鏡海亭 Kagami-Tei ウェブ小説黎明期から続く、生きた化石? | ||||
孤独と絆、感傷と熱き血の幻想小説 A L P H E L I O N(アルフェリオン) |
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第59話「北方の王者」(その1)更新! 2024/08/29
拓きたい未来を夢見ているのなら、ここで想いの力を見せてみよ、 ルキアン、いまだ咲かぬ銀のいばら! |
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小説目次 | 最新(第59)話| あらすじ | 登場人物 | 15分で分かるアルフェリオン | ||||
『アルフェリオン』まとめ読み―第26話・前編
【再々掲】 | 目次 | 15分で分かるアルフェリオン |
過ぎ去った日々を――過去を変えることは不可能である。
だが未来を変えることによって、
失ったものを取り戻すことはできる。
人という非力な存在も、
そうすることで運命という化け物に立ち向かえる。
◇ 第26話 ◇
1 第26話「孤軍」スタートです!
夜の闇に濛々と立ち込める土煙。
風に煽られて燃え広がる野火。赤々と空を染めて。
炎と煙の間から、節くれ立った脚のようなものが伸びてくる。
途方もない大きさだ。さらにもう1本、また1本……。
その様子を遠巻きに睨みつつ、じわじわと後退するアルマ・ヴィオの列。議会軍の火力支援型ティグラーの群れである。通常のティグラーとは異なり、沢山の砲身を備えた多連式MgSを背負っている点が特徴的だ。
――駄目です、びくともしません!!
エクターの一人が声を震わせる。
彼らが強力な魔法弾の雨を降らせたにもかかわらず、爆煙の向こうにいる敵は何のダメージも受けていない。
鋼の虎たちの警戒するような唸り声。
突如、巨大な3本角が突き出され、数体のティグラーをひと振りでなぎ払う。凄まじい力で跳ね上げられ、弾き飛ばされ、議会軍の部隊はたちまち総崩れとなる。
その角に続いて、視界を遮る山のごとき物体が現れた。
金属的な光沢を放つ赤黒い表面。動く要塞とでも言うべき巨体だが、紛れもなくアルマ・ヴィオに相違ない。
《スクラベス》――議会陸軍の誇る強力な陸戦型重アルマ・ヴィオだ。カブトムシを模した昆虫型の機体である。
この特殊なアルマ・ヴィオが配備されている数少ない場所のひとつ、それが《レンゲイルの壁》だった。スクラベスの背後に遠く点々と連なって見える光が、まさにその要塞線である。
レンゲイル軍団の切り札として、スクラベスはこれまでガノリス軍の侵攻を幾度となく食い止めてきた。だがギヨットが反乱を起こして以来、その力は皮肉にも議会軍に向けられることになってしまった。
激しい砲火を物ともせず、スクラべスは敵陣地に平然と突き進んでいく。
重々しい地響き、魔法金属の分厚い外骨格が軋む音。
――これ以上戦線を押し戻されてはならん! 第2中隊、前へ!!
指揮官の命を受けて、白とブルーの汎用型アルマ・ヴィオ、ペゾンが横隊を組む。すらりとしたボディに胸当てを付け、背丈の倍近い長さのMTランスを装備している。軽装で機動性に富む槍兵というところだろうか。
――横列密集隊形、敵の進撃に対して構え!!
方陣から横隊へと移行する各機の動きは、整然としてしかも素早い。
槍の石突きの部分を地面に突き立て、そのまま腰を落とし、斜めに構えて槍ぶすまを作る。騎馬隊の突撃に対して歩兵が取る構えのひとつである。アルマ・ヴィオによる戦闘も、そのスタイルにおいては人間同士の戦いとさほど変わらない。
だがスクラべスはペゾンの槍先など恐れることなく、悠々と前進してくる。
――駄目です。隊長、支え切れません!!
――何て馬力だ。こちらは10機以上なのに押し戻されているぞ!
