MIT MBA留学日記 ~ その後

2009年6月の卒業後、西海岸で社会人生活を再開。新しいタイトルを思いつくまでこのままのタイトルで続行する日記。

ゼロだと思ったらイチだった(サブプライム問題 3/3)

2008年10月18日 | 講演会に参加

こちらの続きです)
* 「俺でも分かった(?)サブプライム」と題して、その仕組みを自分なりに整理しています。

前回は、証券化の仕組みによってリスク商品から「安全な部分」だけを切り取り、それを売買のたびに繰り返した経緯を整理した。

残る問題は、なぜそれが「安全」と信じられたのか、そしてなぜ「安全」なはずの資産が大暴落を起こしたのか、である。


問題3: 「安全」のお墨付き

ここで格付け機関が登場する。

Standard & Poors、Moody's に代表される格付け機関は、社債や国債などの債権の返済能力を格付けする。
例えば社債の場合、発行企業の余剰資金や営業キャッシュフローが社債発行残高に比して多いほど、返済の可能性は高い、ということで高い格付けを得ることができる。
高い格付けがついていれば、投資家は手間のかかる信用調査を行わなくても、その資産が持つリスク度合いを計ることができる。

ところでサブプライム資産は、特定目的会社(SPC)の資産として運用されていた。
そのSPCが社債を発行することで、実際のサブプライム資産取引が行われていたので、格付け機関はこのSPCの社債も格付けを行った。
そして広く報道されているように、格付け機関はサブプライム債権から抽出した「安全部分」に、AAA(Aaa)という最高格付けを付与したわけである。

なぜ最高格付けを付与できたのか?

これは前述の通り、「10の債権があったらそのうち一つは必ず返ってきますよ」という考えが背景にあった。
統計的には、10の債権間のCorrelation(相関)は限りなくゼロに近い、という前提を置いていたことになる。
Aさんがコケることは、Bさんがコケることとは無関係、ってなことである。

これは実際、米国の過去の不動産市場を見ると、そのような結果になっているという。
サンフランシスコの不動産価値が一時的に下がっても、同じ時期にニューヨークの不動産価値は上がっている、ということが常に起きていた。
つまりできるだけ資産を分散させれば、全部がすべて価値を落とすことはないはずだ。

10の(よく分散された)サブプライム資産があれば、統計的に必ず1は返ってくるはず。
その「過去の実績」をベースに、格付け機関はその1に対してAAAのお墨付きを与えていたわけだ。


「安全」の崩壊 = 統計のワナ

ところが、米国が過去100年近く、一度も経験したことがないことが起こった。

不動産市況が、全面的に下がりだしたのである。
ニューヨークもサンフランシスコもフロリダも(程度の差はあれ)下がってしまった。

これはCorrelation = 1 の状態である。Aが下がるとBもCも下がる。
大前提のCorrelation = 0ではなくなったため、最高格付けをはじき出した計算が狂ってくる。
「10の資産があっても、ひとつも返ってこないかもよ!」ということが、白日の下に晒された。
AAAだと思っていたものが、実は返ってくる確率の低いジャンク債だったわけである。

こうなるとモロい。

誰もそんな債券、買いたくはない。
信用不安が起こり、資産価値は下がるどころか、今どの程度の価値があるのかさえ分からなくなった。
サブプライム債権の市場で値段がつかなくなったからだ(これが昨年秋に起きたこと)。

更には親亀(サブプライムローン)の上に小亀(ローンを担保とした証券商品)を乗せまくったせいで、上の方では自分がどの親亀に乗っているのか、分からなくなっている。

更に更に、親亀の上には複数の小亀が乗っているのでそれぞれが権利を主張しだすと、もうニッチもサッチもいかない。
だって親亀は既にコケていて、分け前なんてほとんどないのだから。

小亀の価値は地に落ち、飼い主は大損を蒙った。

ちなみにこの小亀を大量に飼っていたのが、リーマンブラザーズに代表される投資銀行である。


システムはダイナミクス

これ以外にもたくさん面白いトピックを聞いた。

何で2000年ころにこういう問題が発生したのか(=クリントン政策の影響)とか、個人の与信力査定の問題(=Assets Based Financeと消費の関係)とか、金融システム上の問題(=融資書類の不備、モラルハザードの問題)とか。
話を聞けば聞くほど、問題は複雑だ。

で、結局誰が悪かったのか?投資銀行?格付け機関?政府?

浅学の私には分かりませんが、それでも、名指しはなかなかできないんじゃないかと思う。
今は結果が分かっているので、振り返って批評や非難をすることは誰にだって簡単だが・・・・。

今取っているクラスの一つに、システムダイナミクスというクラスがある。
システムダイナミクスとは国や会社の政策・戦略と、それが及ぼす結果(副作用も含む)との因果関係を分析する学問。

下の写真のような図解をして考えていくのだが、これがなかなか面白い。

サブプライム問題も、こういうシステムの作用・副作用が大きく増幅した結果起きた問題である。
なんていうと学者さんみたいでナンなのだが・・・。
考えれば考えるほど、誰かを非難して終わるレベルの話ではないような気がしてくるのである。


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