
このハワイ語に聞き覚えが有る方もおられると思います。特に去るNUA9月例会でIZ組による「ハワイ’78」の講義を受けた方はその歌詞の冒頭部分がこの言葉になっていることを思い出されたと思います。
これは資料に有るようにカメハメハ三世の発言に拠っていますが、1959年にハワイが米国第50番目の州に昇格した際にハワイ州のモットーとして正式に制定された言葉で、ハワイ州の紋章やハワイ州にちなんで発行された25セント硬貨(クォーター)にも表記されています。
昨日(2011年10月5日)にコアロハのパパことアルヴィン・オカミからこのモットーの刻まれたウクレレをプレゼントされました。それもなんと2台もなのです。
1台は以前から販売されていたパパのシグネチャーシリーズ「マスターピース・シリーズ」の第3弾である「Juke-a-lele」で
もう1台は日本の震災を援助するために発売した「Gamba-lele」
のプロトタイプ(試作品)で6弦テナー仕様です。試作品なのでこちらは「世界で一台だけ」という貴重なものです。
いずれも特殊な形状をしたテナー・サイズのウクレレで、まずJuke-a-leleの全身写真です。
そしてGamba-leleの試作品Gamba-lele/protoの全身写真です。
Juke-a-leleには二つのバリエーションがあり、いずれも本物のジュークボックス(中央)に似せて作られていますが、それのイメージが強く米国の懐古趣味者を対象としたもの(右)と、それ以外の愛好者向けのおとなしい?バージョン(左)が作られています。
そして今回プレゼントされたものはこの「おとなしいバージョン」のほうのJuke-a-leleですが、それでも十分に奇抜な外観を持っています。
今回の2台に共通なのはスプルースをトップに使用していることで、個人的にもコアよりスプルースが好みなので大変嬉しいです。そして特にJuke-a-leleはピアノのようにスプルースを積極的に振動版として使っているので大変大きな音がします。もともとコアロハの製品はブレーシングが少ないためか良く鳴るのですが、このモデルはひときわ大きな音が得られます。そしてスプルース板は装飾の一部としても使われてアクセントを出しています。
サウンドホールはジュークボックスの中をイメージした構造で、内部にはディスクが沢山描かれているシールが(ちょっと傾いて・・・涙)貼ってあります。
ネックとボディーの接合部には部品をひとつ設けてスムーズな接合を目指しているようです。ふつうのウクレレの場合、全体としては曲面をもっていてもこのネックとボディーの接合面は平面であることがほとんどで、両者の接合を容易にしているのですが、パパはここにもこだわりを持って設計しボディーが曲面のまま接合すべくこの部品を追加したものでしょう。ネックの端面を凹面に加工するより遥かに作業が容易になるアイディアにも脱帽です。(ところでこの写真をぼんやりと見ていると右側が凹んでみえることがあるのは不思議です。)
ブリッジにもJuke-a-leleと刻まれていて、弦の端末を溶かして玉のようにしてスルスルとほどけないような処理がされています。しかし反対側すなわち弦巻き側は普通にニッパー状のもので切断してありました。
コアロハは全モデルにフロロカーボン弦を張っていて、今回の2台ももちろんフロロカーボン弦を採用していますのでそれぞれの弦のゲージを実測したところ下記のような値が得られました。
1:0.0220"
2:0.0260"
3:0.0295"
4:0.0200"
フロロカーボンはナイロンに比べて密度が高い(比重が大きい)ためナイロンより細いゲージとなっています。このためコアロハのテナーKTM-00とスーパーコンサート(弦長はテナーと同じ)KCM-02にはフロロカーボンの0.0340"のローG弦が標準で張られていますが、このJuke-a-leleとテナーSceptreのKTS-07にはハイG弦が張られています。
一方、Gamba-lele/protoは量産品と違ってシガーボックス・ウクレレのような直方体のボディーを持つ6弦ウクレレですが、ほかにも4弦のプロトが作られていて同じ外形寸法を持っていると思われます。さらに、コアロハとしてはおそらく初めてと思われるバインディング(縁飾り)がトップ、バック両方に付くという力の入った作品です。
サウンド・ホールは日章旗をイメージしていますが、前に書きましたように旧日本海軍そして現海上自衛隊の艦旗のように見えてしまいます。
ブリッジにはGamba-leleと正しいローマ字が刻まれています。(よくGanba-leleと間違う人がいますので・・・)
こちらに張られている弦の端末も溶かして玉を作っています。
実測による各弦のゲージは
1H:0.0220"
1L:0.0295"
2:0.0260"
3L:0.0295"
3H:0.0180"
4:0.0240"
と、1H,2、3Hはそれぞれ上記Juke-a-leleの1~3弦のゲージと同じでした。・・・というかコアロハの4コース6弦正規モデルKT-06 「Imaikalani」と同じ構成になっています。なおImaikalaniとはオカミ家のママ(パット)が次男ポールに付けたハワイ名で「天からの贈り物」という意味を持っています。
弦巻きとしてはこのKTM-06および開発協力者ダニエル・ホーにちなんだ型名を持つ6弦ギタレレKTM-D6「D-VI」にも採用されている片側三連のギヤペグが使われています。
このGamba-lele/protoの特徴は裏面のレーザー彫刻にあります。
裏面はエアメールの封筒をイメージしたレイアウトになっていて
差出人の欄すなわちリターン・アドレスの部分には「A L O H A」の5文字をハワイ語にあてはめた単語が刻まれています。
すなわち
Akahai:上品な、静かな、
Lokahi(彫刻にはありませんが「o」の上に長音記号カハコーが付きます):一致して、同意して
`Olu`olu:さわやかな、思いやりの有る
Ha`aha`a:低い、卑下する
Ahonui:忍耐強い、我慢強い
そしてあて先欄には「皆から日本の人々にアロハ」とあります。
そして切手の部分にはハワイ国旗(ハワイ州旗)、消印にはコアロハのロゴと創立年の1995と刻まれています。
ちょうど私の誕生日に向けたコアロハ・パパの心づくし、それも2台ものプレゼントにただただ感激するばかりです。
