日々礼讃日日是好日!

まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

冬の夕暮れ Impressions

2019年01月24日 | 美術
 冬の晴れた空の澄んだ光りと冷えた空気の中、国道16号線を西に走り目的地へと向かう。市役所で所要を済ませ、久しぶりに郊外の「光と緑の美術館」へ行ってみようと思いたった。

 桜並木の大通りを正面にみえる大山方面にむかってしばらく走り、横山六丁目交差点を右折してやや下り坂を進む。左側に横山公園がみえてきたらその向かいの煉瓦とコンクリートで弧を描いた建物が目指す美術館だ。ネーミングがなんとも素敵で本当に?と疑ってしまうかもしれないが、住宅地にありながら正面が公園ということで視界が遮られることがなく、その名に恥じることのない佇まいは、開館してから今に至るまで変わらないのではないか。シャープなコンクリート壁面と深みのあるレンガの組み合わせ、三角に突き出た喫茶ルームのガラス窓の組み合わせが特徴的だ。
 駐車スペースから、くねったステップ通路を数段すすむと入口にあたる。二つある扉の間の大理石壁面に背中あわせで横になってうつむく姿勢のブロンズ女性裸体像が、二体取り付けられている。作者はわからないけれどこのアプローチの印象はなかなかのものだ。中に入ってみるとこじんまりとしてはいるが三室ある展示空間は、天井高が五メートル近くもあって、個人美術館のスケールとしては立派すぎるくらい。

 受付におかれていたパンフレットによると、オーナーは市内在住の不動産業を営むS氏である。1984年(平成6年.11.26)の開館とあるが、いかなる思いと経緯で開設に至ったのかはふれられていないのが少し残念だ。そのコレクションはというと、いずれも1900年代生れのほぼ同時代を生きた四人のイタリア現代美術作家作品が中心だ。その多くは単色の版画作品、数点の小彫刻、ゆったりとした展示がうれしい。ジャコモ・マンズーのやわらかな人物描写と色合い、エミリオ・グレコの女性の横たわった姿やときに男女が抱き合って愛撫する姿を素描している。重ねた黒い線が余白のなかで浮き上がってきて清楚でありながら艶めかしく、いっぺんで好きになった。受付前のコンクリート打ち放し壁面には、唯一の日本人作家(名前は覚えていない)大判版画作品が掲げられていた。モノクローム系の配色のせいか、好ましいくらいの控えめ加減が絶妙だった。

 展示室のすぐ隣にこじんまりとしたルームがあったので入ってみた。スタッフは五十代すぎの女性ふたりで、一見してセンスよく、アートの世界の雰囲気を漂わせている。入念にお手入れされた髪と肌に目鼻立ちがくっきり、すらりとした容姿なのだ。奥に席に座ろうとすると、こんどは金髪痩身の同輩女性の姿にびっくり、お客さんかと思ったらスタッフのようで、流暢な日本語を話しながらブラインドを下ろしてくれる。メニューはオーガニック、おいてあるチラシ類も気が利いている。そして壁にはクリムトの「抱擁」。
 そろそろと思って席をたち、ふたたび展示空間へと。この空間でもし版画に絞るなら、池田満寿夫や山本容子、それから田中陽子の作品をみてみたいものだと思う。谷川俊太郎と佐野洋子の詩画集「女に」や風景に絞ったモノクロ写真展示もすてきでいいな。植田正治やカート・マーカスはどうだろう? と、気分はすっかり、赤瀬川原平「個人美術館の愉しみ」の世界である。

 駐車場から見渡す建物全体をスマホカメラに収めて帰ろうとすると、先ほどの金髪女性がでてきて、気になっていた濃いグレーのマツダスポーツカーに近づくはないか。やっぱり、優雅なマダムライフを謳歌しているのだろうと勝手に想像は膨らむが、とにかく暮れる前に帰路につこう。そう思って走り出ししばらくするとすぐ後ろから低い車高のマツダカーが走ってくるのに気がついてびっくり、あのマダムの運転姿である。なんともセクシーでカッコ良すぎる!
 しばらく後ろについてきたので、ひょっとして同じ16号線を横浜方面かと思っていたら、多摩ナンバーのその車はやがて交差点を左折し、さっそう?と相模原駅方面へ去って行ったのだった。2019年冬、夕暮れのインプレッションズ!



