
結果こそ4勝1敗だったが、ワールドシリーズを制したフィリーズと、初優勝に届かなかったレイズの実力差は「紙一重」だったと思う。両者の明暗を分けたのは「経験の差」で、選手の平均年齢やメジャーでのキャリアに加え、昨年初戦で敗退したとはいえ、プレーオフを経験していたフィリーズに一日の長があった。
レイズの勝ち越し点を阻んだチェイス・アトリーの本塁への転送と、前進守備の位置からテキサスリーガーズヒットの打球に追いつけなかった岩村明憲のプレーはその象徴だった。第4戦で2失策した際も、アメリカのメディアの反応が「あの岩村が“まさか”のミス」という論調だったことからもわかるように、コンバート1年目ながら、岩村の二塁守備はア・リーグでもトップクラスのレベルだった。ただ、短期決戦のポストシーズンでは、プレーのひとつひとつが占める重みが公式戦とは違ってくる。セカンドベースマンとしてのキャリアが長いアトリーが、その分、岩村よりも守りについている時の視野が広く、本塁に転送してランナーの得点を防ぐ瞬時の判断ができたのに対し、岩村はほんの一瞬だが守備位置から打球の落下点への到達が遅れた。
もしレイズの本拠地トロピカーナフィールドならば、内野の芝部分が人工芝でスタート時に踏ん張りが利く分、あの小飛球に追いつけたかもしれない。しかしフィリーズの本拠地シチズンズバンクパークは天然芝で、しかも2日続きの雨天でフィールドは水分を含んでいただろうから、その点も岩村には不運だった。
チャーリー・マニュエルとジョー・マドン両監督の采配、選手たちの実力もほとんど「紙一重」だったから、このシリーズは面白かった。「格差解消」がワールドシリーズ、あるいは公式戦にさかのぼっても、試合をどれだけ面白いものにするか、MLBの2008年は改めて実感させてくれるシーズンとなった。
同時に、「戦力の均衡化」を追求し続けてきたMLBのシステムと、フィリーズのパット・ギリックGM、レイズのアンドリュー・フリードマン副社長に代表される「プロのフロント」が、長年ドアマットの地位に甘んじてきた両チームを今年の躍進に導いたことも強調しておきたい。
日本プロ野球組織(NPB)はメジャー挑戦を指名した田沢純一投手への「報復」、2年後にドラフト指名対象となる斎藤佑樹投手(早大)の「囲い込み」としか思えない「海外プロ球団契約アマ選手の一定期間締め出し」などという、了見の狭い制度を考えるよりも、マネしようと思えばすぐにできるMLBの優れたシステムやスタイル(悪い点も含めて何もかも真似しろと言っているわけではない)を取り入れられないものだろうか。マニュエル監督だってずいぶん「ジャパニーズ・スタイル」を取り入れて頂点にたどり着いたのだから。
また、その気になれば、現在開催中の日本シリーズで取り入れられる光景をワールドシリーズの表彰セレモニーで見ることができた。リーグ優勝やワールドシリーズ制覇が決まったあと、バド・セリグ・コミッショナーがフィリーズの球団首脳とマニュエル監督にフィールドで優勝トロフィーを贈呈したあと、フィリーズの筆頭オーナーであるデイビッド・モンゴメリー氏は、スタンドとテレビで観戦していたファンに心からの感謝を述べていた。アメリカの四大プロスポーツのオーナーには全米屈指の大富豪が名を連ねているのだが、そうした高い社会的地位にある人が謙虚にファンへ感謝のメッセージを口にするシーンには胸を打たれる。
球場の貴賓席で「御前試合」を気取っていたり(なんだかスゴい勲章をもらったあのオッサンは、東京ドームで選手や観客に見せびらかすんじゃないの=笑)、球場にもろくに足を運ばないオーナーも多い日本のプロ野球に比べて、メジャーのオーナーやGMはスタンドでファンと同じ目線で選手の一挙手一投足を見守っている光景をよく目にするが、せめて日本シリーズの表彰セレモニーでは、読売ジャイアンツか埼玉西武ライオンズのオーナーが同じようにファンへの感謝を直接伝えてみることはできないのだろうか。
優勝パレードのあと、田口壮のフィリーズ退団が決まったが、正直なところ、前年まで所属していたカージナルスとの「家風」があまりにも対照的で、彼の居場所があるかどうかが心配だった。出場機会が限定されても、野球人としての田口には得るところが大きかったのは何よりだが、できれば来季はインディアンスやロイヤルズなど、彼の持ち味を発揮できるチームでプレーしてほしい。
10月は仕事で多忙を極めたため、更新がすっかり滞ってしまったが、シーズンオフはベースボールを愛する人たちのために、できるだけこまめにエントリーするよう心がけてまいりますので、よろしくご愛顧のほど、お願い申し上げます。
![]() |
何苦楚日記 田口 壮,唐澤 和也 主婦と生活社 このアイテムの詳細を見る |
![]() |
タグバナ。 田口 壮 世界文化社 このアイテムの詳細を見る |

