鏡海亭 Kagami-Tei  ウェブ小説黎明期から続く、生きた化石?

孤独と絆、感傷と熱き血の幻想小説 A L P H E L I O N(アルフェリオン)

生成AIのHolara、ChatGPTと画像を合作しています。

第59話「北方の王者」(その1)更新! 2024/08/29

 

拓きたい未来を夢見ているのなら、ここで想いの力を見せてみよ、

ルキアン、いまだ咲かぬ銀のいばら!

小説目次 最新(第59)話 あらすじ 登場人物 15分で分かるアルフェリオン

『アルフェリオン』まとめ読み!―第24話・中編


【再々掲】 | 目次15分で分かるアルフェリオン


5 古の契約、黒き翼のパラディーヴァ



 極悪非道の暴漢一味も、あまりに残虐な出来事に吐き気を覚えた。
 しかも、何があったのかも分からないまま、彼らの仲間は殺されていたのだ。こんなことができるのは魔法しかあり得ないが、呪文を唱えた様子もない。
「あ、悪魔か!? そんな馬鹿な、助けてくれ!! お願いだ!」
 人間が太刀打ちできる相手ではなかった。あの大男が必死に助けを請う。
 だが《彼女》は無表情に、緩やかな動作で右手を掲げた。
「私は悪魔ではない。《パラディーヴァ》だよ……」
 どこまでも静かな――それでいて、魂の底から恐怖を感じさせる声で彼女は言った。
 その言葉が終わるや否や、何の前触れもなく大男は激しい炎に包まれる。
 奇妙なことに火は決して周囲に燃え移らず、彼だけを焼き尽くす。
 断末魔の叫びが聞こえた直後、そこには黒こげの骨のみが転がっていた。
 残りの者たちはひたすら逃げまどう。
 太々しい悪人づらなど、もはや見られなかった。野獣に襲われた羊の群のように、彼らはただ慌てふためき、青い顔で右往左往するだけである。

  ◇

 その光景はルキアンの目にも映った。
 ――何? 何が……。
 彼はようやく気が付き、凄まじい殺戮のただ中に投げ込まれた。
 壁や床、辺り一面が血に染まり、どぎつい死臭が渦巻く。
 だが、この修羅場よりもさらにルキアンを驚かせたものは――目の前にいる、見覚えのある人影だった。
「翼を持った、あの黒い服の……」
 様々な思いが胸の奥で一度に去来する。愕然と座り込むルキアン。
 黒衣の女は人間めいた雰囲気を露わにし、感慨深く告げた。
「ようやく私を呼び出してくれたのですね。わが新たな主よ。永劫にも等しい時を経て、こうして出会うことができるとは」
「呼んだ? 僕は、何も……」

 彼らが言葉を交わしたとき、ならず者たちが隙を見て逃亡しようとした。
 しかしパラディーヴァというものは、どこまでも冷徹なようだ。
 幻か? 無数の黒い羽根が、吹雪のように周囲の空間を埋め尽くす。
 ルキアンが目を凝らしてみたときには、おぞましい現実だけが残されていた。
 悪漢たちの姿は跡形もなく、切り刻まれ、赤く染まった肉の山が……。
 床を埋め尽くしていたのは、もはや人の身体ではなかった。

「な、何をするんだ!? 酷いじゃないか!!」
 思わず怒りの目で睨むルキアン。
 黒衣の女は不思議そうな顔をすると、ルキアンを見つめたまま首を傾けた。
「わが主よ、全てはご命令に従ったまで。こうするために私を召喚したのも、あなた自身です」
「そんな、知らないよ!? 何を言う? 僕は殺せなんて、殺せなんて……」
 ルキアンは急に口を閉ざした。
 あの幻は、夢などではなく本当のことだったのだ。
 ――やつらを殺したいと僕は願ってしまった。それは確かだ。何てことを、何という取り返しのつかないことを、僕は!!
「そう。それが私を呼び出すための鍵だったのです。さきほど本気で誰かを殺したい、と生まれて初めて思いましたね? それが古の契約に定められた条件でした。私があなたのもとに、こうして姿を現すための……。中途半端な気持ちでパラディーヴァを使う者は、いずれその力に溺れて滅びます」
 霞のように漂いながら、黒衣のパラディーヴァは言う。
「今日の日のこと、深く心に刻まれよ……。私の名は《リューヌ》。名前を呼ばれれば、私は直ちに主のもとに姿を現し、ご命令に従います」


6 理想と目の前の人間…守るべきは?



