2015年3月27日付朝日新聞 12面 社説
安倍首相が参院予算委員会で自衛隊を「我が軍」と呼んだことが
波紋を広げている。
自衛隊と他国軍との共同訓練について問われ、「『我が軍』の透
明性を上げていくことにおいては、大きな成果を上げている」と答
えた。
これが批判されると、菅官房長官は記者会見で「自衛隊は我が国
の防衛を主たる任務としている。このような組織を軍隊と呼ぶので
あれば、自衛隊も軍隊の一つということだ」と述べ、首相発言を追
認した。
だが歴代政府は「自衛隊は、通常の観念で考えられる軍隊とは異
なる」としてきており、憲法上、自衛隊は軍隊ではない。
単なる呼び方の問題ではない。自衛隊の位置づけは憲法の根幹に
かかわる。
首相が国会で「我が軍」と言い、官房長官が修正もせずに首相を
かばうのは、憲法の尊重・擁護義務を負う者としてふさわしい所作
ではなかろう。憲法によって権力を縛る立憲主義の原理をないがし
ろにするものと言わざるをえない。
たしかに国際的には自衛隊は軍隊の扱いを受けている。だがそれ
は自衛隊員が国際法上の保護を受けるためだ。他国軍との共同訓練
に関する答弁だったとはいえ、国会では自衛隊と呼ぶのが当然では
ないか。
憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認をはじめ、一連の安
保法制の議論を通じて、安倍政権には憲法軽視の姿勢が際立ってい
る。
日本の安保政策は、憲法との整合性を慎重に考えながら組み立て
られてきた。9条で「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」
としつつ、自衛隊が合憲とされるのは「自衛のための必要最小限度
の実力は認められる」と解釈したからだ。
1967年に佐藤栄作首相が「自衛隊を、今後とも軍隊と呼称す
ることはいたしません。はっきり申しておきます」と答弁した基本
原則は、簡単に覆せるものではない。
内閣府の最新の調査では自衛隊に「良い印象」と答えた人が92
・2%と過去最高になった。東日本大震災で黙々と作業に励む隊員
たちの姿は、国民の目に焼き付いている。あえて軍と呼ばず、抑制
的な姿勢に徹してきた自衛隊への評価の到達点ではないか。
持てる力をむやみに振り回さず、海外の紛争と一定の距離をとっ
てきたからこそ、得てきた信頼がある。その確かな歩みの延長線上
に、国民や国際社会の幅広い理解を得られる活動のあり方を描くべ
きだ。
こちらは2006年5月6日から毎日更新しています。
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