鏡海亭 Kagami-Tei  ネット小説黎明期から続く、生きた化石?

孤独と絆、感傷と熱き血の幻想小説 A L P H E L I O N(アルフェリオン)

・画像生成AIのHolara、DALL-E3と合作しています。

・第58話「千古の商都とレマリアの道」(その5・完)更新! 2024/06/24

 

拓きたい未来を夢見ているのなら、ここで想いの力を見せてみよ、

ルキアン、いまだ咲かぬ銀のいばら!

小説目次 最新(第58)話 あらすじ 登場人物 15分で分かるアルフェリオン

『アルフェリオン』まとめ読み!―第2話・後編


【再々掲】 | 目次15分で分かるアルフェリオン




 細波だつ青い海の向こう、獲物に近づく獰猛な肉食魚のごとく、何かが密やかに浮上した。
 波間に見え隠れする黒い小塔のような部分の下、水面下には巨大な影が潜んでいる。エイに似た扁平な姿は、背部の面積だけなら、クレドールと比べてさえひと回りは大きい。腹部に切れ込んだ、えら穴を想起させる溝からは、少しずつ、少しずつ、気泡が不気味に水面に立ち上っては消える。
 人知を超越した魔物たちが棲むイリュシオーネだとはいえ、これほどの巨体をもつ海の生き物は、島と見まがうほどの大ダコ(あるいは大イカという説もある)クラーケンか、海の主とも言われる海竜シーサーペントぐらいのものである。
 しかし、謎の影から深い海の底へと響きわたる機械的な鼓動……血の通った生き物がそれを発しているとは、到底思えない。
「コルダーユ付近の海域には、ギルドのものと思われる飛空艦が1隻停泊しているだけです。他のギルドの艦船は勿論のこと、国王軍や議会軍の部隊の姿も見あたりません」
 潜望鏡型の複眼鏡をのぞきながら、兵士が言う。
 真鍮製のよく磨かれたボタンが光る、青いジャケット、そして同じく青色のバイコーン・ハット(*2)を被り、ズボンは黒のブリーチズ……明らかに議会軍の水兵である。
 けれども、今では議会軍には2種類の人々がいる。一方は正規軍、他方は……この兵士の右腕にも巻かれている黄色い帯、それを仲間の印とする反乱軍である。
 議会軍の海軍兵士たちについては、そのジャケットの袖のボタンの数で所属が分かるのだが、彼の4つボタンはまさに海軍屈指のエリート戦士たち、海兵隊の印である。
 議会軍の約何割が反乱軍側についたのかは、現在明らかではない。しかし少なくとも3分の1以上が正規軍と敵対、中立を守る者たちも含めれば、半分以上が正規の議会軍から脱退したことになっているらしい。
 この船も、反乱側についた議会軍の飛空艦だった。潜水能力をも有することで、他の船とは一線を画する最新鋭艦《ガライア》である。ガライアとは、イリュシオーネの言葉で、文字通り《エイ》のことをいう。
「そうか。ギルドの飛空艦はいかなる船なのか?」
 片方の目に眼帯をした男が、艦橋中央部の座席から言った。
 大柄な体躯に、野太い声。軍の司令官と言うよりも、むしろ海賊の親玉に近い雰囲気を漂わせている。腰に差した時代錯誤な広刃の剣も、サーベルの優美な曲刃とは違って荒々しい。
「はっ、キャプテン! 大きさは主力の戦艦クラスよりも多少小さめですが、おそらく戦闘母艦かと思われます」
