福島原発事故メディア・ウォッチ

福島原発事故のメディアによる報道を検証します。

1,000以上あるというのは、1,000よりも多くあるということ

2011-03-30 12:48:47 | 新聞

20110401付記:3月30日NHK21時ニュースウオッチで、山口彰阪大教授はトレンチの放射線レベルを「1,000ミリシーベルト」と何のニュアンスもなく言い切っていた。

--------------

福島原発2号機付近、タービン建屋やそれに隣接する(そして<連通>する)トレンチで、たいへん強い放射線が出たことを28日-29日にかけて新聞各紙はいっせいに報じた。そのレベルは28日夕方の朝日新聞によれば「毎時1千ミリシーベルト」である。いったいこれはどれくらい危険なレベルなのだろう。「安全」「心配ない」「被害はない」というときには、一生懸命に(楽しげにそして大衆の愚昧をあざ笑うかのように)「健全な被爆量」との比較に余念がないマスコミも、危ない、害があるということになると急におとなしくなる。1,000ミリシーベルトはたとえば、マスコミの切り札であるCTスキャン、145回分(これだけのCTをやるには人生が何回あってもたらない)であり、「急性放射線障害。悪心(吐き気)、嘔吐など、水晶体混濁。」などが起り、さらに2,000ミリシーベルトになると「出血、脱毛など。5%の人が死亡する」レベルとなる(こちら参照)。だれも2,000なんていってないだろ-お前は根拠もない数値を持ち出して人々の不安をあおるのか!とあなたはお怒りですか?いいえ、1,000以上の数字を出すのはあながち根拠のないことではないのです。
というのも、朝日は同じ記事でトレンチの水について


『水の表面の放射線量は毎時1千ミリシーベルトを超えた。』

と言っています。超えた?では、どのくらい?朝日は答えてくれません。おそらく朝日にも答えられないのです。「おそらく」というのは、次のようなわけです。朝日は28日深夜の記事で以下のように書いています。

『2号機タービン建屋のたまり水の表面で26日、毎時1千ミリシーベルト以上を計測した。測定作業ですぐに針が振り切れたため、測定員は測定を中止して退避した。』

28日夕方の記事はタービン建屋に隣接するトレンチ(トンネルとたて坑)にたまった水の話をしているが、その水の計測でも、おそらく建屋内での計測と同じ事が起ったのではないか・・・・そして、その事実が建屋の水とトレンチの水は「同じのも」であり、放射性の水が建屋からトレンチに漏出したという状況を示唆するのではないか。しかし、朝日はトレンチの水について、どのような事情があって「1,000ミリシーベルトを超える」という推定値を生んだか、明示していない。どれくらい超えるか、という問いを発することもないし、以後2日経ってもその点を探索した形跡もない。そんな無理ですよ、まさか、記者がそんなところに放射線量を測りに行けませんよ、と朝日は反論するかもしれない。しかし、そんなことではないのだ。「1,000ミリシーベルトを超える」「1,000ミリシーベルト以上」とは、どれくらいなのか、人が近づいて計測することができないなら何らかの方法で計測し、明らかにすべきだ、と当事者たちに事実解明と情報公開を要求するのがジャーナリストの役割ではないのか。(そしてもし「人が近づいて計測することができない」と相手が言ったら、それならそんな場所でどうやってたまった水の排水作業をするのか、働く人たちの安全をどうやって確保するのか、確認する必要があるだろう。第一、排水作業をするためにも、水の放射線レベルの正確な計測が前提だろう。)

いま、ジャーナリストたちがこれをやらなければ、タービン建屋やトレンチの水の放射線量は、いつの間にか「1,000ミリシーベルトぽっきり」になってしまうのではないか。海への流出が懸念されるとき、たまり水の正確な放射線量を調べ、そして知っておく(調べられても隠されることがあるから)ことは絶対に必要ではないか。さもないと、もしものときの海洋汚染の推定などで、この「1,000ミリシーベルトぽっきり」が基本的な数値になってしまうことになるかもしれない。

付記:28日夕方朝日は、第1段落で「毎時1千ミリシーベルト」と、ぽっきりの表現をまず用い、そして第2段落になってはじめて「毎時1千ミリシーベルトを超えた」と書いた。第1段落の文で「毎時1千ミリシーベルト」を「毎時1千ミリシーベルト以上」としても文体的な支障は何もないように思われるが・・・。



最新の画像もっと見る