僕は銀杏の木 １

僕は銀杏の木。
東京の明治神宮外苑の南の端に立っています。
大勢の仲間たちも一緒です。
人は僕たちのことを「神宮外苑のイチョウ並木」と呼びます。
僕が黄金色の葉をつける頃には、だれもが皆、優しい笑顔で僕に会いに来てくれます。

僕がこの場所で、この国に生きる人々の姿を見守り続けて１００年以上が経ちますが、振り返ってみると苦難の時代もありました。
「戦争」が人々の暮らしに暗い影を落としていた時代です。
蝉時雨の降る中、最愛の息子を戦場で亡くした母親が、僕の足元にしゃがみ込み、涙を流していました。
あれから７０年たった今も、彼女の深い悲しみを思うと、胸が締め付けられます。
もう二度とあんな時代には戻りたくありません。
何があっても、若者に武器を持たせるような愚かなことをしてはなりません。

このイチョウ並木に、とびっきり明るい笑顔が戻ってきたのは、１９６４年、東京オリンピックの年です。
すぐ近くの国立競技場で、秋の澄んだ青空の下、華やかに開会式が行われました。
世界各国から集まった選手団を迎える大歓声と拍手の渦。
僕はこの場所で思い切り背伸びをして、その様子を眺めていました。
やがて聖火台に火が灯され、スタジアムを包み込む熱気と興奮が最高潮に達します。
その瞬間、心が震えました。
「オリンピックってすごい！」

２０２０年のオリンピックが再びこの東京で開催されると決まった日。
僕は仲間とともに喜び合いました。
「またあの感動を味わうことができる！」

でも何だかちょっと不安。
新国立競技場、大丈夫なのかな…。