◇juri+cari◇

ネットで調べて、近所の本屋さんで買おう!!

ジーン・ウルフさん『拷問者の影』

2008-04-29 23:21:27 | 読書
ジーン・ウルフさんの『拷問者の影』

本作は世界幻想文学大賞に輝き、

史上最高のファンタジイと称される作品なのだそうですが、そんなことも知らず

裏表紙のあらすじや、タイトルすらろくに見ずに


小畑健さん(『DEATH NOTE』)の表紙絵だけ見て購入



さっそく読み始めてみたけど、SFや異世界ファンタジーに馴染んでいないうえに

著者独特の拡散?しつづける文体や、

〈城塞〉〈独裁者〉〈絶対の家〉〈高貴人〉など、20世紀の言語を「代用」して語られる、複雑な世界の全容が見えないため


読み進めても、いまいち何なのかがわからない



ただ、大まかな話の筋は以下の通り


拷問者組合に属し、客人たちに様々な拷問を施す主人公セヴェリアンは、

反逆者ヴォダルスに荷担した容疑で〈剣舞の塔〉に囚鑑されている、貴婦人セクラに恋をする。

セヴェリアンはセクラに対する拷問を途中でやめ、彼女が苦しまないように彼女に自殺をさせてしまう。


この事件が原因で〈拷問者組合〉を追放されたセヴェリアンは、終わりのない長い旅に出るが、その道中で様々な人々に出会うことになる。


ということだそうです。

「なんだ、そんなこと」と思うかもしれないけど、なら一度ご覧あれ


なんでヴォダルスが反乱を起こしたのかも

なんで高貴人たちが次々と〈剣舞の塔〉に送られるのか

壁の向こうには何があるのか



ホントにわからないことだらけ。



それでも繰り返し読んでしまうのは

断片しか見えなくても、この異世界<ウールス>がとても斬新かつ魅惑的


旅をしながら、観客が誰も理解できない芝居を演じるタロス博士と

かれに従う大男バルダンダーズ

過去すべての記憶を失った美女ドルカス

心優しき拷問者にして、やがては玉座にもどる、主人公セヴェリアン


など登場人物が酷薄・醜悪さも含めて人間味に溢れているからでしょう


『新しい太陽の書』シリーズはこれから7月まで毎月発刊


全巻出てから読む方が良いのかもしれませんが


たまらず毎月買ってしまいそうです

井上荒野さん『アイリッシュ・シチュー』(『ベーコン』収録)

2008-04-29 22:13:25 | 読書
井上荒野さんの短編集『ベーコン』に収録された作品の一つ



文句ばかり言う子供、家庭のことには無関心な夫、家に戻らないペットの子猫

不安・不満が徐々にたまり

たまたま見掛けた、住宅販売のセールスマンを家に招き入れる主婦の話。


本短編集は、『食と性愛』をというコンセプトのもとに書かれていることだけあり


食べ物のシーンが多く、

『アイリッシュ・シチュー』でも、タイトルにあるアイリッシュ・シチューに加えて


じゃこと葱を入れたオムレツ。ザーサイと胡瓜のサラダ。切り干し大根の煮物。じゃがいもと若布のお味噌汁。ししゃも。


などが登場します。

わざとらしくない……というか、組み合わせに生活感が漂い、
聞いただけで美味しそう


もちろん「マジこれだけ?肉、ないわけ?」という娘の文句も、もっともなんだけど……



短編集のもう一つのテーマ「性愛

こちらは、数行しか書かれていないうえに

不満が募った人妻が見知らぬ若いサラリーマンと性交する

という筋書き自体が「こういうことって、ほんとに起きるんだな。」って感じの

なんとも、なんともな内容なのですが


作品全体として見れば、それだけで必要かつ十分だし、青年との関係にも必然性を感じました。


約20ページに満たないのですが、雰囲気も説得力も兼ね備えたステキな作品です

三浦しをんさん『たどりつくまで』(『むかしのはなし』収録)

