竹村英明の「あきらめない!」

人生たくさんの失敗をしてきた私ですが、そこから得た教訓は「あせらず、あわてず、あきらめず」でした。

福島原発事故が生み出した放射線被曝地帯

2011年04月23日 | 原発
4月に入ってから東日本大震災と福島原発震災への対応で、なにやら急激に忙しくなってしまいました。新年には毎週1本はブログを書くぞとこころに決めたのに、また2週間以上あけてしまいました。

さて表題は、この原発事故による放射線被曝の問題です。私は被曝問題の専門家ではなく、しかも被曝の捉え方は非常に難しいので、できれば触れたくなかったのですが、事故以後、政府はどんどん被曝基準を緩め、その問題点を国民に知らせることもしていません。みずからの「安全です」宣言を後追いするように基準を変えて、「ほら基準はこうです・・」見たいなやり方をしています。

その極めつけが4月19日に発表された、「福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方」です。その背景には、高い空間放射線量が日常的になってしまった福島市や郡山市など、原発から40キロも50キロも離れた都市で被曝量が尋常ではなくなった・・という問題があります。

とくに子供たちです。育ち盛りの子供たちの放射線への感受性は、大人の10倍ももあります。政府が従来の基準に基づき、この地域では「少なくとも」子供は生活してはいけないとの判断を出せば、学校閉鎖、学童疎開などの措置が一斉にとられることになります。この問題に気づいていた子供の父母たちは、明確にそれを望んでいました。
ところが政府の指示は、大人と同じように年間20ミリシーベルトまで許容せよというものだったのです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/04/1305174.htm

文部科学省通達の問題点

この指示は、政府の原子力災害対策本部で作られ、原子力安全委員会の助言を受け、そして文部科学省から各自治体の教育機関にむけて発せられています。厚生労働省もかかわっていますが、そのどのセクションも「子供たちを被曝から守ろう」という意志が働いていないというのが驚きです。

3月11日に福島原発震災が起きるまで、放射線の年間被曝限度は年間1ミリシーベルトでした。それを3月21日に緊急時の措置として20ミリシーベルトに引き上げたのです。このとき、子供たちは別という区分けをしませんでした。今回は、その基準を機械的に踏襲し、学校の中でも20ミリシーベルトと簡単に結論してしまいました。放射線量が高くなっている地域の子供たちに、他地域の子供たちの20倍まで放射線を浴びさせると政府は決めた、ということです。放射線についての基礎知識が本当にあるのか疑問になります。

これについて4月21日に、市民団体と文部科学省と原子力安全委員会の事務方が交渉をしています。
その様子は、下記のアワープラネットテレビから見ることができます。
http://www.ourplanet-tv.org/

端的にまとめると、交渉に出てきた若い担当者たちは、放射線の専門家でもなく知識もない、これまでの法規制の内容も知らないということです。
これだけの重大事態に政府は専門的な検討もせず機械的に「子供たちを被曝させる」という決定を下したのではないかと思われるのです。

ALARAの原則

放射線被曝でも「合理的に達成可能な範囲でできる限り低く」被曝を抑えるというALARAの原則を守ることが求められています。被曝についてはICRP(放射線防護委員会)という国際機関が被曝を防ぐためのルールを定めています。
まず放射線からの影響については「しきい値」がないということは世界の共通認識になっています。これ以上浴びたら危険だが、これ以下なら安全というラインはないということです。つまり本来の原則は「できる限り低く」です。

しかし「合理的に達成可能な範囲で」というのは、これを緩和する考え方です。どこが合理的なのか、これまでも長い議論が積み重ねられ、一般人は年間1ミリシーベルト、職業人はそれによって賃金などの利益を得るのだから50ミリシーベルトまでとされてきました。やむを得ず、ここまでは・・ということなのです。

私たちは日常的にも放射線を浴びています、宇宙から、花崗岩など地中から、そして食べ物から、平均的に2.4ミリシーベルトくらいを年間で浴びています。もう何万年も人類が誕生したときからのつきあいで、ある程度折り合いを着けながら私たちは生存してきました。

原爆や核実験でも放射能は放出され、チェルノブイリ原発事故でも、世界中の平均的な被爆線量が少しづつ上がってきています。でも1ミリシーベルトも上がっていません。今回はいきなりそれを20倍に引き上げようというのです。
避けることができないのなら、ALARAの原則に則って判断しましたとも言えるかも知れません。しかし、子供たちを学童疎開させたり、当面は学校閉鎖をするなどの措置が取れるのです。今回の措置は、ALARAの原則に立っても間違った指示であると言えます。

放射線と呼んでいるものの正体

放射線とは一体なんなのでしょうか?アルファ線、ベータ線、ガンマ線とそれぞれの呼び名や性質は知っていますが、本当のところ、どうして人間や生物に害があるのか、正確な説明ができないでいました。
いろんな資料を読んでみても、上記の知っているような説明しかない。そんな中で、私の蔵書の中ではただ一つ、瀬尾健(せおたけし)さんが書かれた『原発事故・・・その時、あなたは!』という本。まさに今日の状況を予言されている本で1995年に出版されています。瀬尾さんは1994年に亡くなられていて、この本はいわば遺書です。

amazonではまだ買えます。
http://www.amazon.co.jp/原発事故…その時、あなたは-瀬尾-健/dp/4833110385

この本の中で、原子とはそもそも何かがわかりやすく解説されています。原子の大きさは1億分の1センチ。つまり1センチ角の立方体の中には、1億の3乗(1兆の1兆倍)の原子がつまっています。原子は原子核と電子でできているとは中学校ぐらいで学びますが、そのイメージは直径100メートルの野球場の外周を電子が飛び、原子核はその中心にあり、これがビー玉くらいの大きさ。もちろん電子はもっと小さい。

