鏡海亭 Kagami-Tei  ウェブ小説黎明期から続く、生きた化石?

孤独と絆、感傷と熱き血の幻想小説 A L P H E L I O N(アルフェリオン)

生成AIのHolara、ChatGPTと画像を合作しています。

第59話「北方の王者」(その1)更新! 2024/08/29

 

拓きたい未来を夢見ているのなら、ここで想いの力を見せてみよ、

ルキアン、いまだ咲かぬ銀のいばら!

小説目次 最新(第59)話 あらすじ 登場人物 15分で分かるアルフェリオン

『アルフェリオン』まとめ読み!―第17話・中編


【再々掲】 | 目次15分で分かるアルフェリオン

6 運命の出会い? あるいは運命の皮肉?



「うわぁ! な、何!?」
 庭の奥の通路から、小さな白い犬が、いきなり脱兎のごとく駆けてきた。
 一瞬、何だか分からないほど速かった。
 木々や噴水を器用にすり抜けると、犬はルキアンめがけて飛び上がる!
「い、犬?」
 真っ白なむく犬は、勢い余って彼にぶつかった。
 革張りの手帳がはね飛ばされ、地面に投げ出される。
 驚いて立ちすくむルキアン。
 犬の方は妙に彼をお気に召したらしく、彼の膝に前足を掛け、舌を出して息を弾ませている。
 すると、この犬がやってきた方向から今度は少女の声がした。そして足音。
「アルブ、アルブったら。どこ行ったの!? もう、待ちなさいよ!」
 ルキアンは背中をびくりと振るわせた。
 彼がふと頭を上げたとき、その言葉の主と目が合った。
 金の髪を丸く結った娘が怪訝そうに首を傾げている。
 瞬間、ルキアンはわけもなく身震いを感じた。本能的な直感がもたらした、極めて抽象的な暗示だった。いかなる予感なのか、具体的なことは彼自身にも全く分からない。
 彼女の姿は鮮烈だった。
 わずかな緩みすらなく、凛と張りつめた1本の弦のようだ。
 触れれば指先が切れてしまいそうな、それでいて彼女自身も壊れてなくなってしまいそうな、硝子の刃のようだ。
 瞳の中の少女は彼の心の奥底にまで焼き付いた。
 周囲に何のはばかりもない態度や、非常に上等な仕立ての衣装からして、彼女は恐らくナッソス家の人間だろう。
「ごめんなさい。アルブが迷惑かけてしまって」
 呆然としているルキアンに近寄ると、少女は姿勢をかがめ、例の小さな犬を抱き取った。
「見かけない人ね。お客様? 私はカセリナ。この家の娘です」
 ――ナッソス公爵の娘。この子が!?
 彼女のひとことは、ルキアンの頭の中をかき乱した。目の前が真っ暗になり、すぐには返事ができなかった。
 ――彼女とその家族が、僕たちの敵……? 僕らは、彼女の大切なものを全て灰にしてしまおうとしている。そんなことが! もしそうなったら、この子は……。
 清楚に研ぎ澄まされながらも、極めて危うい少女の姿が、ルキアンの脳裏で砕け散った。自分が猛悪な人間であるような気がして、彼は言葉を失う。
「あら。これ、あなたのでしょ?」
 カセリナは彼の足下に転がる手帳を拾い上げ、土を払う。
 富裕なナッソス家の人間だけあって、贅沢な手袋が汚れるのを毛筋ほども気にしていないようだ。
 むしろ気になったのはルキアンの方である。純白のレースに包まれた彼女の指先に、湿った黒土が粘り付いている――なぜか、彼はそれを見て胸が重くなった。さきほど自分の中で壊れたカセリナの姿が、その光景と重なる。
 彼のそんな思いなど知らぬカセリナは、開いたままになっていた手帳のページに、何気なく目を留めた。