2008-04-29 10:03:35 | 読書
先日も取り上げた三浦しをんさん『むかしのはなし』の収録作


『たどりつくまで』は、

もうすぐ地球に隕石が衝突するにもかかわらず、運転を続けるタクシーの運転手と

そのタクシーに乗った乗客との車中を描いた作品。


従来通りの日常を送ろうとする人々にも

不可避に訪れる滅亡の予感


深夜に首都高を走るタクシーという舞台が寂寥感をいっそう増していて


とても雰囲気のある作品です


もちろん、「物語」としても

破滅が目の前に迫っているのに、美容整形を受け、エステに通う乗客の話は

示唆に富んでいて興味深かったし


なんといっても、短編らしい見事な幕引がよかった

たった数語で………………(←秘密)というのは、ホントにスゴい

見事にヤられました


こういう作品は文句なく大好き

ミラーナ・テルローヴァ『廃墟の上でダンス』

2008-04-28 13:16:19 | 読書
1994年12月、
少女ミラーナは、母が作ってくれたドレスを胸にあてながら、誕生パーティーを楽しみにしていた



しかし、少女がそのドレスをきることはなかった


突如ロシア連邦軍がチェチェンに侵攻し

彼女の村も戦火に飲み込まれたからだ。



『廃墟の上でダンス』は、


かつて誕生日にドレスを着るはずだった少女ミラーナ・テルローヴァさんが

自身の目で見た『チェチェン戦争』を描いたノンフィクション作品


ある日突然始まった戦争、恐怖に震える日々

戦争の終結と『占領』という果てのない恐怖の到来

フランスへの留学

絶えず耳にする慣れ親しんだ人々の「理由なき死」



平易な文章で書かれているうえに、訳文も読みやすく

各エピソードも短いので、読むのに時間はかからないのですが


内容は本当に重く

無責任に想像していた以上に、チェチェンでは人が「理由なく殺される」ことに愕然としました。


また、著者は明示的には書かないものの、

拷問の末に、道端に打ち捨てられた友人の死体には肝臓と腎臓がなかった

という話からは、「戦争で金もうけ」をする人々の存在が確かに感じ取れ、チェチェンの闇の果てしなさにやり場の無い気持ちになりました。


本書の特徴は、調べればわかるようなチェチェン戦争の説明は、巻末の年表と短い人物紹介にとどめ

ほとんどの記述を、自分が見聞きした話に割いていること。

また、おそらくあったであろう、女性への強姦の記述もありません。

ここに、まずは、チェチェンで起きている事実を、より多くの人に(中高生などにも)伝えたいという著者の痛切な思いを見たような気がしました。



訳者・橘明美さん(←素晴らしい訳でした)による「あとがき」によれば

著者のミラーナさんはすでにチェチェンに戻っているとのこと


アンナ・ポリトフスカヤさんの事件も記憶に新しく

思わず、その身を案じずにはいられない



↑にあげた表紙の写真は2002年にチェチェンの首都グロズヌイで撮影された写真

少女が立つ後ろの壁には、無数の銃痕があります

上野千鶴子さん『おひとりさまの老後』

2008-04-28 08:21:06 | 読書
社会学者である上野千鶴子さんには

『近代家族の成立と終焉』、『家父長制と資本制』に始まり、ジェンダー論、ナショナリズム論など多岐に渡る著作がありますが

自身のお母様の介護をするようになってからは、次第に介護に関する著作も出しています。


そんな上野さんの近著『おひとりさまの老後』は、

80歳以上になると女性の83%に配偶者がいない

という現状をもとに


最後は一人になる(…という覚悟を決めた)女性に、そのために必要な「一人で生きる知恵」を示す作品。(←男は勝手にしろとのこと)



