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村瀬学さん『「あなた」の哲学』

2010-02-19 23:39:17 | 読書
本書は、児童文化論を専門とし、

現在は、同志社女子大学教授であるである著者が、

「あなた」という概念について論じる著作です。


筆者は「おひとりさま」ブームなどに疑問を呈した上で、

それらが前提とする哲学的な「他者」概念とは異なる、

日常の感覚に根ざす「あなた」概念の重要性を解説します。


「あなた」概念が「第三世代的」であり

また、「怪物」としての「他者」とは対極に位置するという指摘や

フーバーやニーチェの訳をめぐる考察など

興味深い記述は多くありました。

なかでも、個人的に印象深かったのは、

認知症の妻との生活を描いた、

耕治人の小説『そうかもしれない』に関する箇所です。


著者は「あなた」という観点から、

当事者に寄り添うような、温かみのある「読み」を展開しますが

そうした解釈とは異なる「読み」も紹介されています。

私はその作品を読んだことがなかったので、

この機会に読み、自分がどの解釈をとるのか決めようと思います。


「あなた」概念を通じ、人と人とのつながり説きつつも、

家族は大切という安易な一般論に帰着しない本書。


いわゆる「哲学」的な議論に疑問を持つ方はもちろん

多くの方におススメしたい著作です。



<補>

個人的には、自分以外は理解不能な他者という立場は捨て切れません。

ただ、自分以外は他者であり、

理解不能な存在であるとの立場にたっても

他者とともに生きなくてはいけないことを重視すれば

具体的な行動については、「あなた」概念の立場とそれほど差がないようにも思えました。

斎藤孝さん『地アタマを鍛える知的勉強法』

2010-02-10 00:53:28 | 読書
本書は、教育学・身体論を専門とし

現在は明治大学教授であり、テレビ等にも多数出演する著者が

その独自の勉強方法を紹介する著作です。


著者は、「勉強ができる」が「頭が良い」を意味しないと述べます。

そのうえで、見たことがない問題にも対処することができ、

優れたセンスと認識力、さらにリーダーシップが身につくような勉強法、

すなわち「地アタマを鍛える勉強法」の必要性を強調し

「目次方勉強方法」、「出題者は私勉強法」―など

具体的な方法を紹介します。


さらに、本書ではそうした勉強法に加えて

なんのために学ぶのか、学ぶことによってどういう変化が現れるのか―など、

より根源的な問題についても、筆者なりの見解が示されます。


孔子、ダーウィン、夏目漱石、芥川龍之介などに対する評価や

ショート・プログラムで失敗しがちな浅田真央さんの話など

興味をひきつける話題が多く

また、悪い例として紹介される我田引水型の勉強法などは

自分も過去に経験があったので、とても恥ずかしい気持ちになりました。


そうした中でも、個人的に最も印象的だったのは

「総論より具体案」勉強法です。

筆者は、総論・抽象論によって演繹的に議論・判断することよりも

具体的なオプションの提示と具体的な結論付けこそが重要であると述べます。

無数の主張・立場がある中で、知的かつ実践的に振舞うとはこういうことだ―

と、まさしく目から鱗が落ちる気がしました。


学校や試験勉強ですぐに利用可能な実践的知識を伝授するとともに

上機嫌で自由に人生を過ごす方法をも紹介する本書。


試験や学校で勉強している方に限らず

多くの方に読んでいただきたい著作です。

桜庭一樹さん『お好みの本、入荷しました』

2010-02-10 00:49:35 | 読書
本書は、直木賞作家であり

『私の男』などで知られる著者による

読書エッセイです。


女優さんとの対談や雑誌の取材など、日常のエピソードに加えて

編集者とのマニアックなミステリー談義

そして、創作の合間に読んだ本の感想などが記されます。


ノヴァーリス、バージニア・ウルフから

北尾トロさんや森下くるみさんにまで及ぶ幅広い読書と

それについての鋭い感想もさることながら、個人的に最も印象的なのは

ご自身の結婚式と、それに至る準備の様子です。

式の様子は女性誌『CREA』でチラッと見ていたのですが

具体的な様子や著者の心中を知ることで、

和やかで幸福そうな雰囲気を、いっそう色濃く感じることができました


最前線で活躍する作家が、普段どのような生活をし

どのような刺激を受けているかを知るとともに

読んだことのない多くの上質な本を知ることができる本作。


著者やミステリーのファンはもちろん

おもしろい本を探している方に、強くおススメしたい著作です。