MATTのひとりごと

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実は「ハワイのわらぶき小屋」も元はハワイアン音楽ではなかったのです! (2012年1月24日)

2012年01月24日 | ハワイ音楽の歴史

本日のテーマは「ハワイのわらぶき小屋My Little Grass Shack In Kealakekua, Hawaii」の元歌のご紹介なのです。

あの名著(自分で言うヤツが居るか!)「ハワイアン音楽快読本

ではリリウオカラニ女王

が女王に即位する前の王女時代に作曲した世界の名曲「アロハ・オエ」

についてのエピソードに触れました。
そのくだりをここに転記いたしますね。

・・・・・The Queen's Songbookによると

マウナヴィリからの帰途にリリウオカラニ王女からそのメロディーを聞かされた側近のチャールス・ウィルスンが「王女さま、そのメロディーはThe Rock Beside The Sea

に似通っていますね。」と言ったところ王女がそれを認めた、とあります。この曲はその25年前に米本土で作られたポピュラー曲なので、間違いなくハワイにも伝わっていたと思われますし、そのメロディーが無意識に出てきたということは十分考えられます。
そしてさらにその後もうひとつの曲
There’s Music In The Air

との類似性も指摘されるようになりました。

これらの楽譜を比較してみました。まずThe Rock Beside The Seaのメロディーを辿ってみると、最初の8小節がAloha Oeに酷似していることがわかります。
いっぽうThere’s Music In The Airの10,11小節めなどのメロディーもAloha Oe
の後半の部分に似てはいますが、私の考えでは偶然の類似に近いと思います。

と書いたのですが、ご自身のお祖父さんが真珠湾攻撃の際に米政府から抑留された、というハワイと少なからぬ縁をもつ浅海さんのブログ「布哇文庫」にもこのくだりの読後感が掲載されましたのでこれまた転載いたします。

・・・続いてアロハ・オエの元となったと言われる曲に話題が移ります。僕もこのうちの一曲を聴かせて頂いたことがあるのですが、いやはや、驚愕。似ているどころではありません。せっかちな僕は「そのままやんけ」なんて叫んでしまいましたっけ。以来、アロハ・オエの曲のイメージがちょっと変わってしまいました。(ただ、あの曲はあの詩との組み合わせで初めて名曲になるのであって、リリウオカラニ女王の功績と才能を否定する気持ちはありません)

「アロハ・オエ」は名曲だけあって曲の出自についての議論がいろいろと交わされています。「ハワイアン音楽快読本」でも触れた「クロアチアの音楽の剽窃」説もそのひとつですが、たとえ他の曲から無意識に転用したにせよリリウオカラニ女王ご自身が作られた名曲であることには異論をさしはさむ余地はないでしょう。

・・・と、ここまでがお馴染みの(汗)前振りで、これから本題に入ります。

最初にお聴き頂いた音楽は1924年にリリースされたポピュラー曲「ニュー・ジャージーのハッケンサックにに戻りたいBack In Hackensack, New Jersey/by A.L.Beiner & D.A.Russo」という曲で

演奏はthe Benson Orchestra of Chicagoというジャズバンドです。

現在販売されている下の写真のCDアルバムは1920年と1921年の演奏しか入っていないVol.1なので1924年4月に録音された目的の曲が入っていると思われるアルバム(Vol.2もしくはVol.3)を探したのですが残念ながら見当たりませんでした。(涙)

ただ、最初に聴いていただいたオーディオyoutubeでも聴くことができますので下記の歌詞を見ながらお聴きいただけたら幸いです。

I wanna go back to a black little shack back in Hackensack, New Jersey.
I wanna see all the pals and the gals that I used to know.

I'll see my baby brother playing around the kitchen floor.
I'll hear my mother saying, "Come on there, kiddy, Daddy's gonna be here pretty soon."

'Twill be soon, and the moon will be shining down on Jersey.
There never was a sweeter sight to see, take it from me.

I may be old-fashioned and a small-town boy,
But I know the meaning of the word called joy.

I'm going back to that little black shack back in Hackensack, New Jersey,
And let the world learn how to smile from me.

