矢島慎の詩

詩作をお楽しみください。

愛 の 淵

2005-04-12 12:15:24 | Weblog
想いが極まりの愛の底に堕ちれば、水晶のか
けらの研ぎ澄まされた言葉と、干からびた牛
の角が散らばり、足の裏に痛みに似た冷感が
走る

素肌を頭上の月光に晒し、今を映し今を感じ
、重力の軸を身体に通せば、光は言葉を水銀
の呪文にかえ、無機なる世界に漆黒な静寂を
射る

愛の谷底は限りない言葉の路頭、求める物は
七色の果実、触れ合うものは十年の光陰、温
もりは百年の時空をかけ、千年の炎の輝きを
刻む

誰もがこの崖を降り、一度は玉石を手中に掴
む、まるで月に導かれ谷の声を聞いたかのご
とく、愛の言葉が崖の底にこだまし、交錯し
語る

一瞬雲が月光を遮れば引力更に強く、遠く宇
宙の波動の響きを覚え、体内を重力波が行き
来し心拍を乱し、耳に神の声をも注入せんと
欲す

素肌とは体液を包む宇宙、精神の粒が体液を
通過するたび緑色の蛍光を発し、地面に片膝
を着け胸に手を合わせれば魂が身体から抜け
去る

愛は育む期間の永さにもまして、その想いの
無限の深さ、深遠なる谷の淵は至福の底に続
き、降り立つ行為が更に愛を引き寄せ、肉を
裂く

自由な筈の谷底はとてつもない不自由さに包
まれ、束縛が愛を増幅し自由の枯渇が引力を
極度に高揚させ、意識を希薄にさせ、開放を
得る

愛は言葉を超えた呪文の絡み、求め合うもの
は永遠の閃光、出会いは定めから始まり聖な
る水を浴び、時を分かち合う深まりは運命を
迷う

安住なる絶対と壁に手をかける飛翔が身体を
裂き、引き寄せる力は反発のエネルギーをう
み、風が嵐を誘い月光が稲妻を呼び、灼熱に
漂う

淵の壁は冷たく堅く、手に触れれば鉱石の永
、淵の感触は生命の瞬間、法則はいつも美
しく永遠は更に美しく、真理は鉱石の結晶を
生む

わが身を思えば不安は更に募り、安堵は望む
べくもなく、愛の対象に身を置けば、不安は
安らぎに形を変え、安堵の連鎖が身体にとり
着く

愛は微細胞の絡み、愛は供物の捧げ、愛は失
った世界を求める宇宙の遊泳、愛は液体に浮
かぶ愛しき増殖の喜び、愛は永遠を信じて、
泳ぐ

意図するものは満月の夜に、さ迷えるものは
新月の朝に、嘆き深きものは潤んだ午後に、
万年の束縛からその綱をほどき銀河に向かい
放つ

愛は求める者と与える者との葛藤、愛は憧れ
と悲しみとの交わり、愛は定めの川に遡上す
る精神の渇望、愛は流れに起こる渦の法則を
為す

瞬間の死は永遠の輝きを夢み、悠久の漂いは
ミクロの営みの胎動、右手から左手に渡す定
めのことわり、水中から丘への駆け上がりを
旅す