giotto34/Whale song  ―白い鯨のうた―

*詩はオリジナルです。
たずねてくれて、読んでくれて、
ありがとうございます。

詩58:彼

2007年05月25日 | 
 /彼


黒い目玉をお空に向けて
小さな私は、彼を探した

あの白い雲の上
ひょっこり顔を出すのでしょう?

シロツメクサを手のひらに乗せ、
編む母を真似る仕草も飽きて
小さな私はシロツメクサの
お花畑に寝転ぶ
空は青く、雲は固そうにモクモクと広がる

彼は
笑わずに、
怒らずに、
何もない顔で
きっと私を覗き込むのよ



彼は知らない
私がその日
酷く脅え、
その何もない顔で
ちょっとした悪戯も笑わずに
嘘やズルさも怒らずに、
ただ眺める
そんな彼が
もしも、ひょっこり現れて
私をみつけてしまったら・・・・・・・・


おかあさん、神様ってどこらへんにいるのかな



私は胸に手をあてる
ふくらみを未だ知らない胸と幼い手のひら
それもやがて柔らかなぬくもりを覚えた手と胸となり
私は神を未だ探すだろうか


彼は

ある日、
古き親友である彼女の胸の中にいました
楽しそうに笑い、喜びを伝える彼女は
私に今日も幸せだと告げたのです
彼は、彼女の胸の中から、そっと私を眺めていました。



そして彼は

ある日、あの人の胸の中にもいました
あの人は私の愛するものを酷く批判し、
できれば一緒に時間を過ごしたくないと言うのです
私も酷くあの人を憎み、
あの人といると、自信を失い、
自分の価値がとてもちっぽけなものに見え、
何故あの人はこんなにも、私を攻め、悲しくさせるのだ、と
胸が痛くて何度も泣きました
しかし、あの人の胸には
やはり、彼はしっかりと存在し、
私の目を眺めています
彼はそこにいるのです


彼は


すれ違う子どもの胸にもいました
無邪気に笑う声と共に


彼は


愚痴っても、愚痴っても
全然
楽にならない、といった
電車のつり革に体重を乗せてぐったりする
ある女性の胸中にもいることを知りました


彼は


罪を償えない
沈黙の人の胸の中にも
存在し、


彼は


死に向き合う
孤高の人の胸にも
しっかりと腰をかけ
共に今日の夜をむかえています



彼は
あなたの胸の中にいます

それは温かなものでした
すべて存在する姿で、
涙のような温かな神の胸を重ね


『whale song』




詩57:白い太陽

2007年05月19日 | 
 /白い太陽

あの日僕は
白い太陽と出会った

町のスーパーの入り口に立ち
見上げたら偶然



お買い得だったのは、
4つ切の食パンだった

少し苛立ちを覚えるくらいの
柔らかすぎる食パン

それを見下ろして、


  「あ、俺に似てるよね」


なんて、気安く話しかけるのは、
見上げた頭上に、
ぼんやり仕方なく現れた


その白い太陽


まるで海も山も知らない顔で
すっかり都会慣れしたその姿
グレーの薄いコートを上手く着こなすんだ


おいおい、
太陽って、そんなに煙っていていいのかい?



  「此処では誰もが同じ顔するものさ。」


曇り空
スーパーの入り口で
僕は白い太陽に出会ったんだ


『whale song』






 

詩56:未だ来ぬ梅雨と燕

2007年05月17日 | 
/未だ来ぬ梅雨と燕


 忙しく飛び回る燕の
屋根には雨音が鳴り始める

低い空を幾度と無く飛んだ燕の屋根
その下では
雛がぱっくり口を開ける

黄色い口を開けて
待っている

雨はリズムを保ち
燕の屋根をうつ
そして
今年の梅雨を呼ぶ


大きな母よ、来いと


アヤメが楽譜のようにならぶ、
紫陽花は色を未だ選べず、

じっと耐えている


山の緑はもくもくと膨れ上がり、
大きな森を生む
準備はできている

雨がやってくる
降り続く雨の日々

僕は傘をさす
まるでキノコのようにすくすく育つ姿で



燕は飛び回る
僕の目の前を忙しそうに

「いつからここに帰るときめたのさ?」

燕は必ず帰ってくる


『whale song』








詩55:花の姿

2007年05月13日 | 
/花の姿



咲く花の姿を見る人が
振り返るその顔で通り過ぎる、
行く白い雲の陰にかくれて
こっそり、心に香をしまいこんだ



咲く花の姿を見る人がいれば
散り去り行く
花の姿を見る人もいる
彩は去り、
それでも
心は奪われていたい


遥か


空には
雲が流れている
白い雲が
頭の上で流れる
散り去り行く花の香を知る人
指の先で
雲を追う



二度とは出会えない人かもしれない
そんなあなたに触れる人です わたしは


今だからめぐり合えた人かもしれない
そんなあなたに、
優しく、閉ざさず、触れる人です わたしは


過ごし訪れるこの町に
咲き はらはらと落ちてゆく
花の香が、花びらが
わたしの手のひらに触れて
午後の日差しを受ける
花の姿

遥か


『whale song』






詩54:夢

2007年05月08日 | 
/夢

遠く離れた 白い月の真ん中を狙って、
僕は履き古しの靴を投げる

黒い闇に隠れて消えた 僕の
温かな夢は、身を柔らかによじり、
月からはぐれて 微笑む
まるで、覚えたての笑顔、生きる目印


聞こえないふりを
もうどれくらいやってきたの

いつのまにか、その意味さえわからない

そう、

僕は、変わってしまったのだけれど

僕は変わってしまったのだけれど

夢とは

奈落の底に響く靴の音
月明かりを知らず 消えて
それでも歌をうたう

小さなころの僕は
その声ばかりを聞いて育った

月は白く
輝きは空の闇を曖昧にした
靴を投げたのは、
大人になった僕だった


『whale song』