眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

スクリーン・テスト

2024-05-14 00:25:00 | ナノノベル
 映画はだいたい2時間。
 人間が集中していられる時間もだいたい同じ。
 2時間あれば人生を知るには十分だろう。

 君との距離15センチ。
 適切な間隔を置いて、君は僕の周辺視野の中にいた。
 どこで笑い、どこで泣き、どこを気にとめないのか。同じ方向を見つめながら、密かに横顔を探っている。
 全く同じではつまらない。全く違うのも寂しすぎる。ちょうどいい君が、この世界のどこかにいるはずだ。

 ……
 文字盤の上のカタツムリ。長く留まれば指の運動に制約を受ける。もしも歩みが重なればミスタッチになる。どうしてここに? 
 痛みは雨のようなものだ。自分の意思でコントロールすることはできない。けれども、雨を知っていればきっと乗り越えられる。
「どうしてここに?」 
 互いに理由を答えられない。きっとそんなものはないのだろう。運命という響きはここに似合わなかった。風が教えてくれたタッチ。
 カブトムシの座標をかわしながら、主人公は物語を完成させる。
 表現が偏っている。
 エピローグまで書店員たちには届かない。
 作者は笑っている。カタツムリの笑顔のようだ。
 そして、カタツムリは空の上を歩き始めた。
 星に働いていた力。そのすべてを忘れて。


「つまらない映画だったわ」
 はっきりと君は言い切る。
「そうかな。感動的だった」
 僕たちは真逆。ジャンルが違う。

「さようなら。あなたの人生にはつき合い切れない」
「それじゃあここで。僕はもう少し見ていくよ」
 彼女だけが席を立った。少しあきれたような顔。

「もう終わってるわ。お先に」
 僕は独りエンドロールを見送っている。
 さよなら……









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