山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

ワールドマスターズinバクー

2011-01-18 14:19:18 | Weblog
 ランキング上位16名によるトーナメント、ワールドマスターズがアゼルバイジャン、バクーにて行われた。上位16名といっても欠場する選手がいれば繰り上がるので階級によっては30位ぐらいまでが出場権内となった。

 アゼルバイジャンでこのような大きな国際大会が開催されるのは珍しいが、会場の様子をネットで見る限り、満員の観客で盛り上がったようである。旧ソ連から独立し、カスピ海に面し、石油やガスという資源を持ち、発展を遂げている国のようである。イスラム教徒が95%を占める。東京での世界選手権では男女1個ずつ銅メダルを獲得している。

 日本選手は多いところでは階級3名のエントリーだった。男子は100kg超級鈴木選手、90kg級小野選手、81kg級、73kg級粟野選手が3位を獲得したが、決勝進出したものはなく、100kg級穴井選手を含む6人が1回戦負けという厳しい結果だった。女子は3階級で金メダル、2位が5人(うち3人は日本人同士の決勝)、3位が2人とまずまずの結果であった。

 上位ばかりの選抜大会であるので、1回戦から強豪とあたる可能性を考えれば1回戦負けといっても気落ちする必要はないのかもしれない。また、以前にも書いたが選手は連戦の疲れもあり、出る大会全てで勝利するというのは難しい。ここのところ負けなしだった57kg級松本選手や63kg級の上野選手も決勝で敗れている。

 難しいのは、こういった敗戦をコーチや強化がどのように判断するかだろう。これだけ大会に出場していれば全てで勝つことは難しく、逆に全てに全力を注いでいれば、肝心のオリンピックを前に精神的にも力つきる可能性がある。しかしながら、日本人の感覚でいえば「負ける=弱い、だからもっと鍛えろ」という安直な方向にいきやすいのが心配だ。東京での世界選手権、グランドスラム大会での活躍は地元の利があって額面通りには受け取れない面もあり、今回の結果をみて、浮かれた気持ちを締める必要はあるだろうが、これ以上選手達にムチを入れるのはいかがなものか

 ランキングポイントをみると、上位にランクしていて2位以下に大きく水をあけている選手もいる。こういった選手達は大会派遣を見送って国内でじっくり研究、調整をさせた方がよいのではないだろうか。トップの選手は2月に行われるヨーロッパの大会に平均して2大会に派遣される。さすがに女子の何名かは1大会となっている。強化からすれば派遣しないという選択肢はないのかもしれないが、選手によってはそれもありだろう。ランキング制だから出場させるのではなく、ランキング制だからポイントをみて出場させないという戦略もあるはずだ。日本の派遣の仕方をみているとランキング制の大会になる前同様にパリから始まる2月の3大会のいずれかに選手を派遣するようだ。大会のシステムが変わったのに派遣の仕方には全く変わりがない

 今大会で81kg級の中井選手が関節技を決められて肘を負傷したようである。彼は技が決まっているのに「参った」しなかった。見ていた海外の関係者によれば、外からみても肘を脱臼もしくは折れているように曲がっていても「参った」せず、その後も、苦痛な表情で試合続行が不可能なようにみえたがコーチ陣は続行を促したという。「日本はいまだに何十年も前のような根性主義なのか」といった質問を受けた。そのときの状況がわからないし、怪我の状態も不明だが、もし、彼が「参った」できないような、怪我をしても試合をやめられないようなプレッシャーをコーチ陣から受けていたとしたら問題は大きい。仮定で話をしてはいけないが、もし怪我の具合が重く、4月の体重別にまで影響を及ぼすことになったら、世界選手権、オリンピックの可能性にまで影響を及ぼす可能性も否めない

 厳しく指導をすることは結構であり、選手も勝負に厳しく臨むのはよいが、この時期に怪我をしてしまったら何にもならない。残念だが、怪我をして泣くのは選手だけで強化とすれば代わりがいる。選手が自己主張をしすぎて我がままになるのは良くないが、結局、オリンピックの切符は自分でつかむしかない。オリンピックは生涯に一度のチャンスかもしれず、後悔しない闘いをしてほしい。コーチの顔色をみて言うことを聞いていれば勝てるものでも、選んでもらえるものでもない所属のコーチも選手も全日本のコーチと正面からやりあってオリンピックへのベストな道を模索してほしい。

 

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7 コメント

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Unknown (36ppqq)
2011-01-18 21:06:40
IJFのHPで生放送見てました。
実況はやわらかい雰囲気で
出場選手がゲスト出演して
日本選手について話しているのを
聞いたりするのは興味深かったです。
アナウンサー?の人が詳しくて
1人でしゃべって技やルールについても話して
三四六さん並みだなとか思いました。
この記事にあるとおり盛り上がりがすごかったですね。
特に地元選手への大声援、他国選手への大ブーイングは
極端ともいえました。
アゼルバイジャン選手が複数階級で金と
頑張りましたね。

中井選手の関節技の場面では
ゲストのリパルテリアニ選手が「クレイジー」
と言ってましたね。 
タップしなければいけない場面でしたね。

自分は81キロのバートン選手がやられた大内が
足を持つのが早かったように見えました。
バートンもアピールしてたような。

海外の人や選手の柔道観を聞く機会は
私達一般人にはほとんどありませんが
今回実況を聞いていて 「力づく」のイメージの強い
グルジアのリパルテリアニ選手が
小野選手のフェイントやテクニックに関して
とてもよく理解していることに
失礼ですが驚いてしまいました。
わかっているんだと。
とてもちゃんと考察していて
日本相手には襟を持たせないように組むなど
考えた上で行き着いている工夫だと思いました。