必死に立ち向かおうとすればするほど、繰士たちは力の違いを思い知らされるだけだった。
2 皇獅子機装騎士団、決戦の場に到着
スクラべスが敵の前衛を突破したのを見て取り、背後から反乱軍の部隊が突撃してくる。
そこにも多数のペゾンの姿があった。同じ機体同士、以前の仲間同士が刃を交えねばならぬという現状を、その光景は露骨なまでに示している。
反乱軍の機体には敵味方の識別のための旗印が描かれていた。黄色い下地に、オーリウム王国の紋章である孔雀。正規軍・反乱軍ともに祖国の旗を掲げて殺し合うという、悲惨な戦場……。
敵部隊の激しい攻撃を受け、議会軍はあっけなく敗走し始めた。
昨晩以来、レンゲイルの壁一帯で同様の事態が繰り返されている。これまで要塞線に立てこもっていた反乱軍だが――《黒いアルマ・ヴィオ》の攻撃により、正規軍の増援部隊が壊滅的な被害を受けたのをきっかけに、にわかに攻勢に転じたのだ。
知将ギヨットの用兵は巧みであり、配下の部隊も付近の地理を知り尽くしている。反乱軍の神出鬼没の戦法に、《壁》を包囲する議会軍は右往左往し、次第に数を削られていくばかりであった。
――もはや引くしかないのか……。
スクラベスの圧倒的なパワーと敵軍の猛攻の前に、議会軍側の指揮官が断念しかけたそのとき。
突如として、反乱軍の側面に魔法弾が次々と炸裂した。
夜気を揺るがすような猛々しい雄叫びが聞こえる。暗闇の向こうから、陸戦型アルマ・ヴィオの群れが物凄い速さで近づいてくる。
その間、まさに一瞬だった。
不意を付かれた反乱軍。新手のアルマ・ヴィオが野獣のごとく襲いかかる。
――レオネスだ。助かった、皇獅子機装騎士団が来てくれたぞ!!
ライオンの姿をしたアルマ・ヴィオを見て、議会軍の繰士が歓声を上げた。
王都近郊を守護する皇獅子機装騎士団は、レンゲイル軍団と並んで議会陸軍最強の部隊だ。名にし負う獅子の軍勢は怒涛のごとく敵方を打ち倒していく。
中でも見事な活躍を見せるレオネスが1体。
疾風さながらの速さで敵陣に突入し、その鋭い爪を振るい、輝く光の牙――MTファングを突き立てる。獅子というよりはむしろ豹を思わせる俊敏な動き。敵のMgSをひらりと回避し、寸分たがわぬ反撃によって瞬時に仕留めてしまう。
だがそのレオネスは決して敵にとどめを刺さなかった。神業ともいえる腕前で相手の脚や武器のみを破壊し、戦闘不能に陥れている。
――お前ら、いい加減に目を覚ませ! どうして同じオーリウム人のオレたちが、争い合わなきゃいけないんだ!?
反乱軍の繰士たちに向かって、レオネスのエクターは熱く叫んだ。
――オレたちの本当の敵は帝国軍だろ? なぜ分かろうとしない!?
そう。あの噂のレオネス使い、クロワ・ギャリオンの声だった。
――勝手なことを! わが王国を連合軍と心中させるつもりか? オーリウムは帝国と共に生き残るのだ!!
クロワの言葉に耳を傾けることなく、敵方のペゾンが突きかかる。
レオネスは背中のMgSを素早く放つと、ペゾンの槍を弾き飛ばす。
自らの槍が宙を舞うのを敵エクターが目にしたとき、すでにレオネスの牙は彼の機体に喰らい付いていた。
――ば、馬鹿な!?
一瞬にして崩れ落ちるペゾン。
3 緑翠の孤剣
クロワのレオネスの姿を、はるか上空から捉えている者があった。
反乱軍の飛行型アルマ・ヴィオが彼を狙っていたのだ。鷲をモデルにした最新鋭の機体、アラノスである。元々は対飛行型用の要撃タイプだが、その鋭い鉤爪は陸戦型アルマ・ヴィオにとっても脅威となる。
――まんまと誘き出されたな。しかもレオネスの群れとは大した獲物じゃないか。
アラノスのエクターがほくそ笑む。
他にも同じくアラノスが2機。ちなみに飛行型の場合、基本的に3機で一個小隊となる。
地上では向かうところ敵無しのレオネスだが、陸戦型アルマ・ヴィオの常として、空からの攻撃には苦戦を強いられる。クロワたちを狙って猛禽たちが今まさに急降下しようとする。
が……。降ってわいたかのごとく、アラノスの行く手を黒い影が遮った。
アラノスは並みの飛行型など足元にも及ばぬ速さを誇る。にもかかわらず、黒い影は軽々と追いつき、抜き去ったのである。
レオネスと同様、それは獅子の咆哮を轟かせた。
《鳥》ではない。《獣》だ。
大空を舞うための翼。それと併せて、空に生きる物には無いはずの4本の脚。
しかし獅子でもない。頭部には鋭い2本の角。
長い尾は蛇のごとく鎌首をもたげ――否、舌をちらつかせるそれは、本物の蛇だ。
その異様な姿を目の当たりにして、アラノスの繰士たちは背筋を凍らせた。
イリュシオーネの人々にとって、夜というのは《人の時間》ではなく《魔が支配する時間》に他ならない。漆黒の夜空に浮かんだ異形の影は、パラミシオンからさ迷い出た妖魔であろうか。
いや、アラノスの乗り手が震え上がったのは、もっと別の理由による。目の前の相手が仮に異界の妖魔ならば、まだましだったろう。
エクターにとって遥かに恐ろしい存在。
反乱軍の繰士たちは戦慄した。
――まさかあれが、魔獣キマイロスなのか?
