野菜に関する怪情報を探る

テレビや書籍、ホームページなどから、野菜に関する記載について疑問に感じたことを綴るつもりです。

トマトの苦味

2008-10-25 16:15:09 | Weblog
 最近、経済ニユースとともに日替わりで食品への異物混入がメディアで騒がれております。各企業の品質管理担当の方も、気の抜けない毎日かと思います。
 トマトが苦いというクレームも多いそうです。トマトの有害(?)成分というと、アルカロイドであるトマチンが浮かびますが、はたしてトマチンだけで苦味の説明ができるのか疑問を感じます。トマチンは熟していない果実には多いのですが、普通食べるような熟したトマトにはごく微量しか含まれません。現在の栽培品種ではトマチンが多くて苦いという話は聞いたことがありません。
 兵庫県立健康環境科学センター年報(2号、2003年)の記載をご紹介します。苦いという苦情を受けて、トマトの農薬分析したところ、農薬ではなく、マイコトキシンであるトリコテシンが検出されたそうです。そして、このトマトからバラ色カビ病の原因菌であるTrichothecium roseumが検出され、この菌がトリコテシンを先生することも確認されました。トリコテシンは5mg/L以上の濃度で苦味を示すことが知られており、問題の果実には47mg/kgのトリコテシンが検出されたことから、著者らはバラ色カビ病菌が産生したトリコテシンが苦味の原因であると推定しています。
 ニガウリの苦味のように常に苦いものについては研究しやすいのですが、トマトの苦味のように、ごくたまにしか表れないものについては、原因物質の解明は非常に難しいものと思えます。そうした中で、苦味の原因を明らかにした非常にクレバーな研究成果だと考えます。
 トマトの苦味が常にトリコテシンによるものかどうかは不明です。ただ、カビによる場合があることが頭の片隅にあれば、破壊して化学分析する前に、顕微鏡観察することによって、可能性のひとつがチェックできるはずです。

誤解だらけの「危ない話」

2008-10-19 12:46:22 | Weblog
 「食の安全に関して言えば、いまほど安全な時代はないであろう。にもかかわらず、市民の7~8割は食の安全に関して「不安」だと答える。」この本(誤解だらけの危ない話)の冒頭にはこう記されています。著者は、小島正美氏、新聞社の編集委員です。
 よく書いていただけたと感激ものです。マスメディアの側にいる方から、食品に関するメディア報道の行き過ぎを指摘されています。ダイオキシン、狂牛病、食品添加物、残留農薬よりも、喫煙、肥満などのリスクが高いとし、食の安心にさく金があれば、福祉に回せと主張されています。何故、メディアが食のリスクを過度に取り上げるのか、内側から解説した良書だと思います。発行所:エネルギーフォーラム。

シトルリンの利尿効果

2008-10-18 15:31:20 | Weblog

 食品開発展を見て参りました。健康に関わるような食品・食品素材について、多くのメーカーから出展されておりました。シトルリンのブースに立ち寄り、お話をうかがって参りました。シトルリンは、スイカに多く含まれるアミノ酸であり、人体では尿素サイクルを構成するアミノ酸でもあります。 お話によると、シトルリンは体内でNO(一酸化窒素)を産生し、これが血管拡張効果があるので、体のめぐりをよくするそうです。寝る前にシトルリンを飲んでもらった場合と、偽薬を飲んでもらった場合とで、健康効果を比較したデータが示されていました。(詳細はシトルリン代謝向上研究会のホームページをご覧ください。)ここで一つの疑問が浮かびます。ネット上では、シトルリンはスイカの利尿促進成分とされます。被験者が飲んだシトルリンの量は、スイカでは摂れないくらい多量でなかったかと記憶します。もしネット情報が正しいなら、被験者はオネショしたとか、夜トイレに何度も起きたとか報告するはずです。研究員の方によると、そのような話はでなかったとのことです。 シトルリンは尿素を生合成するうえでは、必要な成分です。尿素は尿として排出されます。しかしながら、シトルリンに利尿作用があるという文献もみつかりませんし、メーカーの実験でもそういった結果は出ていないようです。スイカの利尿作用はシトルリンによるものだと、本やネット上に記載されていますが、これも都市伝説のようです。

10月25日追記 協和発酵の資料によると、スイカの実には100g中180mgのシトルリンを含むそうです。ボランティア試験においては、1日800mgのシトルリンを寝る前にとってもらったとのこと。スイカ400g以上に相当します。Food Stlle 21 2008年5月号によれば、シトルリン摂取により「冷え性の改善効果が観察された」と記載されていますが、「夜尿症になった」との記載はありません。


イチゴで虫歯予防??

