矢島慎の詩

詩作をお楽しみください。

有  罪

2005-04-11 12:46:09 | Weblog
彼女は自分のバッグに誤って口紅をつけた
ティッシュで拭うが僅かな染みとなり残った
私は染みをとってあげようと言った
彼女はいぶかしげにバッグを差し出す

バッグは彼女の元彼からの贈り物だった
喧嘩をして謝り、許してもらった後の余韻
口紅の染みはそれに似た想い出の余韻だった

想い出の余韻は自然に消えるに任せるべきもの
差し出したのはバッグではなく彼女の記憶だった
私は彼女から元彼の記憶を消したかったのだ

簡単に取れる、いや取ろうと思い薬品を使った
薬品は彼女の心の世界には馴染まなかった
液体はバッグの染みの周りを色落ちさせた
まるで彼女の想い出の周辺をも消し去ったようだ

呆然となった彼女だが微笑をまぶし私を許した
いや許したのは記憶を消そうとした私の動機だけ

想い出を消すのが罪になるとは気がつかなかった
心に立ち入る過信に戒めの罪状が突きつけられた

私たちの関係が終わりを迎えた後も
私のよこしまさに対する罰は今も執行中だ