まず驚いたのが、上野さんの語り口がとってもソフトなこと


論文調でもなく、妙なハイテンションでもないし……


あぁ、なんかしみじみ。




では、肝心の内容の話、

本書は6章に分けられており、1章で総論としてのシングルライフそのものを語った上で

2章以下で住居、人間関係、お金、介護、死と老後の重要テーマについて、友人の体験や社会学の研究等をもとに話が進みます。


一応、樋口恵子さん、ヴァージニア・ウルフ、メイ・サートンなど上野さんの介護論にお馴染みの面々も出てきはしますが

家族論や社会制度そのものに付いての言及はほとんどないエッセイ調なので、スラスラ読めてしまいます。


個人的には、5章「どんな介護を受けるか」が印象的

文中紹介される「誰かにしてもらうときは、してくれる人の基準にこちらが合わせる方がよい」との言葉にはハッとさせられます。


また、本章を読みながら、思い出したのが映画『潜水服は蝶の夢をみる』


実話を元にしたこの映画は、難病のため全身が動かなくなった40代の主人公が、看護士や療法士の介護を受けながら、片目のまばたきのみで執筆をするストーリーで


この映画からもわかるように、介護は老後に限った問題ではない。

だから、自分なりの「プロの介護を受け入れるノウハウ」を考えることや、介護を受ける心構えをすることは、だれにとっても必要なことだろうと思いました。



章は変わって、「おひとりさまの死」について書かれた6章
この章の末には


「その1 死んだら時間をおかずに発見されるように、密でマメなコンタクトをとる人間関係をつくっておくこと。」

から始まる『おひとりさまの死に方5ヵ条』が掲げられていますが、

これについては全く賛成



個人的な好みでは、まず『死に方5ヵ条』を掲げた上で

それを実現するためにどのような「おひとりさまの老後」が必要かを語っても、面白かったかなぁと思うのですが……

あくまで、個人的な好みとしてはね

松井雪子さん『まよいもん』

2008-04-27 02:04:42 | 読書
松井雪子さんの最新刊『まよいもん』


タイトルの『まよいもん』とは、成仏することができずにさまよい続けている……、

って、つまりは「スピリチュアルなアレ」のこと。



主人公の女子高生・マナはだんだんと「まよいもん」が見えるようになってきている。

一方、母・しのぶは「まよいもん」を見れる能力を活かし、「しのぶさま」と称し霊能力者として売出し中だが

最近は「力」が衰えてきたので
インターネットをフル活用し、依頼者の情報を集めてから、ハッタリをかます日々が続く。


霊を見る能力を持った親子とその周囲で起こる数々な事件・・・というありがちな設定を、

昨今のスピリチュアルブームの文脈で捉えた意欲的な作品。




読み始めた途端、

昼は生保レディー、夜は霊能力者、


初登場シーンでは、数珠を持って走り回る


ブランド品は大好きだけど、ネットオークションでしか買わない

など、母の人物造形がオモシロすぎるので


この小説の方向性を誤りかけますが、通読してみると


次々と起こる騒動や周囲の変化に立ち向かう「親子の姿」を描くこと、が主題であったように思いました。


また、最初はエキセントリックに見える母も

女手一つで娘を育てること、力の衰え、「母」であることと「しのぶさま」であることの狭間で揺れるなど


見た目以上に「悲しみ」を抱えた人物であることがわかります。


そして、このような母と、それを心配げに見つめるマナ、そして親子を取り巻く周囲の人々―

それぞれの悲しみや孤独を抱え生きる人々が、どのように「傷を癒し」「癒されるか」か、もこの作品の重要なテーマであると思いました。


本書で大きな役割を担う「まよいもん」、スピリチュアルなアレについての本書スタンスは

見える能力があることは、一応肯定しつつ

その一方で、

「ホントのことなんて、ホントはどうでもいいのだ。
(略)
不幸を背負い込んでしまったのは霊の生だと思い込んでるクライアントを、いかに安心させ、喜ばせるか。それだけでいいのだ。」


「まよいもんに惑わされる人間もまたまよいもんなのだ。」

とも語ります。

こうした平衡感覚にも好感が持てました。




もちろん、物語としても面白くて

特に中盤以降どんどん話が重くなって行く下りは


その重さとは反比例するように、ページをめくる手が止まらない

特に物語の後半、マナが母にクレームをつける男を呼び出すか悩む場面は、とても心に残りました。


また、「しのぶさま」を中心にしたスピリチュアルな会「土曜会」に集まる人々の描写が
リアルにそういう会に集まってる方々っぽくて、すごく興味深かったです。


ある意味、この方々の描写が一番スゴかったな……

桜庭一樹さん『少女七竈と七人の可愛そうな大人』

2008-04-26 16:41:38 | 読書
これは面白い、ビックリした


「…雪風」
「七竈」
雪風がようやく、わたしの名を呼んだ。
「君がそんなに」
言って。
もっと言って。それを。もっと。
「君がそんなに、美しく、生まれてしまったのはね」
「ええ、ええ」
「君がそんなに美しく生まれてしまったのは」
「ええ、ええ」
「母親がいんらんだったからだ」
「ええ」
超自然的な理由にさせて。
これはけして。
遺伝では。
ないよ。



この文章だけでガツンとヤられた。

桜庭一樹さんの『少女七竈と七人の可愛そうな大人』は、

北国旭川を舞台に「いんらん」な母から産まれた美女・七竈と

彼女にまつわる老若男女、それに老犬を描いた作品


七竈と美少年・雪風、それに彼に思いを寄せる後輩・みすずに重点を置けば、帯にあるような「恋愛小説」として読むこともできますし、


また、「血のつながり」や「おんな」を描いた作品ともとれるでしょうが


私の場合は、まず、少女・七竈の「かんばせ」とそれが醸し出す「儚い不穏さ」(不穏だけど、暗くない)にあてられました。


本作の特徴の一つは、上に引用したような、やや古めいた文体

これが作品の世界観にぴったり

これがもし、普通の文体だったら………

この濃密な雰囲気や「かんばせ」は出せなかったのではないでしょうか



また、独特の世界観を醸し出すのに寄与しているのが物語の舞台・旭川☆★☆★

この旭川の描き方がいい


の描写は多少現実と違ってるものの

閉塞的で、小さな世界であることを

的確に把握・描写していることに、本当に驚きました


やっぱり作家さんてスゴい

なお、桜庭さんは『私の男』でも、旭川を登場させています。こちらの閉塞感の描写もすごくいい


最後に、私は一刷を持ってるのだけど、県立高校ってのは誤植じゃないですか?