7 春の光の中で震える、闇に慣れすぎた心



「あ、読まないで! こ、困る……困ります!!」
 真っ赤になったルキアンは、こわばっている舌を必死に動かす。
 恥じ入る彼を尻目に、カセリナは、ルキアンのか細い文字を辿っている。
 愛らしい桜色の唇が、微かに弛んだような気がした。
 カセリナはペンを取り出し、同じページに何やら書き付けている。
 彼女はルキアンに向かって手帳を差し出した。
 生真面目に澄んだ少女の瞳が、今までの清冽さを和らげ、心なしか無邪気に光る。
「はい、どうぞ。それで、あなたのお名前は?」
「あ、あ……あの、ぼ、僕は……ルキ、ルキアン……ディ・シーマー……です。実は、その……コルダーユの街で、魔道士の、見習いをしています」
 しどろもどろになった彼が、《お会いできて光栄です、お嬢様》と最後に付け加えようとしたときには、カセリナの姿はもう遠くにあった。彼女は屋敷の奥へと、犬と一緒に上品に歩き去っていく。
 ルキアンは、自分がギルドの関係者であるとは恐ろしくて言えなかった。
 そう告げることが、まるで彼女を傷つけてしまうことに等しく思えて、決して本当のことを言えなかった。
 赤く染まった頬の熱さすら忘れ、彼は返された手帳を見る。

   降りそそぐ春の光の中で、
   闇に慣れ過ぎた この目をかばいながら、
   僕は戸惑い、力無く震えている。

 今しがたルキアンが書きかけて、途中で終わっていた詩である。
 白紙のままだったはずの続きの部分に、別の筆跡が優美に並んでいた。

   それでも僕は、やがて歩き出すよ。
   心の底に打ち捨てられていた 翼の欠片を拾い集めて、
   優しく抱きしめてあげられる日が、もうすぐ来るから。

 カセリナの粋な気遣いに調子よく高揚しながらも……ルキアンの喜びはたちまち消え去っていく。
 もし誰かが見たら寒気を催しそうな陰湿な目つきになって、ルキアンは去りゆくカセリナの背中を追った。
 ――だけど、その《翼》のために、僕は君の大切な人たちに血を流させ、君にも涙を流させることになる。それでもいいの? 僕は、君を壊すかもしれない。それでもいいの?
 あくまで明るい日差しの中で、ルキアンの心はいつしか闇に落ちていく。
 ――罪深い僕をお許し下さい。神よ。セラス女神よ……。


8 重騎士の群れを圧倒、目覚める超竜の力!



 ◇ ◇

 冷気を震わせ、轟く咆吼。それと同時に険しい稜線が崩れ落ちる。
 剣のごとき峰をなす岩盤がたやすく掘り抜かれ、雪原を切り裂く地割れの下から異様な影が姿を見せた。
 2本の角を生やした蛇のような頭が覗いた後、思いもよらぬほどの敏捷さで、地面に空いた大穴から巨体がするすると這い上がる。強靱な四肢に支えられ、分厚い装甲に包まれた胴。本体と同程度の長さをもつ尻尾が、鈍い金属音を響かせ、しなやかにうねる。
 旧世界の超アルマ・ヴィオ、深紫の竜王、サイコ・イグニールだ。
 ――陛下を守る機装騎士(ナイト)のくせに悪者に手を貸すなんて、とんでもないヤツらだぜ。このアレス様がまとめてぶっ潰してやるから覚悟しろ!
 遺跡を見張っていたシルバー・レクサーの一群。イグニールはそのただ中に、しかも突然、相手の足下から出現したのだった。現状を把握する余裕さえ敵に与えず、無鉄砲なアレスはいきなり猛攻を仕掛ける。
 地震さながらに大地が粉々になったため、レクサーのうち何体かは、すでに姿勢を崩して倒れたり、下の方に転がり落ちたりしている。
 かろうじて立っていた機体も、不意を付かれ、次々となぎ倒されていく。さすがの《重騎士》シルバー・レクサーも、さらに数倍の重量とパワーを有するイグニールに体当たりされては、ひとたまりもない。その突進をかわしたところで、今度は強靱な尻尾の一撃が襲ってくるのだ。
 ――おい、ウソだろ!? あのシルバー・レクサーが軽く飛んでったぞ!
 その圧倒的なパワーには、アレス本人も驚きを隠せなかった。
 もちろん彼自身、まだ機体に慣れていないため、イグニールの有り余る性能を上手く使いこなせていない。仕方がないので力任せにぶつかり、敵をはね飛ばし、押し倒しているだけなのだが……それだけでも面白いように戦えてしまうのだ。あの名機シルバー・レクサーの群を相手に、たった1体で。
 ――すごいぞ、すごい、凄すぎる! これが旧世界のアルマ・ヴィオなのか?わけわかんないけど、メッチャクチャ強いじゃないか!!
 調子に乗ったアレスは、そのまま力技で押し切ってしまおうとする。
 彼の意識と同調してイグニールが上体を起こし、2本の後ろ足で立ち上がった。前足あるいは腕の先端では、曲刀を寄せ集めたような鉤爪が鋭く光る。背中の翼が悠然と開かれ、堂々たる姿がいっそう強調された。
 ――ば、馬鹿な。シルバー・レクサーが完全に力負けするなんて!? 化け物か、あのアルマ・ヴィオは……。
 ――わずか1体の敵に、我々近衛隊が手も足も出ないなどとは! 何てことだ!!
 予想外の旗色の悪さに、機装騎士たちは思わず戦慄する。
 けた違いの相手を前にして慎重になったのか、残ったシルバー・レクサーは密集隊形を取ると、分厚い楯を構え、自慢のMTランスを突き出して槍ぶすまを作る。派手な動きこそないが、巨人の騎士たちが一糸乱れず列を作る様は、重厚な迫力に満ちていた。
 こうなると、困ったのはアレスの方だ。重装甲を誇るシルバー・レクサーに本格的な守備の態勢を取られては、どんなアルマ・ヴィオでも簡単には踏み込めない。まともにぶつかっていけば、手痛い反撃を受けて串刺しにされてしまうだろう。楯の中央に装備された大口径のMgS(=マギオ・スクロープ)も、その狙いをイグニールに定めている。