 様々な船の絵図が綴じられた、分厚いバインダーを必死にめくりつつ、別の兵士が答えた。
「戦闘母艦……ということは、アルマ・ヴィオを積んでいるということだな?」
「はい。敵艦の後部はアルマ・ヴィオ発着用の飛行甲板に改造されています」
 司令官は濃い髭の生えた顎をしきりに撫でさすって、しばらく考えていた。
 容貌の割には、声の質からして、思ったより歳が若いように思われる。もしかすると、まだ30代半ばというところかもしれない。
 やがて彼の目の奥底から、不敵な眼光がじわじわと浮かび上がってきた。挑戦的な声で彼はつぶやく。
「ふん……たかが1隻の飛空艦で何ができる。我らは議会軍に其の名を轟かせたギベリア強襲隊だ。ミシュアス、アルマ・ヴィオ隊の用意は?」
 司令官の背後で静かにうなずいた男……歳の頃21、2ばかり、青みがかったクセのある黒髪は肩口にまで伸び、その間からときおり鈍い光を放つのは、オニキスらしき石でできた漆黒のピアス。
 艦橋の他の兵士たちと違って、彼だけは制服を身に着けていない。大きく開いた二重袖の、黒いフロックをまとい、その袖口からは銀灰色のフリルがのぞく。森の奥深くに住む妖精族を思わせる、細身でしなやかな長身。
「いつでも出撃できます。ガークス艦長」
 彼、ミシュアス・ディ・ローベンダインは、一見とても穏やかな顔で司令官に答えた。その実、彼の青磁のような目は……見るもの全てを凍てつかせるような、冷たい恐るべき輝きを宿している。
「艦長、提案があります。我々は、おそらく飛行型アルマ・ヴィオの数においては相手に勝っているでしょう。なぜならギルドの船は、たいてい単独で作戦行動するがゆえに……1隻のみでも様々な状況に対応できるよう、色々なタイプのアルマ・ヴィオを積んでおかねばならないからです。一般的な搭載力から考えて、敵艦が有する飛行型はせいぜい1体か2体。残りは陸戦型や汎用型でしょう」
「ふむ、広く浅くと言うことか。それを逆用するわけだな」
「いかにも」
 ミシュアスの目が一段と光を増した。その姿は狡知に長けた大鴉のように見える。
「陸地近くで戦えば、敵の陸戦型アルマ・ヴィオや、汎用型に活動の余地があり、なにかと面倒です」
「なるほど……」
「当初の予定では、コルダーユの港を強襲制圧することになっていましたが、どうせ敵はあのギルドの飛空艦1隻のみ。それならば、まず飛空艦を海上で叩いておいてから、上陸しても十分ではないかと。海上での戦闘なら陸戦型は無意味、汎用型など空の上では飛行型に手も足も出ません。護衛に出てきたアルマ・ヴィオさえ倒せば、図体が大きいだけの飛空艦など、簡単に落とすことができます」
 ガークスは、ミシュアスの意見におおむね賛同の意を示した。
「よろしい。君の提案を受け入れよう」
「ありがとうございます。もし戦力が不足であれば……私の《アートル・メラン》も、飛行型に劣らぬ働きをすることができます」
 ミシュアスが穏やかに、それでいて自信たっぷりに言った。
 格納庫へと向かう彼を見送って、ガークスが命じる。
「水中用アルマ・ヴィオの出撃準備もさせておけ。二番艦と三番艦にも作戦の変更を伝えろ」
 ガライア一番艦の背後で、さらに2つの影が、暗い海から水面近くにゆっくり浮上しつつあった。敵は1隻ではなかったのだ。


