――木立を背にして立つと、安地内村の西半分を見渡すことができた。
小麦畑が見え、役場が見え、先史資料館が見え、郵便局が見えた。
こんな小さな村に自分はやってきたのだ―― 本分111ページ
――なにかが省略されている。――
ずいぶん思いきったはじまりかただと桂子は思った―― 本分60ページ
郵便局勤めの撫養圭子と村はずれに住む寺富野和彦の恋はこうしてはじまる。
――低い太陽の光を受けて、きらきらと漂うようにダイヤモンドダストが流れていた。
桂子はその微小な光の粒のなか、和彦の家マデクルマを走らせた。
和彦の家も発電小屋もダイヤモンドダストに包まれている。――136ページ
降りしきる白い雪、吹きだまりの雪、汚れのない雪道の轍あと。
根雪に囲まれた家で聴く、和彦が集めた音のコレクション。
求めあうからだとこころ。
読み終えるのを惜しみながら終わりの頁をめくった。
2013年刊 新潮社 1400円