さっそく翌週に開催された「ハワイシニアライフ協会」のパーティーでこのウクレレに込められたオカミ・ファミリーの日本への思いをご紹介いたしました。
これでウクレレ・スタンドなしで自立するウクレレが4台も揃いました。これは「MATTもどんどん歳をとっていくのだが誰の手も借りずに自立するように」とのコアロハ・パパのメッセージかもしれません。(汗)・・・なお、左端の真っ黒なウクレレは黒シャツを着用して弾くとウクレレが見えなくなる「ステルス・フリー」です。
今回の2台を実際に弾いてみて分かったのですが、両者ともに底のへこんでいる部分に腕がしっかりと収まるので、見た目よりも持ちやすいのです。単なるデザインではなく弾き手の立場も考えた設計になっていることに感激しました。ちなみにこの部分から12フレットのフレット線までの距離は両者とも291mmでした。これに対し標準のテナーKTM-00は331mm、凹みのあるデザインを持つKTS-07でも308mmと、いずれも30センチ以上あり、いかに今回の両モデルが弾きやすいかを表しています。
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私とコアロハとの接点は今から10年以上前にさかのぼります。
当時クラシック楽器用に開発された「ガット弦の代用品で大変丈夫な」ナイルガットという弦がウクレレに使えないかと思い、あらゆるゲージの弦を米国の代理店から沢山買い込み、いろいろなウクレレに張っては実験を繰り返していました。
プロの奏者や楽器メーカーにも配って反響を期待したのですが、ほとんどは「なしのつぶて」でした。
でもコアロハだけはマジメに検討してもらえたようでいろいろな組み合わせのゲージでのサンプルを何回も送って実験してもらっていました。
長期間の実験の末、コアロハとして採用寸前まで行ったのですが、米国の代理店がイタリーの本社の横槍で「契約書の製品範囲にウクレレ用の弦という記載が無い(当然それまでは存在しなかったのですから)」という無茶な理由でコアロハへの販売を許可されませんでした。
そして本社がコアロハに直に販売すると接近したそうですがいきさつを嫌ってナイルガット採用を断念したとのことでした。
いまでこそ「ウクレレ用の弦」として広く使われているアキーラ社のナイルガットにもそういった歴史があったことはほとんど誰もご存じ無いとは思いますが。
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余談ですが、このナイルガット弦は現在中国製のほとんどのウクレレに採用されています。これは「鳴りがあまりよくない楽器でも良く鳴ってくれる」というこの弦の特徴が受け入れられたのだと思います。従ってもともと良く鳴る楽器に張ると耳障りな高音が含まれてしまうことがあります。このことをもって「ナイルガットはダメ」と断定してサイトに書かれている演奏家もおられます。さらに楽器に張るとどんどん伸びてしまい、落ちつくのに時間が掛かること、そしてナイロンやフロロカーボンに比べると摩擦に弱いのでナットのエッジが鋭い形状をしている場合には弦を張ったすぐあとに断線することもあります。こういったナイルガットの性質を理解しないで「ダメ」と断定するのは使いかたを知らないということを自ら物語っているのだと思います。当然ですが世の中に「万能の弦」は存在しません。コアロハとマーチンがフロロカーボンを、コオラウがチタンコーティング弦を、そしてカニレアがナイルガットを採用しているのはそれぞれの楽器との相性をいろいろと確認していった結果ではないでしょうか。
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そのころコアロハにウクレレを「注文」したところ代金を受け取ってくれないばかりか皆さんのサイン入りでプレゼントされて大変感激をいたしました。
その後もコアロハ創業時にわずか300台しか作らなかったミニウクレレもプレゼントされました。このいきさつは私の「ウクレレ快読本」にも触れさせていただきました。
下の写真のウクレレはウクレレの友人おがわさんがUHの売店で購入したコアロハがミニウクレレから普通サイズに変更した当時のものと並べたもので、ヘッドストックの形状が同じであることが分かります。なお、おがわんはこのウクレレを「サイン帳」と呼んで演奏家のサインをもらうのに使っているとの事でした。
そのあとマスターピース・シリーズ2作目の「セプターSceptre」もピックアップ内蔵で頂きました。
特別に選んだ材料を使って何度も作り直してやっと完成したと聞いて頭が下がりました。
今回のJuke-A-LeleはSceptreに続くマスターピース・シリーズの第3作で、本来でしたら今年はシリーズ第4作が世に出る予定でしたが、日本の震災をうけて急遽Gamba-leleを開発したためにその開発は中断しています。
多分来年には陽の目をみることでしょうが、パパにお礼の電話をしたときに「MATTサンには次のもプレゼントするネ。」とのことでした。申し訳なく思いながらも期待することにいたします。
以下はこのブログを見た(読んだ・・・ではなく)パパからのメールです。
I just saw your blog with all of the beautiful pictures of KoAloha ukulele. Thank you so much for taking the time to create such a wonderful array of what you have in your KoAloha collection of ukulele. The pictures are so clear and crisp in every detail. I am sure that whoever looks at them will be so impressed and jealous that you have such a prized collection. I certainly will be contacting you as I come out with the next masterpiece. Ano tokiga kitara, mata onegai shimasu. Hope my Japanese is okay.
