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サッカーあれこれ(24)

◎ありがたい会合でした
 盟友・牛木素吉郎君が主宰する「サッカー史研究会」が、私のために会合を開いてくれました。この会はもう第72回になるそうで、古い新聞記者に昔の話を聞く、という趣旨でした。
 神田の中華料理店での昼食会。しかも日曜日、会費は4000円。何のお役に立つやらもしれず、どれだけの人が来てくださるか心配でした。
 牛木君は20人くらいを予想していたようですが、集まってくださったのは半数の10人。もともと、私はあまり人徳のあるほうでもなし、面白い話も出尽くした状態ですから、私にとってはむしろ予想通りで、「よくぞ来てくださった」と感謝の気持ちでいっぱいでした。
 結局、とりとめのない思い出話や現在の日本代表のことなど無駄話の連続でしたが、10人の方々はすべて一騎当千ともいうべきサッカー研究家ないし愛好家。次から次へと話題は尽きず、予定の3時間を1時間も越えて、店の人にドアを開けられて「もう帰ってくれ」とうながされる始末でした。
 楽しい会でした。こういう会合は年をとってくると、とくに楽しい。もし私が大金持ちだったら大きな応接間に、この日の10人全員をお呼びして、ビデオでも見ながらワインを飲んで、朝まででも語り合っていたいと思う方々でした。貧乏人のせつない夢です。
 それにしてもサッカーの話は、好きな連中にとっておそるべきものです。自慢話や手柄話を交えて、始まったら食べるのも忘れて、あれやこれやで尽きることがありません。まったく、どうしてこうなんでしょうね、です。
 
◎道楽の自費出版の本
 当日の出席者の方々に、「中条一雄の仕事(9)」なる本を贈呈しました。我田引水になりますが、この本は88歳という年齢を重ねて、もはや世捨人といいますか、身辺整理の段階に入った私が、これまであちこちに書き散らした原稿をまとめたものです。
 サクセスブック社の大森香保子さん(牛木君の実妹)の献身的な(費用面での)奉仕によって作製しているものです。題名に、あつかましくも「中条一雄」を入れたのも大森さんのアイディアです。いつの間にか、回を重ねて9号になりました。
 これまでオリンピックやスポーツマスコミ、各種インタビューなどを収録しましたが、この9号はサッカー特集です。アメリカW杯の1994年からフランスW杯の1998年までの5年間に、週刊朝日に連載したコラムをまとめたものです。W杯の報告やファルカン監督、加茂周監督のインタビューも収録しています。
 毎号の印刷はわずか250部。世の中のために全くならない自分勝手で無価値な代物で、読んだらポイと捨てられそうなものですが、残り原稿をあれこれまとめていくと15号にまでなりそうな気がしています。とんだ道楽です。
 
◎改めてクラさんの功績
 ところで、この日の会合ですが、私は時に聞き役でもあり、何をしゃべったか、あまり覚えていません。昭和18年(1942年)、広島一中でサッカーをやっていた私は、中四国代表として明治神宮大会に出場、いま取り壊しが始まった国立競技場での開会式に出た思い出。
 戦後の昭和21年(1946年)の西宮競技場での東西対抗で,慶応OBの二宮洋一さんのすごいプレーを見たことなどを話したのですが、結局はクラマーさんの話に落ち着きました。
 クラマーさんでよく知られているのは、1964年東京オリンピックが終わって離日する折りに残したアドバイスです。その後の日本サッカー発展の基礎になりました。その教訓は次の5項目です。
1)トーナメント方式をやめてリーグ戦方式にすること。トーナメント方式なら当時の東洋工業や八幡製鉄といった地方の強豪が、年に数回しか東京や関西の強いチームと試合できない。こんな不合理はない。欧州のようなリーグ方式にすること。
2)指導者養成システムを作り、指導者の資格を与えること。ケルンの高等スポーツ学校(日本では体育大と訳されている)のような専門的な養成機関を作ること。
3)トップの指導者から地方の学校や教師にいたるまでの、ピラミッド型の指導者組織を作ること。地方にも主任コーチを置き、選手の発掘、指導について責任を持たせること。
4)代表チームは年に一回は必ず欧州遠征して、国際水準の選手に触れこと。
5)良いグラウンドが無ければ、良いプレーはできない。できるだけ早く平らな芝生のグラウンドをつくること。

◎選手の意識改造
 クラマーさんの、このようなアドバイスが、その後の日本サッカーの革命的といえる発展につながったことは言を待ちません。
 もちろん関係者の努力もありましたが、Jリーグができたし、指導者養成システムや芝生のグラウンドも作られ、欧州や南米との交流も盛んになりました。
 それほど、クラマーさんの功績は絶大です。
 だが、この5項目以外にクラマーさんが残した偉大なものがあります。それは「サッカーをやる心」とでも言いましょうか。日本選手にサッカーをやるプライドや気構えとでも言いますか、精神的なすばらしさを身をもって教えてくれました。
 「サッカーは少年を大人にし、大人を紳士にする」と、クラマーさんはよく言いました(そのころは女性はサッカーをやっていなかった)が、クラマーさんが真摯に取り組む姿勢から「サッカーは男子が一生を捧げても悔いないほど価値あるものだ」と、多くの人に感じさせてくれました。それまでの代表選手は、どちかというと生活は放埒でした。
 クラマーさんの考えや日常の生活全体の姿勢から、私は「サッカーには、こんなすばらしい一面があるのか」と驚くとともに、新聞記者としても、サッカー報道に生き甲斐を感じたものです。
(以下次号)

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