一方「ハワイのわらぶき小屋My Little Grass Shack in Kealakekua, Hawaii/by B.Cogswell, T. Harrison & J.Noble 1933」の楽譜(滅多に見受けないバース部もつけました)と

歌詞(バースは省略してあります)はこのようなものです。

I wanna go back to my little grass shack in Kealakekua, Hawai`i.I want to be with all the kanes and wahines that I used to know, so long ago.
I can hear the old guitars playing on the beach at Hônaunau. I can hear the old Hawaiians saying "Komo mai no kâua i ka hale welakahao."
It won't be long till my ship will be sailing back to Kona. A grand old place that's always fair to see, you're telling me.
I'm just a little Hawaiian a homesick island boy. I want to go back to my fish and poi.  
I want to go back to my little grass shack in Kealakekua, Hawai`i. Where the humuhumunukunukuâpua`a go swimming by.

メロディーも歌詞もお互いによく似ていますね。それもその筈、「ハワイのわらぶき小屋」は「ニュージャージーのハッケンサックに戻って」の替え歌なのです。

ハワイ音楽のバイブルとも言える「Hawaiian Music and Musicians/ edited by G.Kanahele 1979

およびウィキペディア(出典はHuapalaですが)によると1933年7月4日にハワイ島コナで開催されたカヌー・レースにやってきたメインランドの青年二人が当時メインランドで流行していた「ニュー・ジャージーのハッケンサックに戻って」に自分たちで考えたハワイ風の歌詞を付けて歌い、その後にもホノルルで歌ったそうです。
そしてこの曲の出版について当時の大作曲家ジョニー・ノーブルに相談した結果、歌詞はそのままでメロディーのみをジョニーが大幅に変えたものを出版することになりました。
この「My Little Grass Shack in Kealakekua(タイトルが長すぎる?のか最後の「Hawaii」が省略されています!)」というタイトルで出版された楽譜は

当時の大ヒットとなったのです。以前にも書きましたがその時代のの音楽産業はレコード(もちろんSP)よりも楽譜の売上の方が圧倒的に大きかったので、この曲はジョニー・ノーブルの代表作の一つと数えられることとなりました。
ただし私は個人的にはハワイ王朝のレレイオーホク王子の作った恋の歌「カーウア・イ・カ・フアフアイ」を勝手に改変し戦争の歌「タフワフワイ」にしてしまった上に王子の名前を「レレイオハク」と間違って共作者として登録した彼のやりかたは好きでは有りませんが・・・・。

以上のようにこの「ハワイのわらぶき小屋」も元はハワイアン音楽でなかった、という情報でした!
なお、この貴重なバイブル「Hawaiian Music And Musicians」は2007年に改訂版が発行される予定でしたが未だに登場していません、初版本で日本のハワイアン音楽の動向を担当しておられた早津敏彦氏が亡くなられたので私もそのごく一部ですが最新情報の修正等で微力ながらご協力させていただいたのですが、その間にどんどん日本だけでなく各地のミュージシャンが物故しているので修正が追いつかないのかもしれませんね・・・・。

[2012年11月3日追記] 改訂版はついに33年ぶりに発行されました。 

ほかにもティンパン・アレイの作品を「ハワイアン音楽」に含めたとしてもそれ以外にハワイアン音楽として作られたものではないハワイアン音楽はたくさんあります。たとえばわが国では「ハワイアン音楽」として扱われている「南国の夜」(メキシコ音楽)やIZの歌でもお馴染みの「アヒ・ベラ」(ロシアの音楽)そして賛美歌やクリスマスソングのハワイ語バージョンなど多数の「外国曲のハワイアン音楽への転用」や「ポピュラー音楽の替え歌で作られたハワイアン音楽」などもありますが、それらはまたいずれご紹介いたしますね。