【注】

 (*2)この場合、前後のつばを上向きに折り返した帽子をいう。二角帽子とも。特に18世紀末前後によく見られる。ナポレオンも、この種の帽子を被った姿でしばしば描かれている。





「メイとバーンからの連絡はまだないのか……」
 比較的小柄でがっちりとした体格の男が、舵輪の前を行ったり来たりしながらつぶやく。
 まだ20代後半ながら、すでに世慣れた奥深い貫禄を持ち合わせている。やや禿げ上がりつつある広い額、縮れた黒髪の向こうに、縫い跡も生々しい刀傷が刻まれていた。少年時代からギルドの飛空艦に乗り込み、幾多の修羅場をくぐり抜けてきた強者の証だった。
 この男が、若くして経験豊富なクレドールの操舵長、カムレス・バーダーである。
 自前の衣装は上着とズボンだけに限り、あとはクレドール乗組員の準制服――濃紺のベレー帽、同じく紺の縁取り付きの白いウエストコート、例の3色の剣帯、そしてギルドの青紫のクラヴァット――を全て身につけている。
 公の儀式の場ならともかく、普段もこれらの準制服をきっちりと着用しているクルーは、カムレスの他にはほとんど見られない。秩序の中にも個人の創意を最大限に生かすという、ギルドの気風ゆえに、制服の着用の仕方は個人の趣味に任されていた。服装ひとつをとっても、カムレスの謹厳さが反映されているようで面白い。
 ちなみに彼が、ベレーの色に合わせてフロックとブリーチズも紺で統一しているのは、衣装のセンス云々と言うよりは、むしろその実直な性格の反映であろう。
 彼の側面の席にいる女性が、若干取り澄ました表情で返事をする。ツンとした高い声が周囲に響く。
「えぇ、何も言ってこないけど……どうやら取り越し苦労だったかもしれないわね。このあたりで反乱軍が活動しているという話は、まだ聞かないし」
 座席のコンソールには奇妙な設備が色々と並んでいる。彼女の右手は、大きな水晶球の上に置かれたままじっと動かない。他方で左手は、ピアノの鍵盤が何層にも重なったような装置の上で忙しく働いている。実はこれがクレドール艦橋の念信装置だった。
 彼女は、いわば通信士と各種データ収集係を兼ねている。
 セシエル・エスポルトン……腰の辺りですっぱりと切り揃えられた黒髪、落ち着いたまなざしの中にも厳しさを漂わせる切れ長の目、細身の体つき……それらが相まって、独特の緊張感ある知的な雰囲気を醸し出している。華やかさや柔らかさに少し欠ける感もなくはないが、やや近寄りがたいほどの凛としたイメージは、彼女に個性的な美しさを与えている。
 ごく薄いあさぎ色のタイトなロングスカートに、上着はチャコールグレーのスペンサージャケット(*3)、双方とも、余分な装飾をなるべく省いた仕立てになっており、それがかえって洗練された大人のイメージを漂わせる。男性クルーとは違って例の剣帯を付けず、その代わりにベルトの上に、あの3色で染められたリボン地の帯を巻いている。これは他の女性乗組員も同様だ。
「あら?」
 彼女の手がふと止まった。
「どうした、セシエル」
 振り向いたカムレスを制止しつつ、セシエルは目を閉じ、右手の下にある水晶球に精神を集中させた。
「メイからよ。反乱軍の仕業ではなかったようだけど……でも、なんだか変なことを言ってるわ」
 セシエルはメイと交信する。
 ――メイ、それはどういうことなの?
 ――この街のラシィエン導師の弟子で、ルキアン君。例の爆発に関係あるの。それから……彼のアルマ・ヴィオ、ぜひ艦長たちに見せる必要があると思って。あなたもきっと驚くわよ。連れていってかまわないでしょ。
 ――ちょっと待ちなさいよ。見知らぬアルマ・ヴィオを艦内に入れるわけにはいかないわ。反乱軍でないっていう保証はあるの?
 ――えぇ、私が保証する。お願い。
「副長……」
 困った顔をしているセシエルを見て、クレヴィスがにっこり笑って近づいてくる。
「どうしました? 何々、ふんふん……」
 クレヴィスはセシエルから一通りの説明を聞いた後、呑気に言った。
「ラシィエン導師は、このあたりでも高名な魔道士です。そのお弟子さんなら心配ないでしょう。入れてあげればどうですか」
「副長がそうおっしゃるのでしたら……」
 セシエルは辺りを見回した。カムレスやランディもうなずいている。
 ――メイ、着艦を許可します。艦長にはこちらから伝えておくわ。
 ――無理言って悪かったわね。


【注】

 (*3)燕尾服を身頃の真ん中あたりから水平に断ち切ったような、短い上着を想像してもらえばよい。ただし、ここでは、現在の夏期の夜会服であるスペンサージャケットとは違って、その原型となった19世紀頃の本来のスペンサーのことをいう。