Alvin
Mahalo for your continued support,
Alvin & Pat
最後にマスターピース・シリーズ第1作のPineapple Sundayの写真(コアロハ・サイトから借用)を掲載しておきます。
コアロハ…本当に素晴らしいです。
そして何よりMATTさんが凄いです!
私、例のレイラニ以来、ウクレレが増えていませんが(ほかにどうしても欲しいウクレレというものが無かったので…)、この記事を読ませて頂いて、また、悪い病気が再発しそうです。
ナイルガットの話も感激です!まだ、マットさんに選んでいただいたセットで弾いています!
マットさんのお顔を拝見したら無性にお会いしたくなってしまいました。
何とか工面してハワイに行きたいなぁ。
RYUさんこそフロロカーボンの先駆者ではないですか!
ハワイに是非お出かけください。私の方は帰国する旅費すら捻出できませんが、なんとか今年同様来年も確定申告の時期に一時帰国をしたいものと思っております。
墨絵のようです。
MATTさんへの感謝がよく表れています。
ところで、Abe Kealaが作った冒頭のメロディは、どうやって作ったのでしょうね。
つぶやきから始まったのでしょうか。
本人は亡くなっているので、誕生した時を知っていると考えられるのは、作者Micky Ioaneでしょうか。
相変わらず、妙なことに関心を持ってしまいます。
Hawai`i'78のメロディーとコード進行は本当に不思議ですね。
コアロハの(というかパパの)作品はあちこちが興味深いです。
13Fジョイントには相当拘りを持っている様ですね。
Juke-a-leleのネック接合部にはちょっと考えましたが、「あ、そういうことー??」といった感想です。
もうひとつ、今更ながらある意味目から鱗なのが、スプルースの ごにょごにょ。
たしかにそうですよね、そうなんだよなあ・・・。
Juke-a-lele(というかパパ)、凄いですね。
Juke-a-leleの接合部も当然とはいえパパのアイディアが光っています。この小さな部品がないとネック端面を凹面にしなければいけませんので。
スプルースを「振動版」専用に使うというアイディアも素晴らしいですね。従来のウクレレでも当然トップ板は振動版の役割を持っているのですがこれほどまでに専用化させたのはすごいことです。従来の形状に拘っていては実現しなかったことです。
Gamba-lele/Protoはこのアイディアをトップ面全域に広げたもので、この結果とてつもない(!)音量で鳴ってくれます。
たぶん従来からあったシガーボックス・ウクレレをヒントにしたのでしょうが、シガーボックス・ウクレレはあくまでも既存の箱の再利用のため音そのものよりも奇抜な外観が特徴でした。
これに対しGamba-lele/Protoはトップ全面をスプルースにしたことでコアロハお得意の「良く鳴る楽器」の中でも最高峰の楽器になりました。
ただ、Gamba-leleの量産品は従来から持っている「型」を使う必要が有ったためか外観は普通のコアロハ・スタンダードと同じになり、トップこそスプルース(サイドとバックはコア)を使っていましたがこのプロトほどの音量は得られていません。
いずれにしてもほかのメーカーでは考えられないような奇抜な構造を考え、それを製品にまで仕立て上げるパパのアイディアには感服するばかりです。もちろん単に奇抜なデザインを持つ楽器ということでしたら他にもありますが、すべてを「音」に結びつけたアイディアを続々と出していく姿勢と出すことができる製造体勢にも感心いたします。
10年前当時にプレゼントされたウクレレのボディ裏の刻印メッセージ。実に貴重ですね。
Juke-a-leleはその特徴を生かして設計されたのでびっくりするような大きな音で鳴っています。
Gamba-lele/protoは6弦のうえにトップ全面がスプルースなのでさらに大きな音が得られます。
ただピックガードが無いので弾き傷には注意しないと・・・・・
相変わらず精力的に活動なさっていらっしゃるようで。
あの時は本当にお世話になりました。
そうでした「のぶぞう」でしたね。
東北沢駅前の飲み屋さん「のぶぞう」で飲もう!という私の提案はまだ生きてますよー。