9 エルムス・アルビオレ―頂点に立つ機体



 冷静さや秩序だった動きに関する限り、アレスよりも近衛隊の方に軍配が上がった。《お坊っちゃん機装兵団》という情けない俗称に反して、その整然とした動きはやはり素人とは違う。
 ――くそっ! こっちが仕掛けるのを待つ気かよ。そういえばイグニール……俺、お前の武器を何も知らなかったな。つい勢いで暴れちゃって。なぁ、何か良い手はあるか? 飛び道具とかないの?
 アレスがそう念じると、すぐにイグニールから返事が返ってきた。
 ――まったく呑気な奴だな。よく聞け、速射型MgS2門と多連装MgSが1門、イリスの《サイキック・コア》と連動した遠隔操作兵器《ネビュラⅡ》、それから竜王の炎――《ハイパー・ステリア・キャノン》。そして、わが最強の兵器……。
 ――ハイパー・ステルス、何? そんなにいっぺんに喋んないでくれよ!
 よくもこれだけと思えるほどの、質・量ともに半端ではない武装だ。おまけにネビュラⅡやステリア・キャノンは、旧世界の《解放戦争》の後半になって現れた超兵器である。いくらアレスでもそんな名前は聞いたこともない。
 意外に知的なイグニールは、アレスには分かりそうもない理屈を事細かに並べ立てる。
 ――違う。ハイパー・ステリア・キャノンだ。《霊子素(アスタロン)》を物質界へと強制的に実体化させ、その際の霊的対消滅によって生じる莫大なエネルギーを利用した、超高出力の……。
 ――何だよ、そのアスタロンって? 要するに、どのぐらいすげぇんだ? 早くしないと敵のMgSが飛んでくるぞ!!
 ――そういう感覚的な質問は苦手だが。そうだな……いま我々が立っている山脈程度なら、簡単に消滅させることができる。
 ラプルスの山々を一瞬で無に帰するような力。もしそれが本当なら、アルフェリオンの《ステリアン・グローバー》以上の破壊力かもしれない。イグニールはごく平然と言ってのけたのだが。
 ――な、何? 待て、そんな危ない武器使えるかよ! 俺の家までなくなっちまうじゃないか。もっとマジメに答えろよな。
 ――今の発言は理解不可能だ。意味が分からない。私は真剣……。
 どこか間の抜けたやり取りを聞きながら、イリスは呆れていた。
 ――アレス、急がないと敵が向かってくる。
 ――あ……あれ、誰? 今の女の子の声は!?
 聞き慣れぬ言葉に、彼は耳を奪われそうになった。
 ――早く。イグニール、ネビュラⅡを射出して!
 ――まさか、イリス?
 今頃になって気付くアレス。先程までにも何度か耳にしていたはずなのだが。
 ――イリス、ちゃんと話せるじゃないか。どうして今まで黙ってたんだ?
 ――違うの。あたしは、心の中でしか……私は声を出せない……。

