ばあばの読書記録

自分の本は読み返せますが、借りて読んだ本はすぐに忘れるので、
借りた本に限定した自分のためだけの備考碌です。

「沈むフランシス」 松家任之

2014年05月23日 | 

――木立を背にして立つと、安地内村の西半分を見渡すことができた。

小麦畑が見え、役場が見え、先史資料館が見え、郵便局が見えた。

こんな小さな村に自分はやってきたのだ―― 本分111ページ

 

 ――なにかが省略されている。――

ずいぶん思いきったはじまりかただと桂子は思った―― 本分60ページ

 郵便局勤めの撫養圭子と村はずれに住む寺富野和彦の恋はこうしてはじまる。

 

――低い太陽の光を受けて、きらきらと漂うようにダイヤモンドダストが流れていた。

桂子はその微小な光の粒のなか、和彦の家マデクルマを走らせた。

和彦の家も発電小屋もダイヤモンドダストに包まれている。――136ページ

 

 降りしきる白い雪、吹きだまりの雪、汚れのない雪道の轍あと。

根雪に囲まれた家で聴く、和彦が集めた音のコレクション。

求めあうからだとこころ。

 読み終えるのを惜しみながら終わりの頁をめくった。

 

    2013年刊   新潮社  1400円

 

 


「貝塚少年保養所」 南川泰三

2014年05月18日 | 

 

 昭和25年、日本人の死因は結核がトップだった。

当時、小学校、中学校の授業を受けながら療養する治療所が

少年保養院であった。

両親のもとを離れ、病気と闘う少年、少女たちの

健気さや希望、恋を描いた自分史である。

ビリヤードを経営する少年の母は、もとは父の妾であり、

本妻と別れての結婚である。

気位の高い祖母、働かぬ父、一家を支えたのは母である。

現在、放送作家であり脚本家でもある著者が、

貝塚少年保養所の廃墟に立った、

少年の日の回想の記である。

今も結核は世界的に蔓延し、決して過去の病気ではない。

2013年刊    作品社    1600円


憲法9条

2014年05月16日 | 新聞

尊敬する中村哲氏の憲法への思いに共感します。

「9条は数百万人の日本人が血を流し、犠牲になって得た大いなる日本の遺産です。

大切にしないと、亡くなった人たちが浮かばれません」


「火山のふもとで」 松家仁之(まさし)

2014年05月14日 | 

        

村井設計事務所の軽井沢の別荘、夏の家。

鳥のさえずり、四季の木々の色合い、暖炉の薪の色が

細やかな筆致で描かれる。

建築史に名をはせる村井俊輔(吉村順三がモデルか)の事務所に入った

ぼく(坂西)と麻里子の恋。

先生には近くの別荘に藤沢衣子という恋人。

野上弥生子がモデルと思える野宮春枝。

それぞれの人間模様が

「国立現代図書館」のコンペに向かう過程と

先生の死を迎えるまでに織りなす味わい深い作品。

ぼくが雪子と結婚する結末は

読者にとっては思いがけない展開。

恋人である先生の死に、

「藤沢さんは、通夜にも告別式にも姿を現さなかった」

という一行が切ない。

 

 2012年刊   新潮社   1900円