ヒジュラ暦1426年ラジャブ(7月)15日 ヤウム・サブティ(土曜日) |
今回のツアーで最も印象に残った料理が「マンサフ」だった。
大皿の上にサフランライスを敷き詰め、子羊の丸焼きをドーン!と乗せた豪快な料理だ。
羊はイスラム圏ではもっとも食べられている肉である。
ウェイターたちが手でコイツを解体して取り分けてくれるのだが、頭がもっとも貴重な部分である。
その貴重な部分をふるまってもらえる幸運(…かな?)に恵まれた。
ことの起こりは、私がチーフウェイターに気に入られたことだった。
私の体格を見たチーフウェイターが「空手をやっているのか?」と尋ねてきた。
「うむ、その通りである」と答え、「日本人=カラテ民族」という偏見を強化すると、「では、ナツメヤシを1日10個食べるとよい。私は昔ボディビルをやっていた」と突然謎のアドバイスをされた。
さらに仲間のウェイターたちに「彼はジャパニーズ・カラテ・マスターだ」と余計な紹介をしてくれた。
そして私が羊の頭を見ていると、チーフウェイターが羊の頭を厨房に持ち帰り、時間をかけて解体して、特別プレートとして持ってきてくれた。それが下の写真である。
ツアーの女性客の皆さんは先ほどから、顔をしかめフルフルしている。
目玉が二つあるので、ひとつをみなさんに勧めてみたが、誰も食べようとしない。ありがたくひとりで二つとも食べた。
目玉は口に入れると、「ぬちっ!」という感触がする。トロトロを越えている。ヌルみの強い食感。どうやらこれは白目らしい。まるめた糸のような「ぐぢゃらぐぢゃら」とした感触が微妙に混じる。これが黒目だな。
「ぬち」と「ぐぢゃら」のなんとも言えないハーモニー。うまいとかまずいとかを超越している。粘土とゼラチンを混ぜて、かにみそで味付けしたような感じか?
舌はいわゆる「タン」なのだが、スライスでなく、原型のまま「でろ~ん」としているところが衝撃的。豪快にかぶりついてみた。羊とディープキスしているような錯覚が一瞬頭をよぎった。
うん、味はふつうのタンだ。コリコリした食感もいい。これはおいしい。
脳みそは大脳から延髄までついてワンセットそのままの形。大脳を少し取って食べてみた。ちょっとパサパサした感じはあるものの、まずくはない。
味付けせず、ソースもかけていないハンバーグのような食感と味。淡白な感じは白身魚にも通じるものがある。
しかし脳みそは生の方がうまいかもしれない。以前、赤坂の某韓国料理店で食べた、羊の生脳みそのパクチー添えは、とても美味だった。
なお、延髄は硬くて食べられなかった。
ほほ肉は、マグロのかぶと焼きのほほ肉と似た味。脂が乗っていておいしい。ただし脂が乗りすぎているのが難点でもある。
魚の不飽和脂肪酸と違って、肉の飽和脂肪酸なので、たくさん食べるとおなかがもたれる。
前菜や、子羊の体の肉も食べた後だったので、さすがに頭の部分すべては食べ切れなかった。
食事の時間が終わり、「どうだ!?」という感じで誇らしげに立っているチーフウェイターと抱擁し、レストランを後にしたのだった。