日本裁判官ネットワークブログ
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 9月20日のブログでも触れたアメリカ発の金融危機の影響が広がっていますね。株安も深刻で,ここ1か月で,日本が36パーセント,アメリカが25パーセント,イギリスが23パーセントの株安だそうです(朝日)。世界で,日本の国内総生産の3倍近い14兆ドル(約1400兆円)が失われたという試算もあるようです。投資家の方々は,こうした株安にストレスがたまって仕方がないのではないでしょうか。自分の資産が,何もしていないのに,実質的にどんどん目減りしていくのですから,気が気ではないでしょうね。信用取引をしている人なんかは特にそうでしょう。本来の仕事が手につかないとか,家庭内で配偶者や子供の声に気もそぞろとなんて事態になっておられる人もおられると思います。

 ところで,裁判官の中にも,個人的に,株取引をしている人はいると思います。資産運用も,昔とは違って一般的には大事なことであり,特に裁判官だけ許されないという根拠はないでしょう。あまり表だって議論されたことはないのですが,自分の資産を運用する程度の株取引は,経済活動の自由として裁判官の市民的自由の一つといえるかもしれません。裁判法52条2号,3号では,裁判官の経済活動として,「許可のある場合を除いて,報酬のある他の職務に従事すること」「商業を営み,その他金銭上の利益を目的とする業務を行うこと」を禁止していますが,それ以外の経済活動については特に触れていません。株取引が上記条項に直ちに該当するというのは無理がありますし,上記条項は,裁判官の職務専念義務との関係の禁止条項であり,株取引が直ちに職務専念義務に反するとまではいい難いので,裁判官の株取引については,一般的な法規制はないというほかありません。法規制にまでいたらない倫理の問題としても,株取引が直ちに裁判官の倫理に反するとするとまで断定する根拠には乏しいように思います。逆に,裁判官は,実際の民事や刑事の裁判でも,株やデリバティブズ(金融派生商品)の事件を担当することが少なくないですから,株式を始めとした金融の知識や実体験を有していることは,裁判実務にも有用ともいえ,一律許されないというのは到底できないように思います。

 もっとも,裁判官の場合,あまり過度の株取引は,自粛した方がよいのではないかと個人的には思います。上記のとおり,株取引は市民的自由の問題ともいえ,かつその経験は職務にも有用なのですが,裁判官が,自分の余裕資金を超えて株取引をしだすと,今回のような事態が生じた場合,心の平穏を保つのがなかなか難しく,当事者の人生や命に係わる事件を扱う際に影響が出かねないと思うからです。個人差はあるでしょうが・・・。
 裁判実務のサボタージュなど,明確に裁判実務に影響し出すと,職務専念義務違反となりますが,そこまで至らなくとも,できるだけ心を平穏にして,あせりや曇りのない目や心で事件をみるために,ほどほどの取引が肝心かと思います。過度かどうかの具体的判断は,各裁判官の良識に委ねられることになるでしょうが,「保有株式の価格がゼロになっても,生活には響かないし,いい勉強になった」と思える程度の取引範囲内にとどめた方が無難でしょうね。ただ,日本の多くの裁判官は,そんなことより,今回の事態で,株やデリバティブズ取引をめぐる事件が増えて新たな法的問題が生じるのか,資産の減少や融資の引き締めで民事再生や破産の各申立てが増えるのかなどという点に興味を持っていることと思います。それは,それで健全な姿のように思います。(瑞祥)
 

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