時事放談22 By半平太

好き勝手、自分勝手な放談です。
放談なんで、人の批判には絶対反論しません。でも読んでます。

正義の怖さ  あるいは島津斉彬と西部邁氏

2006-04-09 | Weblog

人間は自分が「正しい」と思わないと生きていくことが辛くなる。内省型の人間は「自分は正しいのか」と迷うことが多く、はたから見れば煮え切らない印象をあたえることもある。「自分は絶対正しい」と思える人間に比べ、不幸な性格である。

イデオロギーは人を強くする。保守、右翼、革新、左翼、そして最近流行の改革主義。それぞれの考えには仲間がいて、自分は正しいという確信をあたえてくれる。小泉さんがあんなに「強くて残酷」なのは改革主義というイデオロギーを信奉しているからであろう。

だが、イデオロギーほど怖いものもない。人は自ら信じる「正義」のためなら、どんなに残酷にもなれる。相手をとことん攻撃することもできる。ヒトラーにもスターリンにもポルポトにも、核兵器を使用したアメリカにも、彼らなりの「正義」はあった。でなければ、数十万の人間を殺すことなどできはしない。ただし、日本陸軍の場合は、「正義じゃない」ことをわかっていて、アジアの民衆を殺したり、拷問したりしていたのではないか。そんな「疑い」が私にはある。もっと歴史を調べてみないと、確定的にはいえないが。

幕末、尊皇攘夷という強烈なイデオロギーがあった。藤田東湖らが理論的主柱であった。それに対する概念は「西洋かぶれ」であった。

西郷隆盛は主君、島津斉彬の使いをするうちに藤田の理論にかぶれた。藤田に使いさせたのは斉彬流の深謀遠慮であった。西郷は攘夷にかぶれ、そして切腹を覚悟で斉彬の「西洋かぶれ」を諌めようとした。

斉彬は「やはりかぶれたな」と言ったあと、こう言ったという。「攘夷かぶれも、西洋かぶれも愚の骨頂、真実をみようとしないで、なんとする。日本を西洋の侵略から守るのが我々の責務である。西洋の優れた武器をとりいれず、刀だけで攘夷ができるのか。」

私は今久々に、西部邁氏の著作を読んでいる。「大切な心を忘れた日本人 わが憲法改正案」という本である。

「主義」に関して、こんなことを書いておられる。

日本国民が欲望主義を振りかざす背景は、相対主義という現代における思想の妖怪が大きく手を広げている。価値と認識における絶対的基準の探索を放棄し、蔑視するのが相対主義であるが、世界をくまなく徘徊しているこの妖怪は日本という島国をこよなく愛しているようだ。」

この「徘徊」という表現、「共産党宣言」の序文。「共産主義という妖怪(お化け)がヨーロッパを徘徊している」からきたのだろうか。とふと思った。保守の論客として知られる氏は若き日は左翼思想の持ち主であったから、ふと、そんなことを思った。

氏の相対主義批判、民主(衆愚)主義批判、進歩主義批判の舌鋒は衰えてはいない。お元気でなによりである。

この本の43ページに相対主義を乗り越える絶対基準としての「保守」ついてこんな叙述がある。

政治思想における保守とは、すでにみたように、歴史の流れと、そこで形成させ来たった慣習の制度と、そこに内蔵されている伝統をとくに保守することを意味する。

氏の叱責を覚悟で意訳すれば「日本史に学べ」ということであろう。

私は日本史が好きである。本当に日本史には学ぶことが多い。歴史全般についても好きである。世界史からも学ぶことは多い。

では私は「保守」なのか?自分では違うと思う。むろん「サヨク」ではないようである。すると氏のいう欲望に突き動かされる相対主義者なのだろうか?

絶対基準を「正義」と言いかえるなら、それは非常に恐ろしいものである。日本には伝統的に自国民に対する大量殺戮はないような印象があるが、そうとも言えない。戦国時代はおくとしても、平安期の蝦夷政策、鎌倉期のさまざまな「乱」、江戸初期、幕末、関東大震災後、60年前の戦争。。。。実は枚挙にいとまがないほど存在する。「日本の伝統」の中にもやはり多くの欠陥はありそうである。

私には主義はないが、価値判断の基準はある。それは極めて平凡である。人を傷つけてはいけない。なるべく悪口はいうな。挨拶をしろ。食べ過ぎるな。性欲を律せよ。人にはなるべく親切にしろ。自分のできるかぎりは。

それでも多少の悪口は言うし、批判はするし、食べ過ぎるし、知らずに人を傷つけることも多い。

私は「正義」が恐ろしい。自らの中に理性とともに残酷性があることを知っているからである。人間の脳の中では「爬虫類の脳と大脳新皮質の戦い」がいつも起こっている。(らしい)。正義の観念は大脳新皮質(理性)による爬虫類脳(残酷性、攻撃性)の「承認」を加速させる。暴力嫌いの私だって「正義」のためならいつ人を殺すかわかったものではない。

絶対基準は別に持ちたくないが、庶民の知恵は持ちたいな。西部邁氏の本を読みおえたら、「おばあちゃんの知恵袋」でも読んでみよう。

少しはまともなこと言ってるじゃん、と思われたらクリックをお願いします

 

 

 

 

 


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。