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8 コメント

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実は・・・ (waka-chan)
2012-01-25 20:33:11
MATTさん、実は・・の書きだしで始まるブログ、思わず興味をそそられ楽しく読ませて頂きました!
ニュージャージーの方、ちょっと弾いてみましたが、やはりこれは、ハワイの藁ぶきの元になっただけに、両方一緒に弾いたり、掛け合いのようにアレンジしたら面白いだろうな、とか
ハワイアン音楽をハワイアンたらしめる要因って何だろうとか、思いました。
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なるほど (モリパパ)
2012-01-25 21:56:34
もし、ヒットすれば勝ちでやったとしたら、情けないですね。
素人なのでなんとも言えませんが、ハワイミュージックはビーマーさん、デニスカマカヒさん、ピータームーンさんから始まったような気がしています。(表記が違ったらごめんなさい。)
私にとって70年代、80年代の曲が魅力的です。
返信する
waka-chan (MATT)
2012-01-26 02:06:15
当初は「バリバリ」記事中ににまとめるつもりでしたが、参考音を聴いたら楽譜を書きたくなる等、どんどん内容が拡大していったため別記事として独立させた次第です。
そのためタイトルも似たような書き方にいたしましたが、それに「実は・・」を付け加えたのです。
「ハワイアン音楽の要因」ってひと言ではいえないのではないでしょうか。
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モリパパ (MATT)
2012-01-26 02:18:52
ジョニーの「作品」にはヒット狙いや他人の作品を買い取って自分の名前を付けたもの等もあるので好きになれません。
似たようなことをやったチャールスEキングは自分の名前は付けずにまとめて出版だけを行ったので問題ありません。
さらにハワイ・コールズの主宰者ウェーブリー・エドワーズは同様にして無名の作品を発掘しては自分の名前かペンネーム「ジョン・カラパナ」を付けて登録いたしました。
「プープー・ア・オ・エヴァ」を発掘し「パーリー・シェルズ」として登録した際にサビのメロディーの作曲を担当したレオン・ポーバーがこの曲のヒットに味を占め「タイニー・バブルズ」を「二匹目のドジョウ」としてつくり、これも大ヒットいたしました。でもこの曲には「ハワイ」に因む歌詞がないのですが立派に(!)ハワイアン音楽として存在しています。
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ご無沙汰ですm(__)m (manna)
2012-04-11 10:34:26
この動画
http://www.youtube.com/watch?v=zuedF_pSubA

蓄音機の美しさにみとれ…
イントロと感想がめちゃめちゃ長い…というか歌は脇役てきなのが、良く知りませんが、スウィングとかDowapとかJazz周辺的だなあと…こういうのも大好きです。
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おかげさまで (manna)
2012-04-11 20:10:48
こんばんわ(^^)
なかなか暖かくなりませんがいかがお過ごしでしょうか
ひさしぶりにブログを覗かせていただきました。
ウクレレは続けていますが、ハワイアン音楽を聴く事から
しばらくはなれてましたので
MATTさんのいろいろなハワイアン音楽の話に
心が癒されました。
また新しい本がつくれそうな感じですね(^^)

受験がおわりまして
やっと肩の荷がおりました…

MATTさんがいらっしゃるうちにハワイに行くのは
もうムリかもしれませんが
国内で
また機会がありましたらお目にかかりたく思います。

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mannaさん (MATT)
2012-04-12 01:21:46
ご紹介いただいたyoutubeは私の最初に載せた演奏と同じSPからのものと思われますが、私のほうがキーがCで演奏時間が2分42秒であるのに対しyoutubeのほうはキーがB♭で演奏時間が3分8秒とゆったりでしかもキーが低くなっています。
SPは78回転/分と規定されていますが(80回転/分というのもありましたが)再生時の回転速度がこれほど、すなわち12%も違うのはちょっと異常ですね。どちらがただしいのでしょうか????
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mannaさん(2) (MATT)
2012-04-12 01:26:11
ひさしぶりに6月3日の「神戸ウクレレ交流会」とその前日の「前夜祭」に参りますのでもしかするとお目にかかれるかもしれませんね。

それからその前夜祭当日の昼間に名古屋で途中下車して名古屋のハワイアン仲間と4時間ほどカニカピラを予定しております。
会場は納屋橋のレアレア・ハレです。
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