 ルキアンは再びアルフェリオンに乗り込んだ。メイたちとともにクレドールに向かうためである。
 メルカを一人で残しておくわけにもいかず、色々と考えた結果、バーンのアトレイオスの乗用席(エクター以外の人間を同乗させるための狭い座席)に乗り込ませるのが一番安全であろう、ということになった。
 ――ふぅ。俺は置いてけぼりかよ。
 念信を通じて、バーンの声がルキアンとメイに伝わってくる。
 メイは面倒くさそうに返事をする。
 ――仕方がないでしょ、ルキアン君はほとんど飛んだことがないんだから。
 アルフェリオンは、さきほどアトレイオスがそうしていたように、上体を低くしてラピオ・アヴィスの上に屈み込んでいる。ただし、どことなく不格好な姿勢だ。
 過去に数回ほど、ルキアンも練習用のアルマ・ヴィオで低空飛行をしたことがあるにはあるのだが、それは雛鳥の羽ばたきに等しい……よちよち歩き程度の飛行訓練に過ぎなかった。一人でまともに飛べる自信はない。まして使い慣れないアルフェリオンでは。
 結局アルフェリオンがラピオ・アヴィスに乗ったため、アトレイオスは自力でクレドールまで帰らなければならなくなった。
 アトレイオスを含めて、汎用型(人型)アルマ・ヴィオも、理屈の上では飛行が可能ということになっている。しかし、よほど性能の良い物でない限り、あくまで《飛ぼうと思えば無理ではない》という次元であって、空中戦など望むべくもない。風の精霊界の力を借りて、魔法による揚力とごく緩慢な推進力を生み出すのだが……その動きについては、飛ぶというよりも《浮遊する》と表現する方がたぶん適切だろう。何しろ翼がないのだから仕方がない。
 バーンの念信がまた入る。
 ――アトレイオスで飛んで帰れってか。冗談だろ。
 ――そうよ。10数分もあれば着くでしょ。それがイヤなら歩けばどう?
 ――へいへい。メルカちゃんものっけていることだし、とりあえず港までは歩いてゆっくり帰る。
 ルキアンには、ラピオ・アヴィスの背中がとても狭く思えた。少しでもアルフェリオンを動かせば、ずり落ちてしまいそうなほどに。実際には十分な余裕がある。だが不慣れなルキアンは、もし途中で落ちたらどうしようかなどと心配をめぐらせ、ひとりで緊張している。
 そんな彼の心にメイの念信が浮かぶ。
 ――ルキアン、用意はいい? ゆっくりと飛ぶから、心配しないで。
 ――このまま動かなければ良いのですね。落ちたりしないですか?
 ――大丈夫だってば。飛行に入ったら、自動的にラピオ・アヴィスと何重にも接合されることになっているから、たとえ宙返りしたって落ちないわ。
 ――お願いします。うう……。
 ――もぅ、心配性なんだから。おねぇさんにまかせなさいって!
 ルキアンがようやく覚悟を決めたとき、ラピオ・アヴィスが羽ばたき始めた。人家に近いので加減しているとはいえ、付近は大嵐のような様相を呈している。木々の枝は激しくしなり、強風が草原を波のように駆け抜けていく。
 ――飛んだ!
 ルキアンは、自分の体……いや、アルフェリオンの体が宙に浮いたのを感じた。
 それと同時に、予めメイに指定された位置にあるアルフェリオンの手足を、彼女の言った通り、留め具の役を果たす器官が固定する。
 ここまではルキアンにも状況がよく分かっていた。その後、ラピオ・アヴィスが次第に加速し、空高く昇っていくにつれて、彼は必死にしがみついているだけで精一杯になる。

 ルキアンがようやく落ち着き、我に返ったときには、ラピオ・アヴィスはすでに港の上空にあった。
 沢山の船がひっきりなしに出入りしている。
 恐らく他国から来たのであろう、大型の商船が隊列をなして通っていくと思えば、小さなはしけの姿も転々と見える。
 港近くの広場には市が建ち並ぶ。人々の熱気が空にまで伝わってきそうなほど賑わっている。コルダーユはこの地方有数の港街なのだ。
 逆に言えば、そんな重要地点をろくに警備していないのだから……オーリウムの当局がいかに平和に慣れきっていたかが分かる。反乱軍との主戦場に力を集中するため、部隊数が不足気味になっているせいも勿論あろうが。
 ――ルキアン、気分はどう?
 メイがくすくすと笑い、念信を送ってくる。
 なんとか返事をする余裕の戻ったルキアン。
 ――え、えぇ、元気です。
 ――ふふ。思ったより簡単でしょ。今度は自分で飛んでみなさいよ。





 そこでメイの心の声が、真面目な調子に変わった。
 ――ところで、例の話、キミの兄弟子……ヴィエリオさんのこと。これは私の考えすぎかもしれない……失礼なことを言って申し訳ないけど……ドゥーオの一件、どうも変だと思わない?
 ルキアン自身考えていなかったことではなかった。しかし、言われたくないことを指摘されたように彼は感じた。気まずい心持ちである。
 ――ドゥーオの動かし方を知っている人間は、キミの先生の他には、ヴィエリオさんしかいなかったわけでしょ。そして、現に今も姿を消している。まさかとは思うけれど……ねぇ、私が何を言いたいか、分かるでしょ?
 ルキアンはしばらく黙っていたが、仕方なく答えた。
 ――えぇ。でも、ヴィエリオ士兄に限って、そんなことをするはずがありません。だいたい、あんなひどいことをして、士兄に何の得があるというのです?
 ――問題はそこよ。本当に、思い当たることはないの?
 ヴィエリオは、カルバの跡継ぎとして将来を約束されていた。人間的にみても、礼儀正しい紳士だった。そんな彼が……ドゥーオを奪い、研究所を破壊し、そしてソーナをも連れ去るなんて、ルキアンには到底考えられなかった。
 ――そ、それに……。
 ルキアンにとっては、むしろこの言葉の方が口にしたくないことだった。
 ――ソーナさん、ヴィエリオ士兄のことがかなり好きだったようですし……。
 ソーナにほのかな恋心を抱いていたルキアンであったが、実は彼女の本心を、その言動を通してよく理解していた。
 彼は少し不機嫌になった。
 ――それなのに、なぜヴィエリオ士兄がソーナさんをさらわなければ?
 メイはあきれたといった口振りである。
 ――それを早くおっしゃいよ。だったら、さらわれたんじゃなくて……ソーナさんが、自らヴィエリオさんと一緒に逃げたと考えられなくもないでしょ?
 ――そんな、ばかばかしい!
 ルキアンが珍しく反抗的な口調になったのを聞いて、メイが彼をなだめるように答える。
 ――そんなにカッとしないのっ。あ、見えたでしょ、あれがクレドールよ。

