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北海道の自然、そして子どもの育ちと虐待について

発見されていない性虐待-西澤哲講演会その1

2010-09-07 | 被虐待児の心理臨床家 西澤哲さん関連

先日、虐待問題に詳しい山梨県立大学の西澤哲(さとる)先生の講演会を聴く機会を得た。

虐待に関する様々な情報が満載で、多くの人に知ってもらいたい内容なので、メモと先生の著書を参考にしながら、何度かに分けて報告したい。また、興味をもたれた方には、ぜひ講談社現代新書から出ている西澤哲先生の『子どものトラウマ』や西澤哲先生が翻訳されたレノア・テア著『恐怖に凍てつく叫び』を、ぜひ読んでいただきたい。

 


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 虐待の問題が取り上げられていく時、どの国、どの地域でも、まず最初に身体的虐待が注目され、それからネグレクト(育児放棄)、性虐待、心理的虐待の順番で、社会に広まっていきます。日本は、まだ身体的虐待からネグレクトに関心が広がってきている状況でしょう。
 最初は、身体的虐待と比べて、ネグレクトは軽く見られがちでしたが、近年その心理的影響などがわかってきています。また、以前は、育児放棄されていても、「殴られるようりはまだまし」と思われ、「ネグレクトでは死なない」と考えられていましたが、実際には死亡事例の
40パーセントがネグレクトが原因だということもわかってきました。そのあたりに、地域やネットワークの果たして行く役割があるのではないかと思います。


 日本では、まだまだこれからの問題として性虐待があります。私の予測では、これから数年内に性虐待の件数が爆発的に増えていくだろうと考えています。なぜなら、欧米では全虐待の中の性虐待の占める件数が10~20パーセントであるのに対し、日本ではここ10年、公式統計約3パーセントにとどまっています。しかし、自分が臨床的に感じる割合は、やはり欧米なみの比率であり、日本の性虐待の割合が3パーセントというのは明らかに過小評価だろうと感じているからです。


 まだまだ、日本では「子どもが家庭内で性被害に遭っている」という事実を直視できていません。見ていないのです。

 虐待の事実は、被害児童は隠そうとしますが、性虐待の被害の場合、特に隠そうとする傾向があり、児童相談所が介入しても、なかなか本人から開示されないということが多くあります。性被害が本人から開示(告白)されるまでには、長い時間と信頼関係が必要なのです。

 特に気づかれていないのが、思春期前の性被害です。大人や社会の中に、「性被害を受けるとすれば、性的な成熟を迎える第二次性徴以降であろう」という無意識の通念があり、乳児や幼児の性被害を疑う眼をもっておらず、意識から遠ざけている面があります。
 例えば子どもが性虐待を受けたような特徴を見せたとしても、性被害と結びつかないということがおこる。「こんなちっちゃい子が性虐待を受けているはずがない。」という思いがじゃまをして、取りこぼしていることが多くあります。そういう面で、これから日本では性虐待が増えていくだろうと見ています。

 

 心理的虐待とは、身体的でも、ネグレクトでも、性虐待でもないもの。「ほんとは、お前は生むつもりはなかったんだ。」とか「欲しくてできた子じゃない。」「死んでくれたらよかった。」などとか、存在を否定するようなものです。

 また特殊な虐待として「乳児ゆさぶられ症候群」などがあります。泣き止まない乳児に保護者がキレた状態になり激しくゆさぶられることで、3040パーセントの子が死亡、残りの半分も重たい障がいが残るということが知られてきました。これは古くて新しい問題です。私が虐待問題の世界に入った30年前からすでに、「乳児時の原因不明の頭蓋内出血による障がい」という診断名を目にすることがありました。数年前からその中に「乳児ゆさぶられ症候群」の事例があるのではないかと、予防活動をしているところです。

 また、もうひとつ出てきた問題が、「代理者によるミュンヒハウゼン症候群」です。ミュンヒハウゼン症候群自体は、自分の身体に毒物薬物を投与して繰り返し病気になりたがるという精神疾患のひとつの状態像です。「代理者による」となると、主に母親が子どもに毒物薬物を与えて、かいがいしく世話をするというものです。「なぜそのようなことをするのか?」ということはまだ解明されていません。なぜなら、ミュンヒハウゼン症候群という精神疾患では“快復者”が、ほとんどいないからです。ただ、状態の分析から言えることは、「代理者によるミュンヒハウゼン症候群」のおかあさんは子どもが病んでいくほど、元気になる。その状態を見ると、「病気の子どもをかいがいしくお世話するおかあさん」と見られることで、なんとか安心して存在感を感じられるということがあるのだろうと推測されています。

 
今は日本では変わったタイプのネグレクト事例の発見が増加しています。ネグレクトとは、親や保護者が、自分のニーズを優先させる中で、子どもに必要な育児をしないということですが、近年例えば薬を使えば治療可能なアトピーを、漢方のみで治療して死に至らしめるとか、乳児に母乳を与えず豆乳を与えて死亡させるなど、今までの「子どもに関心がない」という「ネグレクト」とは少し違う形の事例が増加する傾向があります。

また、“家庭内餓死”の事例も増加していますが、家庭内で子どもが餓死していく過程を見ていられるという心理も、また従来の「ネグレクト」、自分の都合を優先するというものとは違ったもののように思います。


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