地形学とGIS / Geomorphology & GIS

ある研究者の活動と思考の記録

海岸段丘と海成段丘

2009-09-29 | つれづれ
都内の有名高校で地理を教えられている田代先生から,このブログに時々コメントをいただいています.

6/16に記したように,室戸の海岸段丘の解説を帝国書院の資料に書きました.その中にある「海岸段丘は海成段丘とも呼ばれる」という記述について,田代先生からメールをいただきました.高校の教材では,以前は海岸段丘の語のみが使われていたが,最近は海成段丘も使われる.しかし,河岸段丘や海岸平野を,河成段丘や海成平野と記した教材はない.用語の使い方は統一した方が良いのでは,という内容でした.

実は僕の最初の原稿では,海岸段丘の語のみを使っていましたが,帝国書院の担当の方から,海成段丘を使う例もあるので併記してほしいと言われました.確かにそうだと思い,併記しました.

この件を少し考えてみました.まず,海岸ではなく海成を使うと,位置ではなく成因による定義になります.これには妥当な面があり,たとえば標高数百メートルの場所にある海成(海岸)段丘は,比高からみて海岸とは呼べません.上の画像はGoogle Earthによる奥尻島の鳥瞰図で,矢印で示した最高位の段丘面は標高500m台です.

同様の状況は,河成(河岸)段丘についても生じますが,河成段丘の語は,なぜかあまり使われません.ネット上での言葉の登場頻度をGoogleで調べると,次のようになります.

海岸段丘=15300件,海成段丘=26400件,比率約3:5

河岸段丘=55900件,河成段丘=6090件,比率約9:1

また,地形学の論文や学会発表では,扇状地,河岸段丘,沖積平野といった河川が作る地形の総称として,河成地形の語がしばしば使われます.しかし,海成地形という語はほとんど使われません.耳で聞いたら,海底地形と間違えそうです.

結局,専門用語であっても,論理性や一貫性を考慮して使われるとは言えないようです.海成段丘の語は,単に相対的な使用頻度が高いので,高校教育にも入ってきたと考えるべきでしょう.

教育現場を混乱させてしまうのは,地形学の研究者として申し訳なく思いますが,この種の問題を意識的にコントロールするのは,とても難しいと思います.

余談になりますが,昔,「火星の河成地形」という学会発表をやりました.ウケたので喜んでいましたが,今思うと,火山も取り上げて「火星の河成・火成地形」とすべきでした.

The reality that will bring us all together.
Oh, have you heard the word?
(Have You Heard the Word / Fut)