 ならず者たちが消え去った後、残された血の海。
 そこに横たわる人の姿に、ルキアンは胸が張り裂けそうな思いで目を向けた。
「シャノン? そんな……。シャノン!!」
 無惨に辱められた彼女の姿を、ルキアンは直視することができなかった。
 愛らしい顔はひどく殴られ、腫れ上がっていた。
 あの生き生きとした輝きを失い、宙を見つめる虚ろな目。
 力を失い、だらりと伸びきった手足。
 繊細な白い肌に血の跡がこびり付いている。
 彼女は動くこともなく、仰向けになったまま転がされていた。

 悲しくて、悔しくて、可哀想で、ただ涙が止まらず……。
 もはやルキアンには感情を言葉にすることさえ叶わなかった。
 発狂したかと思われるほど、異様な叫びをルキアンが上げた瞬間。
 壊れそうになる彼の心を、背後に立つリューヌが支えた。
 リューヌが側に居ると、何故か理由もなく、本能的な安堵感に包まれる。
 彼の感じやすい心は破れずに済んだ。

 突如、強烈な揺れが彼らを襲った。
 窓ガラスが割れ、壁土がパラパラと崩れる。すぐそこで耳をつんざくような爆発音が轟いた。
「さきほどの者たちの仲間です。外にアルマ・ヴィオが9体」
 リューヌが機械的に告げる。
「このままじゃ崩れる! 早く逃げなければ。でも外に出たら、あいつらのアルマ・ヴィオにやられてしまう!!」
 パニックになりかけたルキアンに、リューヌが冷静に言う。
「心配は要りません。あのようなアルマ・ヴィオなど、すぐ片づきます……」
 さらなる砲撃が加えられた。屋根を支える柱や壁は、悲鳴を上げている。
「ともかく、このままでは下敷きになる!」
 ルキアンはシャノンに駆け寄り、抱き起こす。彼は自分のフロックを脱ぐと、彼女に肩から掛けた。
「このままじゃ死んじゃうよ! 今は動いて、生きて、シャノン!!」
 人形のように固まった彼女の手を取り、ルキアンは戸口に近づいた。
「せめて、アルフェリオンがあれば……」
 壊れた扉の向こうに、うなり声を上げるティグラーの群が見える。
「もうそこまで来ています。わが主よ」
 夜の大地をリューヌが指差す。
「そんな馬鹿な。アルマ・ヴィオが勝手に動くなんて」
 ルキアンは信じ難いといった様子で目を凝らしてみる。
 暗くてよく分からない。リューヌには見えているのだろうか。
「今から私たちはアルマ・ヴィオの中に転移します。ただし、わが主よ。私と《融合》した時点で、アルマ・ヴィオの《ステリア》の力は自動的に開放されてしまいます。それでも構いませんか?」
「それは……」

一瞬、躊躇したルキアンだが、彼はもう迷わなかった。
 ――あのならず者たちが押し掛けてきたときだって、僕が本当に撃っていたら、シャノンやトビーだけでも逃げられたかもしれなかったんだ。今、その過ちは繰り返したくない。
 彼は目を見開き、痛々しい諦念のこもった声でつぶやく。
「僕は、甘かったかもしれない……。もちろん、人はいつか分かり合えるという、僕の理想を捨てるわけじゃない。でも、少なくとも《理想》という命を持たぬものを守り通すために、《生身の人間》の犠牲に見て見ぬ振りをするなんて、僕には正しいとは思えない。だから、これからの僕は――時には笑顔や穏やかな気持ちを捨てて、時には理想に背いても剣を取る。結局、人間は不完全な存在なんだ。言葉だけでも、剣だけでも、《優しい人が優しいままでいられる世界》を築くことなんてできない」
 ルキアンは真に決意を固めた。
「構わないよ、リューヌ。ステリアの力を開放して」
「分かりました。それでは《転送陣》を描きます」
「リューヌ、全くの直感なんだけど――旧世界でアルフェリオンを創造した人だって、本当はステリアの力なんかに頼らずにいたかったんだと、僕は思う。だけどやっぱり、みんなが優しく穏やかに暮らしていけるように、必要だったから、ステリアの力をアルフェリオンに組み込んだのだと思う……」
 ルキアンはシャノンを安心させようと、そっと抱きしめた。
 彼女は無言で体を小刻みに震わせている。
 瞬く間に、2人の足元に光の魔法陣が描き出される。
 見たこともない呪文が、細かく書き込まれたサークル。旧世界の魔法だ。
 リューヌがルキアンたちを翼で包むと、3人は光となって消えた。
 直後、獣のような、いや、竜を思わせる咆吼が夜の平原に響き渡る。
 アルフェリオンだ。
 パラディーヴァと融合し、真のステリアの力を覚醒させた銀の天使。
 ――よくもシャノンを……。もう、お前たちの悪行は繰り返させない!
 ケーラに横たわるルキアンは、断固として言った。


