ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

ボストン日本人研究者交流会

2007年01月29日 | 日々の出来事

 以前、「Harvard 松下村塾」の記事の中で、様々な大学や図書館、研究所、美術館が所狭しとひしめくボストン(ケンブリッヂ)は町全体が刺激的な「知の集積地帯」であると書きましたが、一昨日(1月27日土曜日)に参加してきた「ボストン日本人研究者交流会」も、そんなボストンの町で活躍する様々な日本人が集う刺激的な場です。

 この交流会は、会員がそれぞれの専門分野についてプレゼンテーションを行う前半と、会員同士の交流を深める懇親会の二部構成で毎月一回開かれているのですが、何といってもその魅力は、様々な分野で活躍する研究者やビジネスマン、外交官や行政官、ジャーナリストなどなど多様な人材と出会えること。そして、久々に日本語で説明を聞き、議論できることォォ!!(失礼しました・・・)

 今回は残念ながらプレゼンテーションの前半しか参加できませんでしたが、非常に興味深いお話を伺うことできました。「医療ビジネスと医療マネジメント」のテーマでプレゼンをされた発表者の方は日本で内科医としてキャリアを持ちながらハーバードビジネススクールでMBAの取得を目指す異色の人物。そのキャリアパスが物語るように、彼の主たる問題意識は、「理想の医療を実現するために、医療の現場と医師の意識の中にマネジメントの概念を吹き込みたい」というもの。

 例えば大学病院で高額の医療機器を購入するようなケース。縦割りの研究室ごとに情報の共有がなされていないため、せっかくの機器が共有されずに「寝かされて」いたり、顧客(患者)が真に良質な医療を提供する病院を選択するために必要な情報が提供されていないなど、ご自身の実体験に基づき、鋭い切り口で現在の医療の問題点を提示していきます。

 では、「理想の医療」とは何なのか?「医療とは何のために存在するのか?」

 彼はこの深遠な問いかけに対して、横軸に時間を縦軸に死を設定された単純な右上がりの棒グラフを示しながら淡々と語ります。「医療の役割は治療と予防と健康増進。これら3つの機能を高いアクセス、質、安いコストで提供することを通じて、一人ひとりが健康な人生を少しでも長く送れることを追求する。これが医療の理想である」と。今日の発表者の方は、批判的に現状を分析しつつも、この理想の部分を極めて強固に自分の中で確立されているように思いました。自分の専門とする領域を愛し、であるからこそ厳しい目で客観的に見直し、理想の実現に向けて不断の努力を続ける、そんな姿勢が彼の淡々とした口調から伝わってきました。

 印象的であったのは、アクセス・質・コストの観点で見たときに、現在の日本の医療制度は国際的に見て決して見劣りしない、否、世界に誇るべきレベルを保っているということです。例えば、GDP比率に占める医療関係費用と国民の平均寿命を他の先進国と比較して見ても、(医療以外の様々な要因が考えられるとは言え、)日本は突出した質、つまり、低コストで高い成果を挙げているそうです。また、際限のない増大が喧伝されている医療費についても、国民皆保険制度を採用している日本の政府負担と、メディケア(高齢者向け)、メディケイド(低所得者向け)と一部の人々を対象とした医療保険しか持っていないアメリカの政府負担額は同程度とのこと。さらにアクセスの観点から見ても、加入する保険会社によって、かかることのできる病院が決まってしまうアメリカに対して、日本では私たちは、どの病院にでもかかることができます。

 これは医療分野に限定されたことではありませんが、日本国内での論調は、ややもすると自国の問題点ばかりを列挙して、他国(特にアメリカ)の制度等を過度に礼賛する傾向があるように思います。今日のお話は、世界に冠たる日本の医療制度の良い部分は残しつつ、課題とされる部分を「マネジメント」という“新風”を医療業界に吹き込むことで解決していこう、という極めて多角的で斬新なものでした。

 僕自身、この勉強会では今のところ「フリーライダー」状態で(会費は払いましたよ!)、プレゼンテーションをするまでには至っていませんが、これまで色々学ばせてもらったお礼もかねて、卒業までにはしっかりお返しをしたいと思っています。本日の発表者の方、そして日本人研究者交流会の幹事の方、ありがとうございました。そしてお疲れ様でした。

 最後に今日の発表者の方のブログを紹介します。題して「異業種文化交流日記~MD・MBAへの道」。「社会主義業界で育った者が資本主義至上の世界へ邂逅したときに体験するものは?」という何とも印象的なフレーズ。鋭い視点とユーモアあふれる文章が魅力です。


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