つまり原子の姿はスカスカの空間だらけ。原子核はプラスの電気を持った陽子と電気的性質を持たない中性子で構成され、全体としてマイナスの電気を持った電子とバランスして成り立っている。人間の身体も鋼鉄も樹木も、みんなこういうスカスカが組み合わさってできているのです。
放射線とはこのバランスが崩れて発生します。カギは中性子。原子には陽子の数は同じで中性子の数が異なる「同位元素」というものが存在します。陽子と電子の数は同じだからバランスしているのですが、本来より中性子の数が多いと、中性子が電子を創って吐き出すというのです。ウームなぜ、と思いますが自然界の神秘としか言えません。

マイナスの電気を持つ電子を吐き出すと中性子はプラスになり陽子に変わる。そうなるといままでの原子とは別物になってしまいます。つまり違う物質に変わる、これを「崩壊」と呼ぶのです。
電子を吐き出すので、電子がものすごい勢いで原子の外に飛び出します。これがベータ線でその速度は時速6億キロ、光速の半分超もあります。ベータ線が飛び出すときに一緒にエネルギーの塊を放出します。これは物質ではなく光の仲間です。ただエネルギーが光の10万倍から100万倍にもなるために、まるで粒子のように振舞うのだそうです。これがガンマ線です。
比較的重たい原子核は安定するために陽子2個と中性子2個の塊を放出します。飛び出してくるのはヘリウムの原子核でアルファ線と呼ばれています。

20ミリシーベルトはどんな影響を及ぼすのか

今回の文部科学省指示で毎時3.8マイクロシーベルト以下というのは、空間線量の数値で、基本的にはガンマ線しか測っていません。ウランやプルトニウムなどの超ウラン元素の吸い込みよる体内被曝やセシウム137やストロンチウム90に汚染された食べ物による体内被曝は無視しています。空間線量だけで20ミリシーベルト以下になるような計算をしたら、実際には、はるかに高い線量を浴びることになります。

ガンマ線はエネルギー波なので電気的性質はありません。したがって陽子にも電子にも影響されず、どこまでも飛びます。身体の外から入ってきて、突き抜けて行きます。体内のいろんな原子に何かにぶち当たって吹き飛ばしてしまうこともあるでしょう。

テレビに出てくる放射線の専門家たちは、人間には修復能力があると説明します。放射線が突入してくることによって身体はいろいろな影響を受けます。低い放射線量であれば、その度に修復するので大丈夫ですよと。その低い放射線量のイメージが1秒間に1個の細胞を壊しても、すぐに修復・・的なイメージで語られます。

しかし1センチ角の空間には1兆の1兆倍の原子がつまっているのです。縦に一本突き抜けるだけで1億個の原子を突き抜けます。身長50センチの子供として下から上に1本のガンマ線だけで5兆個の原子を貫くことになります。
実際には20センチくらいで貫くもの53%、止まるもの47%と言います。止まるということは、何かにぶち当たったということです。
1シーベルトというのは、体重53kgの人がセシウム137のガンマ線を500兆個浴びたことになるそうです。1ミリシーベルトなら5000億個、20ミリシーベルトなら10兆個です。

つまり、とてつもない数の被曝が体内で進行しているのです。一度破壊されたら修復不能の遺伝子を傷つけることもあるでしょうし、体内にがん細胞をつくり出すこともあるでしょう。すべて修復できるという根拠はどこにもありません。

人シーベルトの考え方

被曝の影響は個人単位だけではなく集団線量で考えます。同じ20ミリシーベルトでも100人が受けるのと100万人が受けるのとでは、集団被爆線量は異なります。前者は2人シーベルト、後者は2万人シーベルトになります。放射線の影響をもっとも厳しく評価しているゴフマン博士によれば1万人シーベルトで4000人のがん死者が出ます。福島、郡山周辺に50万人としたら、4000人のがん死が発生するとの冷酷な数値となります。

したがって、これだけ大勢の人を、できる限り早く、放射線量の低いところに移動させるというのが、放射線防護の基本中の基本のはずです。これだけの原子力震災を想定して来なかったという歴史的経過も問題ですが、だからといって実際に目の前で被曝が進行しているのを、被曝基準を緩和してこと足れりとしているのは尋常な神経ではないと思います。
わからないのなら、政府は指揮系統から下りること、そしてもう一度白紙から、被曝を最小限度に抑えるには何からやるべきかを検討することだと思います。

飯舘村などのきわめて放射線量の高い地域は、1ヶ月以内にではなく直ちに移転地域を用意すること。自治体任せではなく、政府の責任においてやるべきです。秋田や山形など、地理的にも気候的にも近いところの自治体と具体的に詰めるべきです。
一人受け入れにつき100万円というような財政支援をしても1000人で10億円です。地方の市町村にとっては、大きな収入なのでは。

福島や郡山など中通りでは、まずは子供の疎開です。次に大人を順次移して行く。これは市まるごと移転などは無理なので、学区ごとなどの受け入れ先を探す。中通りの場合は、原発周辺とは違い数年で戻って来ることを前提にしたプランニングで良いと思います。

原発周辺の放射線量の極めて高い地域は、地域封鎖と完全な土地の買い上げ保証をするべきです。セシウム137の半減期30年を想定しても60年から100年は再び住めない。はやくそのことを明確に伝えるべきだと思います。
一時帰宅などもってのほかではないでしょうか?

深刻な事態であることを、あらためて正確に確認すべきです。


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