7 人の争いを見つめる、人にあらざる存在



 ◇ ◇

「見るがいい……。これは紛れもない事実だ」
 陰鬱な声が響くと同時に、闇の中にアルフェリオン・ノヴィーアの姿が映し出される。6枚の翼を背負った外見自体は普段と変わらない。だが白銀色の甲冑の上に異様な妖気をまとうアルフェリオンは、これまでと同じ機体には到底思えなかった。
 鬼火が青く揺れる――輝きながらも、どす黒い影が宙の裂け目から湧き出しているかのような、魔性の炎。翁を模した黄金色の面が、妖しい灯火の向こうで鈍く光っている。
 この《老人》のマスクは、どこか道化師と似た雰囲気も合わせ持つ。笑い顔のまま表情を変えることのない仮面は、それだけにいっそう薄気味悪い。
「感じるであろう? 今にも荒れ狂わんばかりの《ステリア》の鼓動を」
 生者をあの世に誘うという、死霊の歌を彷彿とさせる声色。どうやら《老人》の黄金仮面の口から出たものらしい。
 別の誰かが軽い感嘆の念を込めて答えた。
「有り得ぬことだ、と言いたいところだが……。確かにこのアルマ・ヴィオは、忌々しい《黒き翼のパラディーヴァ》と融合している。一体、何故に?」
 奇妙に長いくちばし――あるいは鼻にも見えるが――を持つ、《鳥》の黄金仮面だ。機械的な口調の《老人》とは対照的に、こちらは他人を嘲笑うような冷淡な含み笑いを伴っている。
 《鳥》の仮面は続けた。
「《マスター》に命じられない限り、パラディーヴァはアルマ・ヴィオと融合できぬもの。だが《彼女》のマスターはすでに死んでいる……。それも遙か昔、人間どもの言う《旧世界》が崩壊した際に」
「では、新たなマスターが現れたと?」
 そう尋ねたのは、両目の穴以外には何の造作も施されていない仮面――それは強いて言えば、剣技の訓練の際に被る防具を連想させる。また鎧の騎士のように見えなくもない。《兜》の黄金仮面と呼ぶのが適当だろうか。
 と、枯れ木の鳴るような声で《兜》の言葉を否定する者がいた。
「第二のマスターか? 冗談が過ぎる……。同一の《霊気周波》をもつ人間が2人も存在することは、およそ考えられまい。ましてや、ちょうど今の時点にその者が現れるなどと」
 《魔女》の仮面の台詞だ。
 その面相は美しいと言えなくもないのだが、男のように彫りの深い顔と極端に突き出した顎からは、やや不自然な印象を受ける。本来は若い女を表現したマスクであるにもかかわらず、眺めれば眺めるほど老婆に見えてくるのも空恐ろしい。
 暗黒の空間に浮かぶ映像に変化が起こる。
 睨み合いを破り、2、3体のティグラーがアルフェリオンに猛然と突撃した。
 黄金仮面たちは興味深げに見入っている。

