一緒

岩谷宏の同居人岩谷啓子(けい子)が、犬猫まみれの官能の日々を綴る

岩谷宏のロック論 51 ロックからの散弾銃 サバイバル 

2008-07-06 02:47:42 | 岩谷宏 ロック
たとえば、いま、東南アジアのどこかの水田で、
一人の農婦が黙々と農作業をしている。彼女の村は皆殺しにあい、
父も母も、夫も、子どもたちも、そして隣人たちも殺された。
なにかの偶然で彼女一人が生き残った。

要するに、親しい人、愛する人が、みんな死んだ挙げ句の生き残り。
ふだんから控えめな人だったが、最近はますます寡黙。
毎日、炎天下で働いて、食べて、寝るだけである。
娯楽はない。心を浮き浮きさせるようなこともない。
夢もない。


時間と空間を少し広げれば、私達も実はこの農婦と変わらない。
なにしろ、罪もない人、心優しい人、非戦闘的な人、正当防衛だった人が、
大量に殺されきた挙げ句の生き残り。なにも、イキがったセリフなど
吐けないし、かっこつけることもできない。
破壊された家の跡地に、ぼうぜんと立っているようなものだ。


家はまた建てることができる。
彼女は再婚してまた子供をもうけることもあり得る。
しかし、以前と同じ、言うなれば呑気は、生活感覚には二度と戻れない。


大失敗の記憶が歴史的感覚として万人に深く根付かないかぎり、
言い換えれば、おめでたく元気であるかぎり、
愚行と悲劇は繰り返される。
油断しているからヤられるし、ある人はヤる側に回る。
私達は大地にしっかりささった、錆びた五寸クギになって、
冷たい心と冷たい目を持ち、地球上に残っている微熱、ひ弱な浮き足立を
冷ますのだ。


歴史の成果を肯定的にだけ見ることはできない。
科学文明がよく引き合いに出されるが、そんなものは、ない時代、
ない土地でも、それなりに生活は十分に成り立っていたのである。
だから、定理●科学文明的には、どの時代も同一である。


小学校でも、中学でも高校でも、歴史を習う。
でも、そこには、歴史と人間(=まず自分自身)との関係が把握されない。
で、文字通り、関係ナイね、になってしまう。
千×百×十×年には、ナントカ革命があっったんだってよォ。


いまの自分というものは、比較的ついこないだ生まれて、
生まれたての人間だから、歴史なんて関係ない。
だれもがそう思いつつ、実際は、
だれもが歴史的条件の中でしか生きられない。
でも、生き方や心がけは、ある程度選べる。


私は、私もまた、さきにあげた東南アジアの農婦だと思って生きていたい。
ロックがかつて、歴史に対して全否定を投げつけたのも、
彼女の立場からだったに違いない。
でないと、すべてはウソだったことになる。



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5 コメント

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お詫びします (高柳)
2008-07-06 22:34:47
けい子さん、有難うございます。

これも私がお送りしたテキストだと思いますが、「農婦」とすべきところを「農夫」と間違えてしまっていたみたいです。お詫びして、訂正させていただきます。
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ロックが始まった日 (高柳)
2008-07-06 22:54:30
1957年の7月6日、ジョン・レノンとポール・マッカートニーが出会いました。私にとってのロックは、この日に始まりました。

http://www.cdjournal.com/main/calendar/today.php?tno=1411
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もう一度あの言葉を (カスラ)
2009-01-15 20:26:32
80年だったのですね。あの変形縦長のピンク色をした「ロックからの散弾銃」が出版されたのは。当時小学生だった私はその装丁に引き寄せられるようにそれを買ってしまったのでした。
「解らないけど分かる」、岩谷宏の言葉は当時の小学生の見聞きしてきたその どの言葉ともまるで違っていました。

あれから30年、大切にしていたのですが、引越しの時に紛失してしまいました。
どうか、もう一度、あの「ゴミ」「時の砂漠」「タイトルは失念してしまいましたが、ガラスの円い橋が架かった…炎の花弁が育った。深く球球に打ち込まれた杭であることが出来なかった人々は…」のあの詩、どうしても読みたいのです。
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カスラさんへ (高柳)
2009-01-15 21:23:37
カスラさん、はじめまして。これからよろしくお願い致します。

カスラさんがお書きになっているのは、正確には「ごみ」「すりガラスの砂漠」「カイエ」だと思います。

けい子さんの許可が得れれば、私は3作ともテキスト文書化します。お待ち下さい。
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カスラさんへ (高柳)
2009-01-26 22:47:29
カスラさん、けい子さんの許可をいただきましたので、とりあえず「ごみ」だけテキスト文書化してけい子さんのところへ送りました。お待ちになっていて下さい。
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