石造美術紀行

石造美術の探訪記

滋賀県 高島市今津町酒波 酒波寺五輪塔・宝塔

2008-10-03 00:01:25 | 五輪塔

滋賀県 高島市今津町酒波 酒波寺五輪塔・宝塔

青蓮山酒波寺(真言宗智山派)は酒波集落の北方の山腹にある。旧天台宗で、高島七ヶ寺のひとつに数えられる古刹。「興福寺官務牒疏」には僧坊56宇を数えたと伝える。かつての広い寺地を描いた古絵図も残るが元亀年間、織田信澄に焼かれるなどして退転、江戸時代に再興された。本堂に向かう石段に向かってまっすぐ伸びる参道の西側、道路に近い境内の入口近くに近世の常夜灯と並んで立派な五輪塔がある。15自然石の石積みを長方形に並べて囲い込んだ低い土壇を設え常夜灯と五輪塔が並んでいる。この土壇は一部コンクリートで固めてあるので古いものではない。佐野知三郎氏の報文によると、以前は小川を挟んだ対岸にある日置神社側にあり、地元で「大腹(だいばら)さん」と呼ばれているという。14台座や基壇は見らず直接地面に地輪を据えている。高さ約190cm、白っぽい花崗岩製で表面の風化はやや進行しているが概ね保存状態は良好。地輪は低く安定感がある。水輪は左右の横張りが小さくほぼ球形に近いが上下のカット面があまり広くないせいもあってか背が高く感じる。最大径がやや低い位置にあるようにも見えるので天地が逆になっている可能性もある。火輪は軒幅に比して高さがあり底面に比べ頂面は小さい。四注は適度な屋だるみをみせ、軒口は厚く隅に向かって力強く反転する。空風輪は大きめで、特に風輪が高く大きい。空輪と風輪の間のくびれが少なく、風輪の上端は水平にせず外側に傾斜している。空輪も高さがあって宝珠形というより球形に近いが最大径は低い位置にある。先端には小さいが突起がある。梵字や刻銘は確認できない。各部のバランスがいまひとつで整美なプロポーションとはいえず地輪を除くと全体に背が高い印象でどこか垢抜けない。造立時期の推定は難しいが、規模が大きく、軒反の力強さや低い地輪、くびれの少ない大きい空風輪、横張りの少ない球形に近い水輪など各部の特長を、概ね古調を示していると評価し、鎌倉時代後期、13世紀末から14世紀初め頃のものと推定しておきたい。03参道を進み長い石段を登り山門をくぐると正面に本堂がある。本堂右手に庫裏があり、庫裏の東側にある庭池のほとりに石造宝塔が立っている。花崗岩製で現存高約155cm、基礎幅約53cm、笠の軒幅約51cm。基礎下には自然石を並べて敷いてあるがこれは当初からのものとは思えない。側面は3面輪郭をとって格狭間を配し、正面西側のみ格狭間内に開敷蓮花のレリーフがある。02 輪郭、格狭間ともに彫りは浅く、各格狭間内は平らに仕上げている。正面の開敷蓮花のレリーフは非常に薄く彫られ風化も手伝って肉眼では確認しづらい程である。一方東側は素面のままとしている。輪郭の幅は狭く、上下の地覆、葛部分より左右の束の幅が若干ながら広い。格狭間は概ね整った形状を示すが、側線の膨らみと花頭外側の弧が下がり気味になっている点はやや新しい特長といえる。塔身は軸部、縁板(框座)、匂欄部、首部から構成されている。軸部は下すぼまりで重心が高く、塔身全体が宝瓶形を呈する。扉型などは見られず素面。縁板は薄く、軸部の最大径がある肩付近に比べるとその径が小さいので控えめな感じを受ける。縁板上端面からは匂欄部、首部と径を減じていく段形になっている。また、笠裏は2段に斗拱型を刻みだしている。軒口は比較的薄く隅近くで反転する軒反に力強さは感じられない。屋根の勾配は比較的急で四注の照りむくりが目立つ。断面凸形の隅降棟は露盤下で消失し左右が連結していないように見える。露盤は比較的高くしっかり刻みだしてある。相輪は九輪の9輪目以上を亡失している。伏鉢が円筒状に近く、下請花とのくびれが小さい。下請花は風化ではっきりしないが複弁と思われる。また、九輪の凹凸は小さい。以上総じて温和で丁寧な作風だが、豪放感や力強さは感じられず、こじんまりとまとまった印象を受ける。石材の感じや作風は先に紹介した今津町日置前の正覚寺塔(2008年5月12日記事参照)、西浅井町下塩津神社塔(2008年8月19日記事参照)に似ており、基礎の格狭間、笠の特長、塔身の形状などから造立年代は南北朝時代、14世紀中葉から後半頃のものと推定したい。この庭には他に室町時代のものと思われる小形の層塔の笠や五輪塔の残欠、小形の宝篋印塔の笠を積み上げた寄せ集め塔が2基ある。

参考:佐野知三郎 「近江の二、三の石塔」 『史迹と美術』407号

    〃 「近江石塔の新史料」(三) 『史迹と美術』421号

   滋賀県教育委員会編 『滋賀県石造建造物調査報告書』190~191ページ

   平凡社 『滋賀県の地名』日本歴史地名体系25 1080ページ

酒波("さなみ"と読みます)を訪ねた時は蕎麦の花が一面に咲いていて感心しました。また、酒波寺は紹介しました石造美術もさることながら、ヒガンザクラの名所で、琵琶湖の眺望も素晴らしく静かで非常に雰囲気のある佇まいのお寺です。お薦めです、ハイ。