トマトが苦いというクレームも多いそうです。トマトの有害(?)成分というと、アルカロイドであるトマチンが浮かびますが、はたしてトマチンだけで苦味の説明ができるのか疑問を感じます。トマチンは熟していない果実には多いのですが、普通食べるような熟したトマトにはごく微量しか含まれません。現在の栽培品種ではトマチンが多くて苦いという話は聞いたことがありません。
兵庫県立健康環境科学センター年報(2号、2003年)の記載をご紹介します。苦いという苦情を受けて、トマトの農薬分析したところ、農薬ではなく、マイコトキシンであるトリコテシンが検出されたそうです。そして、このトマトからバラ色カビ病の原因菌であるTrichothecium roseumが検出され、この菌がトリコテシンを先生することも確認されました。トリコテシンは5mg/L以上の濃度で苦味を示すことが知られており、問題の果実には47mg/kgのトリコテシンが検出されたことから、著者らはバラ色カビ病菌が産生したトリコテシンが苦味の原因であると推定しています。
ニガウリの苦味のように常に苦いものについては研究しやすいのですが、トマトの苦味のように、ごくたまにしか表れないものについては、原因物質の解明は非常に難しいものと思えます。そうした中で、苦味の原因を明らかにした非常にクレバーな研究成果だと考えます。
トマトの苦味が常にトリコテシンによるものかどうかは不明です。ただ、カビによる場合があることが頭の片隅にあれば、破壊して化学分析する前に、顕微鏡観察することによって、可能性のひとつがチェックできるはずです。