メンタルヘルス…足立から発進

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何故に匿名か・・・相模原事件

2016年08月18日 | 相模原事件
匿名、悼まれる機会失った ダウン症の弟がいる弁護士
2016年8月18日 (木)配信朝日新聞


 香川県で暮らす弁護士の佐藤倫子さん(41)の弟、理一(まさかず)さん(39)は最重度の重複障害者だ。脳性まひとダウン症で、最近は耳も聞こえない。佐藤さんは相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」の惨劇の報に触れ、「弟は、事件で標的にされた方々と全く同じ境遇にある」と思った。

 事件の3日後、母キクさん(67)に電話してみた。「被害者の方たちは、息子にしか思えない」。キクさんはインターネットで事件のことを検索する度に、障害者をおとしめる植松聖(さとし)容疑者(26)の考えや、同調する人たちの心ない言葉に傷ついていた。「息子を施設に入れた自分を責めてしまう」と、電話口で泣いた。事件のことばかりを考えてしまうので、裁縫に没頭するようにしていると、母は言った。

 電話を切った後、佐藤さんも涙があふれ出てきた。弟が何者かに刺される様子が目に浮かび、悲しくて悲しくて、どうしたらいいのか分からなくなった。

 理一さんは2年ほど前に水戸市内の障害者施設に入るまで、家族と暮らしていた。佐藤さんは身の回りの世話をし、買い物で一緒に外出もした。岩手県で働いた4年半は、両親と理一さんを連れて行った。

 2007年2月、香川県の金比羅宮で結婚式を挙げた時も、参列してもらった。「ショートステイに出すんですか」と聞く人もいたが、「一生で今回しか弟に会わない人がたくさんいるだろう。ならば、一人でも多くの人に弟を知ってほしい」と考えた。

 佐藤さんは今回の事件で犠牲になった人たちが、それぞれに思いが込められた名前を持ち、顔も体も、出来ることも出来ないことも、好きなものも嫌いなものも違い、それぞれ違った歴史を持っていたはずだと考えている。だから、神奈川県警が被害者の名前を発表しなかったことに、強い疑問を感じるという。

 「実名が公表されなかったことで、被害者の人生の最後が無かったことになり、『悼まれる機会』が失われてしまった。他の殺人事件の被害者と何ら違わないのに」。献花のために園を訪れた人への取材でも、「知り合いが亡くなったかもしれないが、名前が公表されないのでわからない」という声はいくつも聞かれた。

 「名前が発表されれば、養護学校の先生、通っていた施設の人、近所の人たちが、『いつもニコニコしていた』とか、『音楽を聴いたら体を揺らしていた』とか、思い起こしてくれたかもしれない」と佐藤さん。

 県警が匿名発表の理由として挙げたのは、知的障害者施設で起きた事件で、プライバシーを保護する必要性が高いということと、亡くなった19人の遺族からいずれも匿名を希望する意向が示された、ということだった。

 確かに実名で発表されれば、「家で面倒を見きれないから施設に預けたんだろう」といった心ないネット上の言葉に、遺族はさらに傷ついただろうと佐藤さんは想像する。それでも、「匿名で発表されたことで、今回の事件が『重複障害者』という『自分たちとは違う誰か』が攻撃された事件、とされてしまわないだろうか。だとしたら、とても悲しい。私たち人間は、それぞれが異なる個性を持った存在であるという点において、みな、同じはずだ」と話した。(村山恵二)



     ◇

 さとう・みちこ 千葉県船橋市出身。弁護士として埼玉県、岩手県、東京都で働いた。2013年に香川県出身の夫、田岡直博弁護士と同県丸亀市に、田岡・佐藤法律事務所を開設。




匿名の背景、根強い偏見 地域に開かれた施設を 「献花台からの報告 障害者施設殺傷事件」

2016年8月15日 (月)配信共同通信社

 相模原市の障害者施設殺傷事件では、犠牲者19人の氏名が「遺族への配慮」との理由で公表されていない。献花台では知り合いの安否確認に訪れ、情報を得られずに帰る人を何度も目にした。障害者は氏名を明かせない存在なのか。遺族や関係者に匿名を望ませてしまう社会に、偏見が根強く残っていると感じた。

 神奈川県警は犠牲者の性別と年齢だけを公表。県も足並みをそろえた。「今回だけの特例」としての対応だった。

 「26歳の女性」が同級生かもしれないと、現場を訪れた若い男性の2人組は所在なく過ごしていた。津久井やまゆり園は立ち入り禁止。一般の問い合わせにも応じない。報道陣に「捜している方はどなた?」と尋ねられ「やっぱ、言わない方がいいっすよね」と、ばつが悪そうに立ち去った。

 園の元職員だった夫婦は「犠牲者名が出ないから、従来の事件のような実感が持ちにくい」と違和感を口にする。障害がある息子(16)を持つ別の夫婦は「施設に預けたことを中傷する心ない意見もある」と匿名への理解もにじませつつ「19人の生きた証しが紹介されたら、障害者への理解が深まる」とマスコミの役割に期待した。

 被害者の情報が乏しい中、大勢の報道陣がきっかけをつかもうと献花台に張り付いていた。「犠牲者と静かにお別れしたかったけど、マスコミの一方的な取材で心が波立った」。隣町から来た介護職員の女性は「せめて、一番つらい思いをしている遺族が癒やされる時間をつくる配慮はしてほしい」と注文を付けた。

 入所者の多くは事件後も園内で暮らす。家族の希望や環境変化に弱い入所者への配慮もあるだろうが、こうした現状を巡って障害者への偏見を指摘する人も。

 奈良県広陵町の特別支援学校教員前田令緯子(まえだ・れいこ)さん(37)は「凄惨(せいさん)な事件があった施設に残すのはやはりおかしい。障害が重度でもきちんとフォローすれば別の場所で過ごせる。東日本大震災では日本中が協力して避難者を受け入れたのに」と残念がる。

 社会は障害者とどう向き合うべきなのか。次男(40)が入所施設にいる東京都立川市の主婦(66)は「建設当初、施設は疎まれていたが、その後何十年も地道な努力を重ね、地域が見守ってくれるまでになった」と解説してくれた。

 やまゆり園も地域の恒例行事や祭りに参加したり、学生を受け入れたりして地元と交流を積み重ねてきた。「園でボランティアをしていた」と多くの住民が献花に訪れたのが印象的だった。

 事件後、障害者施設は外部の侵入者を想定し、施錠の徹底などセキュリティー強化を迫られている。主婦は「地域に開かれてきた施設が再び隔離され、偏見を助長する方向に行かないよう、なんとか踏ん張ってほしい」と祈るように話した。(共同=真下周)


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