旧ユーゴスラヴィアの本

旧ユーゴ地域についての本と、ときどき映画。
ミリャナ・カラノヴィッチのささやかなファンBlog。

どっちつかず

2009-03-21 23:39:34 | 映画
「Nešto između」IMDb(邦題「三人でスプリッツァ」)という映画を観た。これもスルジャン・カラノヴィッチ監督の作品。
アメリカからユーゴスラビアにやって来たジャーナリストの女性と、その元恋人のユーゴの医師、その友人のプレイボーイが話の中心。
医師役では若々しいミキ・マノイロヴィッチが出ている。といっても、雰囲気は今とそんなに変わらない……演技はやっぱりとんでもなく上手いし、改めて、すごい俳優だな、と。英語を喋らせたって、やはり絵になる人です。
とか考えると、ミリャナと夫婦を演じた「パパは出張中!」って、偉大。


原題の意味は「どっちつかず」。女性の揺れる心とか、ユーゴという国のありようなどの比喩になっている。それだけに限らず、「どっちつかず」はいろいろな所に見いだせた。たぶん、わたしが年をとるごとに、この意味もより深く分かることができるようになるんだろうな、と思う。そんなような、奥深い表現。
「ペトリヤ」では写真のコラージュだったけれど、この作品では冒頭でおばあちゃんが語りかけてきて、「どっちつかず」というゲームについての説明をする。それが全体を貫くモチーフとなる、という仕組み。
こういうカット、というか構成が好きな監督さんなのかもしれない。良い効果が生まれていて、なかなか素敵だと思う。


三人のやり取りの中でアメリカとユーゴがよく比較されるのが興味深かった。
東でも西でもないユーゴ。もちろんわたしはその時代にかの地に行ったことはないけれど、間接的には聞き知っている。でも、ああ、こういうことなんだな、とこの映画を観て腑に落ちた。もちろんごく一部に過ぎないのだろうけれど。
空襲訓練って、実際、あの通りにやっていたのだろうか。建物に火をつけたり、ミサイル?を処理したり。かなり気になる……。


旧ユーゴ関連の作品で、こういう軽快なタッチの男女の物語を観たのは、わたしにとっては初めてで、新鮮だった。
心理描写はすっきりしているけれど、しっかり個々の心の動きが描かれているし、展開も、落ち着いていながらも意外性抜群で、面白い。
ただ、残念なのは、音楽が少々野暮ったいこと。それと、JATのCM?というような、見事なまでの飛行機の俯瞰ショット。スポンサーだったんだろうな、きっと。
でもそれも愛嬌かな。なにせ「どっちつかず」だもの。


最後に、スプリッツァというのは、ワインとソーダを半々に割った飲み物のこと。
多民族、多文化が混じり合うユーゴという国、そして「どっちつかず」が重ねられている。


(こんな詳しい解説を見つけました。→link
ただし、ネタばれ満載なのでこれから見られる方はお気をつけて。)


ユーロヴィジョンと素晴らしき衣装と新作と

2009-03-08 21:00:00 | その他
今月の「旅行人」linkの中に一昨年(2007年)のユーロヴィジョン・ソング・コンテストの優勝者・セルビア代表のマリヤ・シェリフォビッチに関する記事がありました。筆者は彼女に夢中になって、彼女のCDを買うためだけにセルビアまで行ってしまったそう。すごい!
日本の雑誌でセルビアの歌手についての記事!?とびっくりしながら読んだところ、全く知らなかったのだけれど、優勝した後、マリヤの政治的な立ち位置について、向こうではいろいろな論争が起こったようで。それに関して書いてあった。
先日の米大統領選では、有名人が次々と大々的に自分の支持するところを明らかにしていたけれど、セルビアではとりわけなかなか敏感な部分なんだなと。
記事はその他、ユーロヴィジョンの歴史、仕組みについての解説などもあって、ルーマニアの特集も併せ、なかなか興味深い。

そのユーロヴィジョン、マリヤさんが優勝したので、翌年、つまり去年の大会の会場はセルビアだった。
先日、こんなものを見つけ、出場!?と思ったのだけど、違いますね。
この赤と青の衣装(「セルビア・カラー」だなぁ……)、すごい……


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そうそう、クストリッツァ準新作の邦題、発表されたところによると、
「ウェディング・ベルを鳴らせ!」
……
………
…………ううむー、素直に「約束」で良いじゃん。(笑)
個人的には、もう一つの新作「マラドーナ」の方も気になるけども……これは邦題云々の前に、来ないのかも。(涙)

ペトリヤの花輪

2009-03-08 21:00:00 | 映画
もう結構前のことなのだけど、「ペトリヤの花輪(Petrijin venac スルジャン・カラノヴィチ監督)」IMDbという映画を観た。
1980年制作。ミリャナ・カラノヴィチの(たぶん)スクリーンデビュー作。(情報源によって微妙に違うので、、、)

物語は貧しい農村から始まる。
結婚式を終え、夫の家族との同居生活を始めた女の子・ペトリヤ。未来への希望に胸を膨らませていた彼女を待ち受けていたのは、しかし、夫の両親の過酷な仕打ちだった。夫の無関心、戦争、戦後の社会の激しい変化。さまざまな苦難に会いながら、不器用に、でもしっかりと、彼女は歩んでいく。

いわゆる『女の半生』ものなんだけれど、一般的なそれとはかなり毛並みが違う作品。波乱に富んでいながら、全体的にすごく落ち着いていて。演出とか、音楽とか、何より、ミリャナ演じる主役のペトリヤが普通に地味な女の子。物凄い豹変もせず、最初から、最後まで。
そんな風に、派手さはないけれど、それだけに、なんとなくひきつけられる、そういう映画だった。

ペトリヤを取り巻く環境は本当に苛酷。
夫の両親の彼女への仕打ちは、日本の昼ドラの嫁姑争いとは、もう、性質が違うように感じてしまった。
びっくりしたのは、ペトリヤが納屋でたった一人で出産するというシーン。本当に、たった一人で……その上、生まれてすぐに赤ちゃんは死んでしまう。
こういう話が自然に展開していく(役者さんの演技も全然違和感がない)ところを観ていると、実はこれはそんなに特別な話ではないのかも、、、と思った。原作もあるようだし。(実話かどうかはわからないけれど。)
戦後、人々が飲み屋(?)を「ブルジョワ!」と非難し、店を壊していくシーンも、印象的だった。
バルカンの伝統的な家父長的な農村だとか、社会の急激な変革を静かに批難した作品ともとれるのかもしれないと思った。淡々としていて、そんなに表立ててはいないけど。それに、わたしも詳しくないのでむやみに断言はできないけれど……。
でも、もしそうだとすると、そういう作品も作ることができたユーゴは、不思議な国だな、と改めて思った。チトーの死後ということも影響しているのかもしれないけれど。

ペトリヤと同世代の人は、わたしよりずっと、感情移入するんではないか。親しみやすいヒロインだし。
それにしても、ミリャナってすごい。抑えた雰囲なのだけど、なんとなく最後まで気になってみてしまうようなヒロイン。新人とは思えない……。やっぱり、さすがです。

岩波ホールのパンフの中に「ペトリヤの道」という邦題で名前が出ていたので、日本でも上映されたことがあるのかも。でも、日本語字幕で観ることはかなわず、結局英語字幕で。もっと言葉が分かったら、また違うんだろうな、というのがわたしのちょっと残念なところ。