2008-10-05 15:12:30 | Weblog
 信頼性が高いと思われる政府系機関のホームページを見ていると、歯を磨く前にイチゴを食べたら虫歯予防効果が上がるように書かれています。その根拠は、イチゴには虫歯予防効果のあるキシリトールが含まれるからとか。イチゴにどの程度キシリトールが含まれるのか、medlineでざっと調べただけでは出てきませんでした。仮にイチゴにキシリトールが含まれるとしても100g中1g以下でしょう。これに対して、イチゴには、虫歯の原因になるショ糖、ブドウ糖、果糖が100g中グラム単位で含まれます。さらに、クエン酸も含まれ酸性を示します。イチゴを口の中にずっと入れておくと、虫歯を作るにはむしろ活動に好適な環境になるのではないかと考えます。
 キシリトールは、虫歯菌の作用で酸を作らないから、虫歯を防ぐ効果があるとされます。甘味料として他の糖の代わりにキシリトールを使えば、そういった効果は期待できるのかもしれません。しかしながら、ショ糖など酸を作る糖がキシリトールより何倍も多いイチゴの場合には、キシリトールの効果は期待できないはずです。
 食材に何かの効果を期待するのであれば、単一成分に着目するだけではダメであり、含まれる他の成分も考えないと、とんでもない結論を導く可能性があります。
 この珍説が広まらないことを願います。 

曲がりネギのおいしさ

2008-10-05 08:54:34 | Weblog
 今朝の番組で仙台の余目ネギの紹介がなされていました。タネは今時珍しい自家採取で、一度引き抜いたネギを寝かせて植え直し、白い部分を曲げて育てたネギとのことです。伝統野菜を育てる農家の方に優しい目を注ぐよい企画だったと感じました。
 以前、番組担当者から、曲がりネギは何故おいしいのかと質問いただきました。「食ったこともないもののおいしさなど、コメントできない。」と返答させていただきました。番組でも、「おいしさ」についての表現が少なかったように思えます。曲がりネギというのは非常にローカルな流通をしており、出張に行った時に、仙台のデパ地下でみかけたことはあります。ビジネスホテルに鍋釜があるわけではなく、食べたことはありません。
 それでは、目の前に曲がりネギがあったとして、そのおいしさを解析し、その要因を推定できるかといわれれば、「難しい」ですね。現在、一般的なネギのおいしさについての研究レベルでは、糖含量が甘さに関係するとか、筋っぽさをどうやって数値化するか程度の成果しかありません。園芸学会でワケギとネギの違いを理化学的に解析しようとした発表がありましたが、うまくいっているという印象は得ておりません。このような理由で、仮に曲がりネギがあったとしても、どういう特性を一般のネギと比較すればよいのか、不明です。また、冒頭に書きましたように、余目ネギは自家採取だそうです。すなわちAさんのネギとBさんのネギは、遺伝的に異なっているはずです。Aさんのネギで得られた理化学的特性がBさんのネギにあてはまるか、微妙なところです。
 それでも仮に、曲がりネギがおいしいというデータが得られたとします。その場合は、まず、その要因が「氏」にあるのか「育ち」にあるのか解析する必要があります。一般のネギ品種と余目の曲がりネギとは「品種(氏)」が違うので、味が異なる可能性もあります。あるいは「曲げる」という栽培法(育ち)がおいしさに重要かもしれません。ホームページには曲がるときのストレスがおいしくするのだと書いていますが、学術的な裏付けはありません。横にされたストレスが大事なのか、一度引き抜かれたことによるストレスが大事なのか、それとも、土壌や地温など環境要因が重要なのか実験的に試す必要があります。
 余目の曲がりネギのおいしさはどこから来るのかというきわめて素朴な質問ですが、これに答えようとすると、博士論文が書ける程度の研究が必要と思います。