山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

重量級再生

2009-05-01 08:25:27 | Weblog
 日本男子柔道は、なんといっても重量級に価値をおいている。結果的にそうなっているのかもしれないが、実はこれまで全柔連のヘッドコーチも全日本選手権覇者しか抜擢されていない

 また、国際的には無差別級が重量級と選手が「だぶる」からという理由で排除の方向を示しても、日本は存続の意志を明確に示してきた。今年の世界選手権では無差別級は行われない。現在、日本重量級の層の薄さを考えれば二人選ぶ必要がなかったのは幸いだったかもしれない

 昨年から行われるようになった単独の無差別世界選手権には、日本から棟田選手、高井選手、穴井選手が出場したが、いずれも早い段階で敗退した。3人出場させて、メダルにも届かなかったというのが現状である大会を視察した人は、「組み手がどうのこうのとか、レスリングスタイルとかではなくて、組んでしっかり投げられていた。」という

 今までのように「気持ちで負けた」とか「根性がない」などということでごまかすのではなく、なぜレベルが落ちたのか、世界で通用しなくなってしまったのかを冷静に分析し、次の一手を考える必要がある

 考えるヒントは北京オリンピックの石井選手の戦いぶりにある。「一本をとれるキレのある技がない」あるいは、本人も「世界の柔道を学んでポイント柔道でも勝つ柔道をする」と公言していたので、「一本勝ち」にこだわる関係者からは評価が低かったように思う。しかし、開けてみればほとんどの試合を一本勝ちし、危なげない戦いぶりで圧勝であった

 この勝利のポイントは、圧倒的なスタミナである。彼の練習量は漏れ聞いたところによるとすごいらしい。心技体というが、実は強い心を支えるのは、豊富な練習量に裏付けされた体力である。スタミナが切れてしまえば心も萎えてしまう

 初代無差別のチャンピオンに輝いたリネール選手(フランス)をみればわかるが、従来の重量級にみられた「あんこ型」ではない。日本でも篠原選手、井上選手、鈴木選手、石井選手と、重量級で活躍する選手が「どっしり安定型」から「動ける重量級」に変化してきた

 「あんこ型」が悪いというわけではない。しかし、現在の国際ルール、そして、一日に何試合も続けてこなさなければならない現状を考えれば、「気迫を持って戦い抜けるだけの体力」は必須である。体重が重くなればなるほど、相手への圧力になる利点と負荷が自分にもかかるマイナス面がある。そのことを理解した上で戦い抜く体力を養うためのトレーニングを積む必要がある

 リネール選手のフランスでのトレーニング風景がテレビで紹介されたことがあったが、中量級並みのスピードが感じられた。重量級の場合、自分より重い練習相手は限られるので柔道着の稽古だけでは足りない。軽量、中量級の選手達以上にウェイトトレーニングで筋力を補強しなければならない。軽量、中量級は自分より重い選手と稽古すれば自然とトレーニングにもなるが、重量級はそうはいかないからだ

 日本柔道は、体力よりも技術を重んじ、畳みの上での稽古を重んじるが、実はここに陥りやすい罠があるともいえるある程度技術を持ってしまうと、柔道の稽古では自分を追い込めなくなる。「手を抜く」という意識はなくとも「あしらえる」のである。とくに練習相手の限られる重量級の選手は、稽古の前にトレーニングをして、ある程度披露した状態で稽古に臨むといった工夫、意識の高さが求められる

 重量級は同じ所属だけでは練習相手が限られるので出稽古も必要だろう。ここまでレベルが下がってくると本人の意思に任せている段階ではないので、大学、実業団が連携して重量級だけを毎週土曜日などに集めての合同練習会なども良いと思う。海外にだして経験を積ませることもいいが、日本ほど選手層の厚い国はない。そういった利点を生かさない手はない

 私見だが、過去の重量級の選手達よりも現在の選手達の方が体格はよくなっているが体力は落ちているのではないだろうか?また、彼らの体力が海外の選手達に比べてどうなのか?体力があってこそ、気力がわき、技術が生かせる

 重量級で穴井選手のように攻めまくれる選手だったら・・・と想像してほしい


最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
石井慧選手 (SY)
2009-05-01 12:15:51
北京では決勝以外オール一本勝ちだったわけですが、もう一つ注目すべき点は失点ゼロだったことです。

