giotto34/Whale song  ―白い鯨のうた―

*詩はオリジナルです。
たずねてくれて、読んでくれて、
ありがとうございます。

詩113:風(my life)

2008年08月30日 | 
風(my life)


風が吹く

島の漁師の絞り焼けた身体にも
汗は滲まない

ぽぽぽぽと船の帰る音
浜には寄せる波は、面倒くさそうに

男が帰ったと
秋潮の風が吹く

生きるために生きる男が、
漁を終えて帰る

そんな男が朝飯を食らうとき

都会の男は目を覚まし
シャワーを浴びる

考えたくないことを
音のない静かな夜に考える性質なのだから
当然寝不足の頭で
朝食も欲しがらず、なんだか気持の悪い
夢を見たような、
飲みすぎたような、

余計なことをいっぱい背負いすぎて
下ろし方をまだ知らない

風は夕暮れ、陽が落ちた後に、
ビルの谷間からやってくるだろう
その風に吹かれるまで
一人にはなれない



風が吹く
僕の名前に、僕の身体に、僕の心に
秋は訪れ、夏は去った
幾度も知るその季節に僕はまた立っている
ここが、海なのか、都会なのか
次はあるのか、ないのか

本当は生きていくことが怖い

それでも
これが人生だと言ってしまう前に

あの時生まれた
赤ん坊の僕の為に
何かやることがあるのだろう


「whale song」




詩112:海賊を知らないピーターパン

2008年08月20日 | 
/海賊を知らないピーターパン

一番寂しいとき
一番悲しいときに
君のようになりたいと
今でも心の底から思う
そしてなぜだかそう思うとすぐに
簡単にじんわりと熱い涙で 
泣けてしまう僕です

例えば中学生のとき、
つまらなさそうなふりをして
僕は優等生を
無駄にくたくた鍋で煮詰めてしまったような
すっかり疲れてしまって
誰かが着せた制服なんか
クソ食らえ、大人の気持なんかわかってたまるか
なんて、校庭を眺めていたりなんかすると
大きな君の手は僕の額をぴしゃりと打ち、
意地悪に笑って逃げていく
とてもおかしそうに笑う君を
憎たらしく、にらみつけてみるのだけれど

ひょんと、教室の前に立ち
君は僕にだけ分かる
ものまね大会なんかを一人平気でやってみせては
誰も笑わない、
ただ僕だけを必死で笑わせようとするのだから
なんだか・・・

そっと心細そうに僕が振り返れば
君だけが僕を必ず見つける

一番寂しい僕を
一番悲しい出来事を
君だけがそっと慰めてくれた記憶

大人になってしまって僕は
君の居ない場所で生活をし、
それでも君を時々振り返る
まるで海賊を知らないピーターパン、君は笑う

「子どものまま死ぬって、永遠なのか?」

一番寂しいってこと
一番悲しいってこと
今では気づくことさえ出来なくなってしまった僕に
君はそっと微笑んでは
僕に涙を思い出させてくれる

君は僕の涙の隠れ場所をとてもよく知っている気がして
そんな深い慰めを、
僕は今もうけている

僕は泣き虫な海賊になって 君のその眼差しをこっそり盗んで
出来るだけたくさんの人に、泥棒の償いをしようと思う。


「whale song」