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サッカーあれこれ(15-2)

サッカーあれこれ(15-1)の続き】

◎カズの優れたところ
―― 話は少しそれるようですが、かってASローマで活躍されたファルカンさんにお聞きしたいのですが、カズの力はセリエAのようなところで本当に通用するのでしょうか。欧州には彼程度の選手がたくさんいるような気がするのですが。
 「カズはいい選手です。成功すると思いますよ。若くしてブラジルでプレーし、日本に帰って金も名誉も得た。いわば頂点に立ったわけです。それでもなおかつ築き上げたものを全部捨てて、イタリアで一からやり直そうとする。やれないことです。その真面目さ、チャレンジ精神、戦うスピリット、個性はたいしたものです。そんな気持ちがある限り、彼は成功すると思いますよ」
―― 日本はレベル的には世界ランク40位あたりです。将来、南米や欧州と太刀打ちできるのでしょうか。
 「日本の人は、なぜすぐに世界と比較しようとするのでしょうか。まずアジアで勝つことです。アジアなら勝てないことはない。それにはクラブを強くすること。アジアでも強い国はすべてクラブを持っているしプロサッカーの歴史も日本より長い。そんなクラブで子どもの時からやらせる。子どもはプロをみてあこがれ真似をする。それがレベルアップにつながると思いますよ」
―― やっぱりクラブですね。日本もJリーグを始めましたが、スポーツはすべて学校中心で発達して来ました。それが足かせになっています。なかなか脱皮できない。
 「それから、レベルを上げるためには、国外でどんどん試合をやることです。日本は外国チームを招待して試合をよくするが、海外での条件の悪いところへも出掛けていって試合ができるようにしておかなくてはならない」

◎筋肉量の少ない日本人
―― 日本人はサッカーに向いていると思いますか。
 「日本人はいいものを持っています。まず体が柔らかい。世界で珍しいくらい柔らかいといっていいでしょう。これは、母親が赤ん坊と向き合うようにして抱っこしていることに原因があるかもしれない」
―― へぇー、あの抱っこが、ですか。
 「日本に来てあの抱っこを見て驚いたのですが、あれは赤ん坊が体が自由に動かせて、母親とリレーションシップがとれる。いいなあと思いました。それから、日本人のよさは真面目さと器用さです。練習がすんで強制されなくても、個人でストレッチなどやっているし、左右両方で蹴れる選手も多い。スピードも耐久力もある。バランスもいい。平均的にいえば、日本人はいいものを持っています」
―― ありがたいご意見です。しかし、スピードがあるとおっしゃたが、長距離は速くても、瞬発力は外国人にかなわないのでは。
 「それはそうかもしれません。出足はたしかに遅い。出足は筋肉の強さです。筋肉の量が少ないのが欠点かもしれません。これは食べ物に問題がある。もちろん日本人一般の食事が悪いというわけでなく、スポーツ選手としては食べ物をもう少し考えては、ということです。相手とガッツンとぶつかる接触プレーも弱い。これも筋肉の量の問題です。それから体が柔らかいから肉離れのような筋肉の怪我は少ないが、足首や関節の怪我が多いような気がします。これは骨を支える筋肉が弱いからです。Jリーグの試合数が多いせいもありますが、プレーに波が多い。いい出来と悪い出来に極端に差がある。これも筋肉の量が少ないからではないでしょうか」

◎目的意識を持つこと
―― 今度の広島アジア競技大会では、サッカーに限らずいろんなスポーツの成績が芳しくなかった。日本人の中には、いまの選手は豊かになりすぎてハングリー精神がなくなったと嘆く人がいます。この考えはどうですか。
 「ハングリー精神と豊かさは関係ないですよ。人間は目的意識さえあれば、一つのことに打ち込むことができる。そんな目的意識、それは幸福感の問題です。幸福かどうかは、いま自分がやっていることに満足しているかどうかです。いかにハングリー精神があっても貧乏なら勝てませんよ。いまや勝つためにはお金がかかりますからね。豊かさは必要です」
―― 日本のサッカー選手に、きちんとした目的意識を感じましたか。
 「それは、感じましたよ。日本選手はアマチュアの気持ちを忘れていない。これはいいことです。もちろん彼らはプロですからお金をもらいます。しかし、やる時はお金だけが目的ではない。スポーツを愛し、一生懸命やらねばならない。その点、日本選手は真面目です。欠点は、先ほど言ったようにパワー不足、経験不足です。だが、これはやり方次第で改良できることです。平均的には日本人はいいものを多く持っていると思います」
―― ちょっとした噂では、ファルカンさんをサポートする協会の組織が十分でなかったとか、一国の監督を7カ月契約というのも問題ありといわれていますが。
 「契約期間に関しては、私が契約したのだからあれこれ言う権利はありません。ただ、きちんとしたトレーニング場がないし、あちこちのホテルを転々としたのは時間の無駄のような気がしました。もう少しきちんと集中してトレーニングをやりたかったですね」

◎W杯への道は準備から
―― マスコミに関して何か注文はありますか。
 「私は日本の新聞が読めないので、これまた何もいえません。ただ、一般論としては、マスコミは何かサッカー界に問題があれば、どんどん圧力をかけることを忘れて欲しくないですね。とくに代表チームが負けた時、だれが悪いとか、どこに問題があるかなど、どんどん追求すべきでしょうね。それでなくては進歩しません。ただし、批判する側は勉強し専門家であってほしい。例えば、健康管理に問題があれば、批判は医師なみの知識がある人がやるべきでしょう。ブラジルが強いのは、マスコミが常に批判し続けているからです」
―― サッカーを強くするのは時間がかかることはよくわかりました。非常にジャーナリスティックな野暮な質問ですが、しからば、日本が世界レベルの達するのはどのくらい時間がかかると思いますか。
 「日本に来て、その質問を何回も受けました。質問する人の気持ちはよく分かりますが、東洋人は気長に物を考えると聞いていたのに、サッカーに関してはせっかちで驚きましたよ(大笑い)。心理学者なら、あなたなら何年かかるかと思うかと逆に質問するでしょう。つまり、これは簡単なことではない、ということです。例えば、道路の向こうのビルに行くとしましょうか。何時間かかるかを考えているだけでは永久に行けない。といって、あせって行けば途中で自動車に引かれるかも知れない(笑い)」
―― なかなか哲学的な話ですね(笑い)。
 「しかしですよ。きちんと準備してスタートすれば、いずれ向こうにたどりつけるでしょう。準備することが大切なのです。みんな次のフランスW杯へ出ることばかり考えている。運よく出れたとしても、本大会で0-0や、0-1で負けるのでは、何のためのW杯やらわからない。つまり大切なのは、子どもの指導からきちんと順を踏んで、やることをやっておかなくては意味がないということです。
―― じゃ、孫の時代になれば行けるかも知れませんね(笑い)。
 「いやいや、うまくやれば、あなたが生きている間にやれるでしょう(笑い)。イメージし、基本を忘れず、戦術や技術を研究し、経験を踏むなど、やるべきことをきちんとやって行くなら、5年でやれるかもしれないし、10年かかるかもしれない。だが、いずれたどりつけるでしょう。要は、強くしたいという気持ちです。そして正しいことを続けて行くことです。強い国はそんなプロセスを経て伝統を作り上げてきた。時間にはあまり関係ありませんよ」
―― 最後に。私はファルカンさんの現役時代のスペインW杯を見ているんです。あの時のブラジルチームは強く、そして美しかった。ことし(1994年)のアメリカW杯で優勝したブラジルよりは、数段強かったと思います。
 「私も、そう思いますよ(大笑い)」

(この項おわり)

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