佐々木俊尚の「ITジャーナル」

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Winny裁判、弁護団が指摘しているポイント

2005-07-22 | Weblog
 Winnyを開発し、著作権法を侵害する意図を持って配布したとして逮捕、起訴された金子勇被告の公判が、京都地裁で進んでいる。

 これまでの裁判では検察側が多数の捜査官を出廷させ、証人尋問を行ってきた。金子被告の自宅での現場検証の際、捜査官が「君は2ちゃんねらーなのか?」と聞いたら金子被告が「ムッとし、プライドを傷つけられた様子だった」(捜査官証言から)という話は、以前「ASAHIパソコン」誌に書き、ウェブ媒体のアサヒコムにも転載された。

 6月には、Winnyでゲームや映画のファイルを違法に放流し、著作権侵害で有罪が確定した男性2人が出廷。さらに7月14日に行われた第13回公判では、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会の葛山博志氏が証人尋問を受けた。

 私は少し前に今後の弁護方針について聞こうと思い、弁護団にインタビュー取材を正式に申し込んだのだが、「裁判がまだ序盤なので、弁護方針が立てられる状況ではない」と断られてしまった。昨年秋に始まった公判はこれまでに13回も数えているが、年末いっぱいまでの公判期日もすでに決まっているから、結審するまでにはまだ相当の時間がかかりそうな雲行きなのである。やはりまだ「序盤」ということなのか。

 これまでの裁判を傍聴する限りでは、弁護団はおおむね次のようなポイントを指摘しているように見える。

 (1)Winnyの開発目的は著作権侵害ではなく、技術の進歩のためである

 弁護団は、弁論の中でこんなふうに言っていた。

 「検察側は、P2Pテクノロジに対する基本的な理解が欠如し、Winnyを著作権侵害のためのものと誤解しているのは明らかだ。今回の起訴は個人の思想に対する処罰を求めているようなものであり、しかもその思想に対しても歪曲して誤解している。思想で処罰しようというのは、ガリレオと同じではないか。技術の進歩は、止めようとしても止まるものではない。技術開発そのものを止めるのではなく、有効活用していく方法を考えるべきではないか」

 「金子被告がWinnyを著作権侵害の目的で開発したというのは、ステレオタイプ的な理解に過ぎない」


 (2)著作物かどうかを確認できるしくみが存在しないのに、著作物を放流できるというだけでWinnyを処罰するのは問題ではないか

 これも弁護団の発言。「違法な送受信を可能にしたのは事実だが、それはWinnyのせいではない。誰がコンテンツを作ったのかを確認できる仕組みがないからだ」

 (3)Winnyには違法ファイルを無視できる「無視機能」があり、合法的な利用も行えるようになっている

 無視機能というのは、無視キーワードを設定しておくと、そのキーワードを含むファイルをダウンロードしないですむというWinnyの機能のひとつである。この無視機能を使ってWinnyユーザーみんなが違法著作物をダウンロードしないように設定すれば、著作権侵害はなくなる可能性がある。だから必ずしもWinnyが著作権侵害を幇助しているとは言えないのではないか――というのが、弁護団の考えのようだ。しかし個人的な意見を言えば、実態としては無視機能を著作権保護の目的で使っていたユーザーはほとんど存在しないのではないか?

 (4)Winnyのどの部分が違法であり、あるいは著作権侵害の幇助になるのかについて、検察側はまったく説明していない

 弁護団が求釈明を何度も繰り返しているのは事実で、たしかに検察官はまったく答えていない。検察官の戦法は、ただひたすら事実関係の確認を進めるという方法のようだ。

 さらにもう一点、弁護側が警察や検察を激しく指弾しているポイントがある。このポイントについては、次回に続けたい。