 そのとき、2人の話を遮って別の人間からの念信が割り込んできた。
 ――そこのアルマ・ヴィオ、お前は何者だ!? 俺たちをなぜ攻撃する?
 シルバー・レクサーとは異なる、白と金の甲冑をまとった華麗なアルマ・ヴィオが目の前に立ちはだかっていた。
 イグニールと張り合うかのごとく、龍の頭部を形取った兜。手に構えた小銃型の呪文砲、MgS・ドラグーン。優美で繊細な造形とは裏腹に、飛空艦の砲撃すら弾くと噂される甲冑。その全てが頂点に立つ者に相応しい……パラス・ナイトのみが操る機体、エルムス・アルビオレだ。
 アレスも話には聞いていたが、実際に見たのは始めてである。したがって彼の目には、正体不明の手強いアルマ・ヴィオとしか映らなかった。


10 アレスとダン 激突、熱血vs熱血 !?



 相手はいかにも熱い口調で怒鳴っている。アレスよりは年上だろうが、随分若いように感じられる。
 ――俺はパラス・テンプルナイツのダン・シュテュルマー! 名を名乗れ、そこの狼藉者!!
 ――ろーぜき者? お前こそ、よくそんなことが言えるな。悪者のクセに! 俺はアレス。人呼んで正義の勇者、アレス・ロシュトラムだ!!
 勢いづいて勝手に勇者を名乗るアレス。
 ダンという若者の方も、負けじとばかりに反撃した。
 ――ふざけるな! 正義の勇者が聞いて呆れるぜ。仮にも正義を名乗る者が、なぜこんな不埒な振る舞いをする? 俺たちを国王陛下の聖騎士団と知ってのことか!?
 ――あぁ、そうだ。聖騎士だか何だか知らないけど、悪者の手先になんかなりやがって! 正々堂々と勝負しろ、この悪党!
 ――何だと? 名誉ある騎士に言いがかりを付け、あまつさえ悪人呼ばわりする気か! 許さないぞ、正義をかたる悪のドラゴン。この俺が退治してやる!
 2人の話は全くかみ合っていない。双方とも単細胞極まりない熱血漢で、しかも自分こそが正義の戦士だと思って譲らないだけに、始末に負えない。
 このダンという男、恐らくチエルたちの一件について事情をよく理解していないようだが……。ともかく、ファルマスが彼を敢えて地上に置いたままにしていた理由が、何となく想像されるというものだ。
 迸る熱血をたぎらせ、対峙する2人のエクター、2体のアルマ・ヴィオ。
 現世界で最強の汎用型、白と金の騎士エルムス・アルビオレと、旧世界の残した遺産、深紫の超竜サイコ・イグニール。
 気合いが高まり、両者がまさに攻撃に移ろうとした瞬間……側面の崖下から、別のエルムス・アルビオレが2体現れた。
 ――ダン、この大変なときに何を遊んでいるのです?
 柔らかな声が念信を通じて伝わってくる。
 ――エルシャルト! これは一体どういうことだ? 俺の方が聞きたいぜ。
 ますます状況を理解できなくなるダン。
 新手のエルムス・アルビオレは、ファルマスの命を受けて出撃してきたダリオルとエルシャルトのものだった。
 同じアルマ・ヴィオであっても、パラス・ナイト各人の個性に合わせて改良が施されている。ダリオルの機体は全体的に装甲が軽量化され、贅肉のない精悍なイメージである。剣の鞘を思わせる円筒形の装備を背負っている点も、特徴的だ。
 他方、エルシャルトのそれには、ネビュラやランブリウスの発射管・制御装置など……明らかにマギウスタイプ(魔法戦仕様)と分かる武装が取り付けられていた。

 ――そんな奴にかまっている暇などない。エルシャルト、ダン、回りによく気を付けてみろ。いや、すでに気づいているな?
 ダリオルの心を映してか、冷淡な口調の念信が響く。
 目には見えないが、確かにいる。
 雪面が揺れ、強風が所々で何かに遮られつつ流れているような気がする。
 1体、2体……いや、すぐには数え切れないほどの数だ。何もないはずの場所に幾つもの気配がする。しかも相当大きな物体らしい。
 これらの姿無き者たちによって、遺跡の周囲は完全に包囲されていた。
 だが、エルシャルトは冷静につぶやく。
 ――《精霊迷彩》ですか、なるほど。そうだとすれば相手は議会軍の特務機装隊、彼らの《インシディス》に違いないでしょう。それで、どうします? ファルマスはあんなことを言っていましたが……。


【続く】



 ※2001年2月~3月に鏡海庵にて初公開
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