 ◇

 量産タイプに過ぎないティグラーも、さすがに陸戦型だけあって足は速い。
 疾風のごとく三方に散り、連携して攻めてくる鋼の猛虎たち。
 一対一ならともかく、多くの陸戦型を相手にすると汎用型は分が悪い。基本的にスピードが違いすぎるのだ。
 ならず者たちのティグラーは軽装の突撃タイプなので、なおさら素早い。
 遠巻きにし、飛びかかったかと思うとまた離れ、魔法金属の牙と爪がアルフェリオンに襲いかかる。
 ――大体、たった1体で9体の敵に戦いを挑もうなんて、頭がおかしいんじゃないか?
 ――俺たちゃ傭兵だ。素人が手を出すと怪我するぜ!
 最初はアルフェリオンの放つ威圧感に押されていた悪漢たちだが、たちまち余裕を見せ始める。
 しかし、それは途方もない勘違いだった。
 今まで微動だにしなかったアルフェリオンが、電光のごとく飛び出す。
 ほとんど同時に爆発が起こった。
 腕を突き出したままの銀の天使。その前には炎を上げるティグラーの残骸。
 ――み、見えなかったぞ? 今のは……。まさか魔法か!?
 すぐ隣で爆炎が上がるのを目にして、敵のエクターが戦慄する。
 彼のティグラーが回避の姿勢を取ろうと足を踏み出したとき、白銀色の腕が目の前に迫り、その掌が機体に接した瞬間――またも爆発が起こった。
 MTソードも持たず、MgSも発射せず、わずか一撃で破壊。
 どのような攻撃をしているのか、相手方には見当も付かない。


8 「審判の日」―仮面たちの予言?



 ◇

「あのアルマ・ヴィオ、ステリアの力を体表から直接に放射している」
 《兜》の黄金仮面が言った。
 半ば楽しげに《老人》の仮面が応じる。
「さよう。あれが触れた途端、ステリアの波動が敵の機体に浸透し、物質界の次元で破壊するのは勿論のこと、その背後にある霊的結合すら寸断する。強力な《次元障壁》を張るか、あるいは《屈曲空間》に包まれていない限り、防御は困難……」
「銀のアルマ・ヴィオの乗り手がステリアの力を相当使いこなしている、と言わざるを得まい。今のうちに手を打たねば、先々、禍根を残すことになろう?」
 アルフェリオンが1体、また1体とティグラーを片付けていくのを睨みながら、《魔女》が告げた。
 大方の黄金仮面たちも、その言葉に同意したように見えた。
 だが《老人》はおもむろに首を振る。
「いや。今、我らには他にしなければならぬことがある。無駄な時間を割く必要はない。あのパラディーヴァ、《封印》のおかげでかなり無理をしておる。我々が手をくださずとも、今のままでは遅かれ早かれ自滅するだろう」
「そうだな。もし他のパラディーヴァであったなら、封印から抜け出るだけでもエネルギーを使い尽くし、消滅しているところだろうが」
 漆黒の広間に、《鳥》の黄金仮面の冷ややかな笑い声が響いた。
「やはり恐るべし、黒き翼のパラディーヴァ……」
 《兜》の仮面がそう付け加えると、他の者たちも頷く。
 わずかな間、沈黙が周囲を支配した。静寂に包まれると闇はなおさら深く感じられる。
 やがて《魔女》の枯れた笑い声がこだました。
「だが所詮は無駄なあがき。あの封印が解かれぬ限り、時の流れは誰にも変えられはしない。今の世界の人間たちには決してできぬだろう。封印を解き、あの《災厄》を再び招くかもしれぬという危険を、敢えて冒すことは……」
 首領格らしい《老人》が言葉を継ぐ。
「その通り。彼らは――たとえ他人の苦しみや世の危機を見過ごしてでも、ともかく自分と仲間に災いが飛び火せぬよう腐心する。人間どものそのような習性から考える限り、封印が破られることはおそらく有り得ず、従ってこの世に我々を止める手だてもありはしない。愚かな人間どもは、自分たちに重大な選択が突き付けられていることすら自覚せぬまま、今度こそ《審判の日》を迎えるであろう」
 残りの黄金仮面たちも低い声で何事かささやき、賛同の意を示す。
 彼らはみな、裾が床に着くほど長い赤紫のローブで全身を覆っている。そのうえ頭からフードを被っているため、素顔どころか体の一部たりとも露出されていない。長衣の下は実は空っぽではないかとさえ思わせるような、とにかく不気味という言葉に尽きる連中だ。
「そのためにも《大地の巨人》の覚醒を急がねばならん。メリギオスという男、いましばらくは好きなように泳がせておけ……」
 《老人》の言葉が終わるや否や、闇を飛び交っていた鬼火が一斉に消え、仮面の存在たちも何処へともなく去った。


【続く】



 ※2001年10月~11月に鏡海庵にて初公開
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