反則ポイントがすぐとられる国際ルールにおいてこれは驚異的なことであり、
やはりスタミナがものをいったのでしょう。
返信する
全日本選手権を見て・・ (Hiroaki)
2009-05-03 15:23:50
こんにちは。^^
初めて書き込みします。m(__)m
自分は柔道は高校の時、体育の時間に”受け身”を少し習ったぐらいです。^^;;
なので、ほとんど柔道のことは知りません。
ですが、自分は剣道を少しやっていたことがあります。(こちらもほんの少しやってただけですが・・汗
そういう自分ですが・・
先日、全日本選手権をたまたまTVで見ましたので自分なりの感想をお話します。
まず山口さんも書かれているように棟田選手はちょっと見苦しく感じました。
「痛いならヤメてしまえ」とヤジがあったそうですが・・
本当にそう思いますね。あれが日本一を決める試合に出てくる選手の姿かと思います。
対して穴井選手はポイントを奪われたあと良く攻めたと思います。
しかしながらポイントが並んだとたん攻めが止まりましたね。
なんだかな~。と思いました。
今の柔道ってそういうモンなのでしょうか?
寂しいですね。
でも、判定の瞬間はちょっとドキドキしましたよ。
棟田選手は「警視庁」ですよね?
どう考えても穴井選手の方が優勢だったと思いますが最後に組織の圧力で判定に影響が出ないかなと・・
ま、出なくて良かったです。
(そこまでは腐敗してなかったということですから)
しかし、手放しでは喜べませんでした。
判定があったあとの穴井選手の喜び様と号泣する様。
あれが日本一の柔道の選手の姿なのですか?
剣道では考えられません。
剣道では一本取ったからといってガッツポーズする選手は皆無ですし・・
試合後に号泣する選手も皆無です。
柔道。なんの「道」なのでしょうか?
長い鍛錬の年月に何を学んでこられたのでしょうか?
そんな風に思いました。
試合前の礼にしても「あれが礼か?」と思うことも少なくないです。
これは最近の大相撲でも感じることですが・・
日本人で柔剣道の選手なら、せめて試合前後の礼はきちっとするべきだと思います。
ま、そういうことも山口さんは十分心得ておられ意識もされてるようなので頼もしく感じます。
詳しいことは知る術もありませんが、今の柔道界が正常じゃないのは部外者の自分にも分かりますし、それを変えていこうとすれば大きな反発も食らうだろうことは想像できますが、
そこに果敢に挑戦されている山口さんの姿をみれば応援せずにはいられません。
是非、頑張ってください!
返信する
Unknown (大森)
2009-05-03 18:49:56
Hiroakiさん、みなさんこんにちは。

「剣道では一本取ったからといってガッツポーズする選手は皆無ですし・・
試合後に号泣する選手も皆無です。」

そうなんですか。以前の書き込みで、剣道では応援も、声援はなし、拍手だけと書いてありました。

考えさせられますね。剣道と比べて考えたことはあまりありませんでした。

こういう違う立場からの書き込みは、重要ですね。不特定多数の人の目に触れるブログだからこその利点だと思います。

質問なんですが、今は、剣道も世界選手権がありますね。世界戦でも、やっぱりガッツポーズはないんでしょうか。まあ、ないんでしょうね。

あと、剣道にも嘉納治五郎さんのような、創始者はいたんでしょうか。剣道も、様々な流派が(きっと柔より)ありましたよね。自分で調べなくてスミマセン。


返信する
Unknown (Hiroaki)
2009-05-03 20:37:11
こんにちは。^^
自分は剣道を少しカジっただけの者であるので、あまり深いツッコミは勘弁してください。^^;

世界選手権は実際に見たことないですが、「韓国の応援は凄い・・」とかってネットに出てましたので
あるいは韓国選手などはガッツポーズとかしてるのかもしれませんね。(汗

ただ、全日本剣道選手権大会など国内の大会では”絶対に”ありえないですね。
一度、全日本選手権の決勝の試合をテレビ(NHK)で見てみて下さい。
非常に凛!とした空気が流れています。

合気道や弓道などでもガッツポーズや号泣はないのでわないでしょうか?
柔道とは普及の規模がまったく違うので単純に比較は出来ないかもしれませんが
スポーツであると同時に武道であり、青少年の教育の一環にも深く関わっているということでは同じだと思いますし
そういう意味でもっと礼儀礼節を大切にしたほうがいいんじゃないかと思います。

相手や審判に礼をする前に泣き出したり、ガッツポーズしたり、畳の上を走ったり・・
なんなのかなこの人は?と思いました。^^;
試合中の攻めの姿勢があっぱれだっただけに残念でした。

剣道の歴史、その他については『ウィキペディア(Wikipedia)』の記述を見てください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%A3%E9%81%93#.E4.BA.8C.E5.88.80.E6.B5.81

剣道界にも問題が無いわけではありません。
むしろ、柔道界と似た多くの問題を抱えていると思います。
普及規模が大きくなくオリンピック種目じゃないので表に出にくいという面もあると思います。
返信する
Unknown (Unknown)
2009-05-03 23:17:27
私は柔道界に長くいますが、若い頃はガッツポーズしていました・・。大人になった今その姿を見ると自分のことながら恥ずかしいです。
そういう意味では棟田選手は立派な礼法をしますよね。世界チャンピオンになってもガッツポーズどころか嬉しそうな顔もしないのを見ると「若いのに立派だなぁ」とおもいます。
しかし、あの痛がり方は棟田選手の礼法の素晴らしさに陰りを落としてしまった気がして残念です。本当に痛いのでしょうが、全日本の決勝にいく選手には我慢してもらいたいというファンの勝手な願いですが・・。

なにはともあれ剣道界のいいところはもう一度学ぶべきだと思います。
しかし、今の少年柔道の会場に行くとひどいものです。選手よりも指導者と親御さんの怒号飛び交う姿には辟易とします。

新館長の改革に期待します。
返信する
はじめまして (あさこ)
2009-05-04 23:59:32
初めまして。

始めてカキコします!

いつも応援しています。
お仕事頑張って下さい。
返信する