――ギルド最強の繰士。《緑翠の孤剣》カリオス……。
3機のアラノスが威嚇するように鳴く。明らかに怯えていた。アルマ・ヴィオも生き物である。キマイロスの放つ凄まじい重圧感に、アラノスの群れは本能的に生命の危険を感じているのだ。
――分かっているのなら、話は早い。貴君たちの相手はこの私です。
そう伝えたのは意外なほどに平凡な声だった。
最強のエクター、カリオス。果たしてどんな荒々しい声が聞こえてくるのか、あるいはどれほど不気味な声なのかと恐れていた敵は、思わず耳を疑っている。
拍子抜けしたのか、相手のエクターたちはわずかに勇気を取り戻した。
――いくらヤツが強いといっても、ここは空の上だ。飛行型でもないアルマ・ヴィオがアラノスに勝てるわけがない。
――そ、そうだ。こっちは3機だ。一斉にかかれば。
アラノスが1機、突然、抜け駆けしてキマイロスに襲い掛かった。
――こいつを倒せば昇進も褒賞も……。もしかしたら勲章モノだぜ!!
刹那、夜空を染めてかき消える炎。爆発。そして飛び散る破片。
4 風の記憶―悲劇とパラディーヴァ
◇ ◆ ◇
「もう、失うものが無くなってしまったね……」
《彼》は哀しい夢を見るような目でつぶやいた。
金の縁取りをあしらった純白の長衣と、その上に羽織った淡い水色のクロークが、そよそよと風に揺れている。
涙……。霞の向こうに立つ不思議な少年を、カリオスは呆然と見つめた。
「僕を呼んだね? はじめまして、僕の名は《テュフォン》」
見知らぬ少年。そして不可解な言葉。
だがカリオスは地面に両膝を付き、絶望に身を震わせるのみ。
彼に同情するように、少年は恭しく一礼する。その恐ろしいほどの崇高さたるや、神の御前に立つ天の使徒を思わせる。
「あなたは僕を見ても驚かないんだ。それとも驚く気力すらない、ということなのか……」
少年からは、奇妙なことに人間の匂いが全く感じられない。一種の不気味さすら覚えるほど、超然として神々しかった。
彼の周りには微かな風が渦を巻いている。風の精――だろうか? 中性的な外見は、どことなく精霊の類を髣髴とさせる。
その揺れる髪は、宵はじめの空のごとき、どこまでも透き通った淡い空の色。
「どうする? あとひとつだけ残っているものも捨ててしまえば、いますぐ苦しみから解放されるよ」
桜色の唇は、少年の外貌よりもずっと幼い声をもらす。そんな罪の無い声とは裏腹に、彼は冷酷な台詞を平気で口にした。
「そうすれば、悲しみのない国で家族が暖かく迎えてくれるのに。もう、十分頑張ったじゃない。誰も責めたりなんかしないさ」
カリオスは拳を大地に叩き付ける。血のにじむ手を握り締め、彼は独り言のように吐き捨てた。
「馬鹿なことを。俺はあきらめない。生き続ける、たとえ憎しみを糧にしてでも……。そうしなければ、みんなの気持ちが全て無駄になる!!」
「聞こえてるんだね。だったら、ちゃんと返事をしてほしいな……。最初から分かってる。もし自分の生や未来への執着を捨て去っていたなら、あなたの声は僕に届かなかっただろうから」
物憂げに目を細める少年。
カリオスは徐々に我に返っていく。だが、表情を失ったままの彼の顔には、なおも涙が伝う。
「君は……何者だ?」
黒目がちの少年は、不意に無邪気に微笑む。
「変わった人だね、今頃驚くなんて。さぁ、何だと思う? 案外、天使かもしれないよ。考えようによっては悪魔かな……。でも、どちらでも構わないよね? あなたの力になれるのなら」
すべてを超越したような落ち着きの中に、どこかあどけなさの抜けきらぬ、子供じみた気色が時おり見え隠れする。
それでいて永劫の時を生きた仙人を思わせる、深い理知に溢れた漆黒の瞳。
《古の契約》――そんな言葉が聞こえたような気がした。
【続く】
※2001年12月~2002年1月に鏡海庵にて初公開
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