本谷有希子さん『ほんたにちゃん』

2008-04-26 10:46:39 | 読書
カゼ薬が聞き出す前に読書

本谷有希子さんの『ほんたにちゃん』


自分は特別な存在と信じる、専門学校生の「わたし」の極限まで肥大化した「自己」が暴走する話。


ちなみに、表紙の絵は、物語のクライマックス、自己が暴走してる場面。


最近書かれた本だと思って読み始めたので、

作品のテーマとか内容が、「第三期」に入ったという著者にしては、いささか古めいている

ことに違和感を持ったのですが、

著者が19歳の頃に執筆した作品と聞いて納得


そのことを踏まえて、読み返すと

『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』の澄伽、『ぜつぼう』の戸越、『生きてるだけで、愛』の寧子、『グ、ア、ム』の長女

など後の本谷さんの作品や登場人物の原型を随所に見ることができて興味深かった。


「ライトな絶望」を描きつつ、キチンと希望を残すあたりにも好感が持てたし
(←そもそも、ライトな絶望の果てには希望しかないのかな?)



エアーズロックになったつもりで、「なんでんかんでん」と言いながら歩くシーンとか、

物語の終盤、隣りから聞こえる音楽に合わせながら手○をするシーン

はジュースを吹き出すほど笑わえました。




肥大化し、暴走する自意識

思わず、とある本の表紙に書かれた

「Acrobatic Me-ism Eats away the Brain,it causes Imagination Catastrophe」との名言を思い出しまた。




さぁ、『太王四神記』まで寝よう

鴻巣友季子さん『やみくも 翻訳家、穴に落ちる』

2008-04-16 21:37:52 | 読書
ルル・ワン『睡蓮の教室』、クッツェー『恥辱』、クック『緋色の記憶』


ある時期にまとめて読んだ作品ですが


驚くべきことに、どの本も「訳・鴻巣友季子」でした


鴻巣友季子さんは、朝日や日経などでも連載したり

テレビや雑誌にも登場する著名な翻訳家


本書『やみくも』は、普段は他人の言葉を伝える鴻巣さんが

自身の言葉を語ったエッセイ集


翻訳家ならではの話から

「カヌーイスト」だったという少々意外な過去


横柄な政治家やヤル気のない役所への義憤

そして、ご家族や友人とのエピソードまで


幅広い話題に触れていますが、

やはり多い、そして読者が期待する、のは本の話題。


オースティン、ルイス・キャロル、ガルシア・マルケスから

久世光彦、河野多恵子、さらには松本人志や劇団ひとりにまで至る幅広い読書経験


とても興味深く読みました


特に、劇団ひとりさんの『陰日向に咲く』について

「ものすごく達者なネタ帖」の域を脱していない部分もある。
と評している箇所


松本人志さんとマルケスのモノの見方が似ているとの話は印象的。


写真等で見る著者の姿と同じように

上品で「破綻」のないエッセイ集

爆笑はしませんが、楽しく読めました


それに、鴻巣さんの訳書をこれからも読むでしょうから

空気感を知ることができたのもよかったです◇◆◇◆

大村友貴美さん『首挽村の殺人』

2008-04-16 01:29:45 | 読書
昨年の横溝正史ミステリ大賞で大賞を受賞した
岩手県在住の作家・大村友貴美さんの『首挽村の殺人』


かつては姥捨の習慣があり
現在は、熊の出没に悩まされる岩手の寒村・鷲尻村。

ここの診療所に、熊に襲われ死亡した医師・杉聡一朗の後任として、赴任して来た滝本志門

彼は友人だった杉の死に不自然な点があることに気付き、その調査を始めるが


その矢先、村民が再び熊に殺された。


雪に閉ざされたマタギの村で、次々と熊に襲われる村民


この村で、一体何が起きているのか?!!






横溝正史を現代で再構成してみると

まぁ、「田舎の問題盛り沢山」!!!


医療格差、市町村合併、過疎、労働人口の減少

と伝説よりもずっと怖い現実がまっています


おまけに、赤カブトみたいなの巨大クマまで登場するんだから


息苦しい日常と切迫する脅威で

二重の怖さを味わえる

はずなんですが





………いまいち怖くなかった


これは、坂東眞砂子さんによれば

場面展開をし過ぎて、描写が十分になされていない、からとか。

『死国』がそう言ってんだから、そうなんでしょう


それに、桐野夏生さんが指摘のように、場面転換が明確ではありません


真犯人(または真犯熊?)が過去の出来事を語り出す場面とか、別な意味でビックリした



ただ、伝承と地方の問題の融合というアイディアはとっても好きだし◇◆◇◆


地方にこだわる作家さんも大好きですので


次回作を見掛けたら、読んでみたいです