眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

エアー・タッチ(空踏みpomera)

2024-05-13 10:50:00 | ナノノベル
 時にポメラは予測を遙かに超えた言葉を返してくることがあった。
「自分とだ」
 他にはないと思えた僕の意図はあっけなく裏切られ、時分のあとに戸田が現れる。戸田? 戸田さんなんて知らない人だ。
 一瞬、自分のミスタッチを疑ったがそうではない。
(他にはない)というのが、自分本位の感覚に過ぎない。

 ああ、こんなに傍にいて伝わってないんだ。
 距離なんて関係ない。
 僕は僕。ポメラはポメラ。
 何でもわかってもらえるわけがない。

「その動きいる?」
「えっ?」 
 タッチに無駄があると戸田さんは言った。
「左手がつられて動いてる」
 戸田さんの指摘は間違ってはいない。
 右手がキーを叩いている時、直接関係のない左手があてもない宙を泳いでいるのだ。ドリブルで相手を揺さぶる時の空踏みのように。
「みんな直立して歌うわけじゃないだろ」
「ここはステージというわけ?」
 もしもそうなら僕はただ震えているばかりだ。どこにも届かないかもしれない。そういう恐怖とずっと付き添いながら。

「ここがどこかなんてまだわからないよ」
「だったら探しにいかないとね」
 戸田さんは他人事のように言った。
「まあ、気が向いたらね」
「いつからそんなにふらふらしているの?」
「わからない」
 タッチについて言われたことなんてなかった。
(誰も見もていなかったから)

「あなたは謎だらけね」
 あなたの方こそ。
「ポメラは何も奏でないから」
 どこかに響いたかなんてわかりっこない。
 埋まらない距離を知りながら、僕は馴れ馴れしくポメラに触れた。
「おだいじに」
 そう言って謎の戸田さんは去って行った。








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