 Light and Greenery Art Museum エントランス壁面ブロンズ像(2019.01.24)

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亥年初春小寒七草

2019年01月07日 | 日記
 平成三十年目の新年睦月、昨日の小寒はさすがに冷えこんで寒かったが、きょうは穏やかな日和がもどってくれた。すこし遅めの朝食は、家人がつくってくれた七草粥に、新潟村上市から取り寄せたトチモチをいれていただく。亥年は干支の最後、平成最後の初春にこうした平凡な正月を過ごせることに幸せを感じる。

 ふりかえると昨年大晦日の暮れは仕事で遅くなり、帰ったときにはNHK紅白も終盤あたりで、松田聖子のメドレーに間にあう。氷川きよしにつづいて、椎名林檎が着物姿でシュールな歌声を披露していた。
 そのあと、ユーミンがリクエストを募って歌っていたのは、デビュー曲の「ひこうき雲」(1973.10)と「やさしさにつつまれたなら」(1974.10 アルバム“ミスリム”から)。これは二曲ともなつかしの70年代前半、平成前の昭和時代のメロディーではないか。ほぼ同時代人としては、いたく共感!する。かわっての星野源でまったりとしたあと、話題の米津玄師の姿を初めて目にしてその歌声を聞いた。ゆずは、原点に返っての弾き語りだったし、石川さゆりの「天城越え」では、琵琶、筝、尺八の邦楽器と布袋寅泰のギターが共演してなんとも豪華だったなあ。トリの嵐のステージのバックには、ここ数年の災害地を訪れた映像が流れていた。もう嵐はアイドルの域を超えて、社会的な存在になっているなと思う。

 そしてラストは、サザンオールスターズの「希望の轍」(1990)、これって映画「稲村ジェーン」のなかの曲で、JR茅ヶ崎駅の発車メロディーとしても流されてる。つづく「勝手にシンドバッド」(1978)では、ユーミンとの予期せぬ?掛け声とダンスの共演で大盛り上がり、全出演者をバックにしたお祭り騒ぎ、桑田流大暴れエンターテナーぶりでおおいに楽しませてくれた。スカッとして、平成ラストのなんでもあり紅白にふさわしかったのではないだろうか。

 新しい年も元旦が仕事始め、初詣は三日の家族ぐるみの江島神社行き。この日も穏やかに晴れ渡っていた。片瀬江の島駅をでて境川を渡り、国道134号線地下道をくぐると弁天大橋へとつながる。右手相模湾のむこうに丹沢箱根の山々と冠雪を被った初富士が望める。山頂に白雲がかかっているけれどもひときわくっきりと。やっぱりこの風景を眺めると、旧年はあれこれあったけれど、ようやくいつもの新年をむかえることができたなあ、って思うのだ。
せまい参道両側にひしめくお店をひやかし、竜宮城のような門をくぐり、辺津宮、弁天堂、中津宮とすすんで上りきれば、頂上ひろばのあたり。いっそう富士の姿が迫ってくる感じで、パノラマ世界のように風景が転開していきあきることがない。
 少しアップダウンして奥津宮まで参ったあとは、いつもの江之島亭、窓際のお座敷でひと休みする。相模湾のむこうは弓状にのびる湘南海岸と街並み、そのむこうの蒼い幾重の山並み、そして富士山の秀麗としかいいようのない姿。いまの箱根駅伝復路はどのあたりだろうか、これぞニッポンといった変わることのない情景を目の前にして、一献を傾けるのはしみじみありがたいなあ。

 年々歳々日々是好日、いい歳にするさ、地に足つけて穏やかにいこう。


 弁天橋からの相模湾、湘南平、丹沢箱根富士(2019.01.03撮影)

 初春碧天空に河津桜一輪

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