ドイツのマルツァン選手が上野選手にあと数秒で
逆転で負けたとき
「最後に集中を切らしたけどマスターズ3位
立派じゃないでしょうか」と
実況が言っていましたが3位の受け取り方に
日本とは認識の差がありますね。

確かに大きな重要な国際大会ですが
単純にこれに勝ったから他の大会の優勝よりも
重視するという見方は
まあコーチの先生方もしないと思いますが
選手としては選ばれたからには優勝しか
目指さないですし
大会派遣のスケジュールのメリハリは
上が決めなければいけませんね。
世界ランクがトップ独走でも
世界選手権に絞ってベストに持ってきた
ランク16位外の選手に敗れている場合も
ありますし
関節技のタップどうこう以前に怪我のリスクも増えますし。
Unknown (36ppqq)
2011-01-18 21:14:25
連投失礼します。
57キロの松本選手とモンテイロ選手の試合
すばらしかったですが
実況が「寝技も立ち技と同じく場外へ逃げるのは
反則になるべきじゃないの」
みたいなことを言っていましたが
現行ではつまりルール上OKになっているんですかね?
どうもそうみたいですね海外の認識では。
グランドスラム東京でも福見選手が
露骨に場外へはって逃げる相手に
「ちょっと審判」みたいな表情で審判を
見ていたような場面がありましたし
世界選手権でもモンテイロ選手の場外脱出には
ブーイングでした。
Unknown (ぺんこ)
2011-01-20 12:38:33
はじめまして。
とても興味深く読ませていただいてます。
本当に、世界ランキングを重視しているのか
オリンピックを目指しているのか
わからなくなってしまいます。
「若い選手には経験を」とコーチ陣は言っていますが、
体を休めたり、研究する暇ないくらい追い込まないと
柔道って勝てないものなのでしょうか?
on.offの「off」がない状態だと思います。

今回話に挙げられた中井選手は
昨年は年間15の国際試合に派遣されたそうです。
こののマスターズのあとには
ヨーロッパ遠征が2試合控えています。
これではいくらケアしようと
体がもちませんね。
ほかの選手もそうだと思います。

使い捨て状態にあることが
すごく悔しいです。
全柔連側からすれば
数多くいる選手の中のひとりかも知れませんが
選手たちは命がけで柔道をやっているのに。

選手の可能性・やる気・柔道人生を
摘みとらないでほしいです。
山口先生の意見に大賛成です。 (渡部正博)
2011-01-20 22:17:49
山口先生の意見に大賛成ですね。やはりうまいやつにはきつく、あまり上手でない人は、とことんほったらかしか、早く練習せんかとか、コーチングができない指導者が多いでしょうか?
私の道場では逆に少数ですが、私みたいな初心者になぜ柔道して怪我してでもやっているのかと真剣に耳をかたむけてくれる先生もいます。怪我治してからでも待っているからなあと声をかけてくれて週1日でいいから一緒にやろうと私みたいな初心者が新鮮にみえるのでしょうか?よく先生の話をきくとどう柔道指導したらいいのかわからないと悩んでいると聞いてびっくりしました。、山口先生のおっしゃるとうり、ガツガツやると身体をこわしてしまうと整形外科、内科の先生も危惧しています。どうバランスをとってスポーツを楽しみ、普及させて、心、体、技を鍛えていけばいいのかと医者も悩んでいます。山口先生のブログを読んでいて、仕事しながらどうチームをまとめていきその成果をわかちあえばいいのかと自問自答しています。
私は、ようやく横四方固めができるようになって先生にほめられて毎日家でエビの練習しています。篠原監督も何を焦っているのでしょうか?男子が負けているのは、自分に問題があることをもっと客観的に見る、違う分野の人と話してして一呼吸おかないと選手に妙なプレッシャがかかっているだけではないのでしょうか?
選手の将来と今後の柔道の普及のためにも再考してもらいたいです。
怪我 (山嵐)
2011-01-22 02:50:37
グランドスラムの谷本選手もそうですが参ったをしない選手が多いですね どれだけ利いているのかは本人にしか分かりませんが
勝ちたい気持ちは分かりますが関節の怪我は今後の選手生命にも関わりますから我慢し過ぎるのは長い目で見たら何の徳にもならないでしょう
目指す所はオリンピックでしょうからある程度要領よくやっていかないと
残念 (しゃこ)
2011-01-22 05:19:33
Youtubeで、今回の試合の動画を探して見ました。ただの一柔道ファンですが、ベテラン選手は特に疲れていそう、何か集中していない、やる気に溢れていないなという印象を受けました。どなたかもおっしゃっているように、日本にはどの階級にも強い選手が沢山いるので、一人一人を大切にするのではなく、全柔連側は誰でもいい、選手の使い捨てをしているように感じます。選手たちは皆人生をかけて頑張っているのですから、とても残念だし悲しいです。

また、中井選手の試合には最後見れませんでした。まだ若くて本当にコーチ陣の言う通りやっているんでしょうね。この試合で怪我して負けるよりも、この先に及ぼす影響の方がはるかに大きいということをそこで考え止めさせてあげてほしかった。本当に残念です。
応援してます (まいちゃん)
2011-01-30 10:58:53
初めまして~♪
お仕事頑張って 下さいネ(-^□^-)