 そのとき、予想すらしていなかったことが起こった。
 ――これはっ?!
 激しい衝撃と共に、メイの悲鳴が伝わってくる。
 ラピオ・アヴィスが素早く旋回した。
 ルキアンは本当に振り落とされるような気がして、必死にしがみつこうとする。それに応じてアルフェリオンの手足にも力がこもった。
 間一髪、今までラピオ・アヴィスがいた場所で、爆音を轟かせて炎が燃えさかる。火精系の、しかも相当レベルの高い魔法弾だ。
 ――何よ、敵?! ルキアン、しっかりつかまって。
 なおも幾つかの攻撃が炸裂する。
 風精系の魔法弾が、凄まじい衝撃波を起こしてラピオ・アヴィスの羽根をかすめていく。
 ――こちらメイ! クレドール、応答して、いったい何なのよ?!
 メイは念信を送りつつ、ラピオ・アヴィスを急上昇させる。
 ――こちらクレドール! メイ、敵は飛行型アルマ・ヴィオ、え?……5、6、いいえ、7機!!
 セシエルが答えた。

 ◇ ◇

「メイを援護します。マギオ・スクロープ全砲門開け! カムレス、前方の敵艦からの攻撃を避けつつ、ラピオ・アヴィスを急いで収容してください!」
 クロークをひらりと翻して、振り向いたクレヴィス。
 クレドールの艦橋も、突如として緊迫した雰囲気に覆い尽くされた。
 彼の隣にいたランディが、周囲を見回した後に走り出した。
「みんな持ち場を離れられないな。俺はカルを呼んでくる」
 カル、つまり艦長のカルダインに知らせに向かったらしい。
「ラピオ・アヴィスを収容したら直ちに結界防御を! それから……」
 クレヴィスの表情が険しくなった。
 ――困りましたね。こちらの飛行型は、ラピオ・アヴィスだけですか。
 クレドールの今回の出動は、アルマ・ヴィオを使って村々を襲う野武士たちを、某所で制圧するためだった。深い森や渓谷地帯での戦いが予想されていたので、主に陸戦用アルマ・ヴィオをいつもより多く積み込み、その分、飛行型はほとんど用意してこなかった。実際それで野武士たちを首尾良く退治できたのだが……。
 いくら戦闘母艦のクレドールとはいえ、1隻で搭載できるアルマ・ヴィオの数など、たかがしれている。ミシュアスの狙いは見事に的中したというわけだった。

 ◇ ◇

 ラピオ・アヴィス同様に、鳥の姿をしたアルマ・ヴィオが4機、銀色の翼を煌めかせて接近してくる。威圧的な声で鳴き、金属の鋭い鉤爪をこれ見よがしに開いたかと思うと、マギオ・スクロープから魔法弾を放つ。
 だが、いっそう注意すべき相手だと予想されるのは、その一群の背後で不気味に静まり返った3つの影である。
 異様な姿は、伝説の魔獣……獅子の体に鷲の翼・頭をもつヒポグリフを思わせた。安定した軌跡を描いて高速で飛ぶ様は、飛行型のようにも見えるが、それでいて陸上でも恐るべき力を発揮しそうな逞しい鋼の手足を備えている。
 ミシュアス麾下の3体のアートル・メランであった。赤と黒で塗り分けられた色使いが毒々しい。

 ――さて、それでは狩りを始めましょうか。
 黒の貴公子ミシュアス。
 心の闇の奥底に浮かぶのは、
 妖しくも氷のように冷ややかな……死のほほえみ。


【第3話に続く】



 ※1998年4月に鏡海庵にて初公開
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